5 再挑戦
お目通し頂ければ幸いです。
きっとお気に召さない方もおいでだとお思いますが、中には好んで下さるお方もいらっしゃるのではないかと、希望を捨てずに書き進めたいと思います。
長く楽しんで頂ければ嬉しいです。
翌朝、何時になく早く目覚めたソラは近くの小川に向かった。晴れた初夏の朝の清流で若い体を清め、それまで着ていた襤褸服は捨てて、新たらしく買った衣服に着替えた。屋台で見繕った食料で腹を満たし、早めに教会前広場を遠く見下ろすことが出来る木の上に陣取った。
この世界の宗教は基本的に多神教だ。唯一無二の絶対神信仰もあるが、他の宗教を否定する教えはソラの生きるナムランでは多数派ではない。木にも岩にも山にも川にも海にも、何にでも神が宿る。トイレにも神様がいるという、日本的宗教観に似ていた。
この教会はそんな多神教の教会で世界中に多くの信者を有する“数多霊教会”で、人々にはタマ教会と呼ばれている。
スラム街にある建物はほぼ全てが木造だが、この世界の建物の多くは魔法によって作られる。
土を採取運搬してきて、その土を数人から大きな物だと数十人がかりで先ずは土魔法を使って球体にする。次に球体の中に風魔法で空気を注入し中空にする。それから床になる底辺、壁になる四方、天井になる上部を圧縮し平らにする。
更にドアや窓などの開口部に穴を明け、最後に土魔法で硬化する。これで一部屋の構造部の完成になる。これを基本に、上下に積み上げれば二階三階となり、左右につなげれば隣の部屋になる。長広い空間を作って廊下とする事も出来るし、小さな空間を作ってトイレや風呂などを作る。
屋根は士魔法で膨らましたままの丸い建物が多いが、それなりの建物になると主に見栄えの観点から瓦を張っていたり、ドーマを設けた物もある。
この教会はスラムにあって数少ない土魔法で作られた建物だ。孤児院を兼ねていて、それなりに大きい。外壁にも内部にも漆喰が塗られ、白い壁と緑の瓦屋根、そして屋根のトップに設置されている金色の丸い玉が数多霊教会の象徴だ。
この町の人間の容姿はほぼコーカソイドに近く、掘りが深く身長が高い。髪の色は魔力の影響で、正確には魔力の質で決まるそうで、あらゆる色が存在する。何色が良い魔力とかはないので髪色で差別される事はない。
ソラは髪も黒で、目の色も瞳孔が分かり難いほど黒い。黒目黒髪はこの世界ではかなり稀少だが、決して忌避されているわけではなく、むしろすべての魔力の色を含んでいるとして良い評価を受ける場合が多い。
ソラの身長は翔の感覚では大体百五十センチ弱で、やせ細っていて、この世界の十二歳にしては小さい。母が死んでから栄養状態が甚だしく悪かったのが影響したのだろう。顔立ちは、優しげな柔らかい印象を与えるなかなかの美形だ。身なりさえ良ければ上品にさえ見えるだろう。
ソラは人間だが、種族は人間の他にも精霊族と言われるエルフやドワーフ、ホビットと、麗人族と呼ばれるほ乳動物的特徴を持つ人種がいる。
この世界では人間種の人口が圧斃的に多い。その所為もあって人間種以外の精霊族と麗人族は、国や地方によっては差別や迫害を受ける場合がある。そんな地域では精霊族は差別用語で亜人と呼ばれ、麗人族は獣人と呼ばれる。
人間は大体六十歳が平均寿命だ。過酷なこの世界にしては寿命が長いのは光魔法と水魔法に回復と治療の魔法があるからだ。光魔法を持つ者はかなり稀少で、光魔法の回復や治療はその効果が高い。だから光魔法を使った回復や治療を受けると治療費も高くなる。水魔法を使う者は多いので、庶民は専ら治療費の安い水魔法使いの世話になるが、治療効果は光と比較すると大分低い。
人間の平均寿命が六十歳に対して、精霊族は三百歳、麗人族は二百歳位まで生きると言われ、彼らを総じて長命族と言う。
人間は短命な代わりなのか繁殖力が高く、従って人口が多い。長命族は子宝に恵まれる事が少ないので人数が少ない。
科学技術の発達していないこの世界では“数こそが力”の要素が強く、文明程度が遅れているので”力こそが正義“となり易い。
そんな事から少数派の精霊族や麗人族はどうしても弱い立場に置かれ、差別や迫害対象になることが多いのだ。
この国も精霊族や麗人族を迫害しているので、人間以外の人族を見ることはあまり多くない。
人族とは、人間、精霊族、麗人族を総称した言葉だが、この人族に対する者としてこの世界には魔族がいる。
数は精霊族や麗人族と比べても極端に少ないが、体格、体力、身体能力、魔力共に人族より勝っている。獰猛且つ残忍で狡猾な性質を持つ事から、魔族は大きな脅威となっていて、人族は古くから何度となく魔族の襲撃を受けている。
魔族は極めて少数で、尚且つ頻繁に居住地を変えるので、人族はこれまで魔族に対して大きな戦を仕掛けることは出来ていない。
歴史上大きな戦争は殆どが人間同士によって引き起こされてきた。数の多い人間はあちこちで集団を作り、争いを繰り返してきた。部族間の争い、貴族同士の争い、国家間の戦争や、宗教戦争などだ。
良い意味でも悪い意味でも、この世界の歴史を動かしてきたのは人間なのだ。
ソラは木の上から、道行く人や教会に出入りする人のスキルやステータスを見ていた。百人以上を見たが、光の種族は一人もいなかった。光の種族とは何だろう? その疑問は深まった。
階位は高くても十代後半で、スキルを持っているのは五十人に一人位、特技持ちは三人しかいなかった。そして今日見た中でのスキルレベルの最高値は六だった。
大勢のステータスを見た結果、蛇の実力はなかなかのものだったし、五人組もそこそこ強いと分かった。しかしそれも昨日と今日で終わりだ。
それから間もなく、あいつら五人がいつものように雁首を揃えてやって来た。ソラは早速遠見のスキルの収納を試みた。
成功した。やはりスキルか特技を収納出来るのは一日に三回までのようだ。ソラは遠見のスキルを自身の中に取り入れてから木を下りた。
これで階位を上げることが出来ればあいつらは怖くなくなる。トラウマから脱する為にも、母の大事な物を取り出す為にも、何より生きていく為に、一度あいつ等は叩いておかなければならない。そう決心しソラは南の草原に向かった。生まれて初めての魔物狩りの為に。




