勇者転生
俺の名前は翔馬。
霧坂 翔馬だ。
だけど、今の名前は違う。
今の名前はシュウサ・グレイス。
元高校3年生が転生した勇者だ。
ある日、突然起きた大地震によって引き起こされた津波によって死んだ俺達は、剣と魔法の世界に転生した。⋯多分ね。
金曜日の早帰りで浮かれて仲のいい友達と海に行ってたらそのまま波にさらわれちゃった。冷てえ!っと思ったらいつの間にかオギャってた。
元々転生モノとか大好きだからよっしゃ転生だ!チート来いって思ってた。
3歳になるまで自分の将来を夢見てたんだけどさぁ、翌々考えたら俺死んでねってなって。
まだまだみんなでやりたいことがあったし、何なら次の日俺の誕生日だったし。
みんなとまた会いたいなーって思ってたら、
フツーにみんないました。
昼寝するために山に行ったら俺以外全員揃ってた。それに気づいたときの俺の顔はすごいことになってた思う。みんなのうちの一人がまだ笑ってるし。
10歳になったとき、俺が勇者だと判明した。
そこから鍛錬を積んで、16歳にこの世界を脅かす魔王を討伐する旅に転生したメンバーで出た。
転生したのは俺を含めて5人。
一人目は俺。
あとの4人は⋯⋯あ、ちょうど起きてきた。
リビングの端にある階段から足音が聞こえる。
「ふあ〜ぁ、ねむい」
半目を擦りながら猫背で降りてきたのは悔菜。
同い年の元高校生、要は転生者だ。
元々身長は大きめだった悔菜は背が低くなってしまったらしい。
詳しい数値を聞こうとすると殺されそうになるけど、夜な夜な「165かぁ」って聞こえてくるから165なんだろうな。
あ、ちなみにいまだに俺の痴態を笑ってるのこいつです。
「おはよう悔菜」
「あ、おはようシュウサくん。今日も早いね」
そういって大きなあくびをしている彼女を見ていると、戦闘のときに獅子奮迅の活躍をしているとは考えられない。
この世界にスキルというものがあるとはいえね。
ちなみに悔菜の戦闘スタイルは持ち前の動体視力の良さで敵の攻撃を躱しながら重い一撃を喰らわせる、いわゆる避けタンクと言うやつだ。
「まだ私達以外起きてないの?」
⋯⋯。
「ん?どうしたのシュウサくん」
「⋯取り敢えず下見て」
すごいものに乗ってるから。
「下?下がどうし⋯」
悔菜はそこで気づく。
自分が立っている場所は床ではないのだ、と。
床にうつ伏せになっていた、男なのだと。
「ど、どいてくれ⋯」
その男が発した言葉に驚いた悔菜の声が、今日の村の目覚ましとなった。
なお、現在は朝4時である。
迷惑極まりないな。
「どうした!何かあったのか!」
「今の声は悔菜ちゃん?怪我はない?」
階段からドタドタと大きな音を立てながら降りてきたのは
同じ転生者の飯島 直斗と三那花 実瑠だ。
二人の今世の名前はユーサ・ダルジェントとカキア・ブルームという。
ユーサは優れた斥候。スキルも暗殺や情報収集に適したものが多い。かっけえ。
カキアはヒーラー兼魔術師だ。スキルは魔法系統で全属性を扱い、更に回復魔法まで使いこなす。
「二人共、安心してくれ。特段何かあったわけでもないし、誰かが怪我をしたわけでもない」
「いや、でも⋯」
「この状況は⋯⋯⋯ねえ?」
そうなんだよなぁ。この部屋の惨状を見たら絶対何かあったと思うよね。
さあ!そんな部屋の状況をこの俺シュウサが解説しよう!
この部屋は23畳ほどの広さの部屋です。真ん中には五角形の大きめの机があります。普段ここでご飯を食べたり談笑したりしています。
この机に使った木も高級なんだよね。
奥の窓際には頑張って倒した大きな羊の魔物を使った大きなソファがあります。めっちゃ寝心地いいっす。
まあ普段は綺麗で落ち着いた部屋なんですが、そんな部屋に在るまじきものが2つ。男と女の死体だ。実際死んじゃいないんだけどね。二人は気絶しているだけだし。それだけなら他の二人もこんなに引いてる訳が無い。
じゃあ、なんで引いてるのか。
少し部屋を見てみよう。さっき言ったことを思い出してくれ。まず、この部屋は23畳ほどの広さ。
真ん中には砕け散った机と男の死体が一つ。
窓際には割れた窓ガラスと中の羊毛が爆発してるソファと、女の死体が一つだ。
これでわかっただろう。
部屋のものが大体全部壊れてるんだ。
どうやってこれ片付けよう。
しかも更に絶望的なことがもう一つ。
この家は借家なんだよね。
「と、いうわけで俺達は借金返済をしなきゃいけなくなりました。頑張っていきましょう!」
「「「「は〜い」」」」
勇者に夢見ている子供たちに謝らなければ。
ごめんな〜。勇者も借金で苦悩するんだ。
「あのよシュウサ」
「なんだいゴルト」
俺に話しかけてきたのはゴルト・ザ・ロウト。
前世での名前は我鹿 桐斗。俺の幼馴染だ。
スキルも防御から反撃、範囲攻撃までこなすうちの安定を担う要のタンクだ。
朝、床にうつ伏せになって寝ていたのは慣れない魔法を使って魔力枯渇だったんだよね。
それで声をかけてきた理由なんだけど⋯。
「敵多くね?」
「そうだね」
茂みの影に隠れて見ていると、眼前に広がるのはゴブリンの村を守る壁。そして壁の外側にいてもわかる大量のゴブリンの気配。
「これは苦戦しそうだね。カキア、みんなにバフを頼む」
「わかったわ。【筋力増強魔法】【隠密向上魔法】【魔力向上魔法】【俊敏向上魔法】」
カキアの魔法でステータスが上がったことを実感しながらもう一度壁内のゴブリンの総数を認識していく。
1,2,6,13,24,58,68,92匹か。
「92匹くらいだな」
「やっぱり結構多いな」
「ああ。しかもキングもいるぞ」
「キングまで⋯」
キングというのは、通常個体の何十倍も強い特異個体のことだ。ゴブリンキングでも10体いれば国を滅ぼす。
「この依頼、受けてよかったね」
「ですね」
こんな危険なのを放置しておくわけにもいかない。そう考えると悔菜達が家を壊したのは別にいいのか?⋯⋯それはさすがに無理だな。
「それじゃ、悔菜」
「わかってるよ」
悔菜は機敏な動きで壁の上に登る。
「なんの恨みはないんだけど。【コーチェス】」
空間を断つ一撃が開戦の狼煙となった。
シュウサ達のいる村の名前は、マジリハ村です。




