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第47話 茨の檻

「……()()()()()か」


 ラーラマリーの首を掴んだまま、笑みを消し目を眇めたアドロは、低い声で呟いた。


 片手で締めたれた首には、彼女を守る鎧のように、柔らかく輝く薄い()()()ができている。


 その膜が邪魔をして、アドロは一定以上の力を込められないらしく、首を掴まれている恐怖で呼吸が浅くなってはいるが、死を感じるような直接的な苦しみは、ラーラマリーには届いていなかった。


 国を覆う魔法陣の効力と結界が消えてもなお、別れの時、ジークヴァルトが口付けと共に贈った()()()()()()()()()()()()守護の魔法が、彼女を守ってくれていた。


(……ジークが……守ってくれてる……! 私が、頑張らなきゃ……!)


 首に触れる手を振り解きたくなる衝動を抑え、すぐ目の前にいるアドロへ、ラーラマリーは残された欠けた刃だけでも突き刺そうと、咄嗟に柄を握る手に力を込める。


 だが、強張った筋肉の微弱な動きを見逃すアドロではなく、もう片方の手で剣を持つラーラマリーの手首を掴むと、ぐんと高く上へ捻り上げた。


「勇ましい事だな。守護の魔法は、完璧ではない。同等──あるいはそれ以上の魔力を込めれば、容易く崩壊する脆弱な鎧だ。こんなふうに──」


 首を掴んだままの手に、アドロが渦巻くような魔力を集め、ゆっくりと力を込める。


 みし……と軋むような感覚と共に、ラーラマリーの息が僅かに詰まった。


「……ぅ……」


 思わず小さな声を漏らせば、アドロは興味深そうに彼女の苦悶の表情をじっと見つめる。


「──ああ、そうか……そう言えば、お前達は愛し合っているんだったなぁ。単なる余興のつもりだったが……兄上を弔う木の下で殺し合うお前達は、本当に愉快だった」


 足が宙に浮いてしまいそうな程に腕を目一杯引き上げられ、首を掴まれたままのラーラマリーに、アドロは再び愉悦の滲む笑みを浮かべ、悍ましい吐息を混ぜながら言った。


「……()()()を思いついたぞ」


 言葉が放たれた瞬間、掴まれたままのラーラマリーの足元、ゴゴゴと地響きがして屋上の石畳が割れる。


 割れ目から黒い魔力が吹き出したかと思うと、それは徐々に数多の茨に形を変え、うねり絡まり合いながら、ラーラマリーの周囲を鳥かごのような形に覆っていく。 


 アドロはその中へラーラマリーを突き飛ばし、彼女が立ち上がって逃れようとする寸前、完全にその出入り口を茨で覆い尽くし、出来上がった漆黒の牢の中に閉じ込めた。


「出して!!」


 ラーラマリーは黒い棘が手に刺さるのも構わず、茨にしがみ付き必死で魔力の檻から出ようともがく。


 だが茨は鋼鉄のようにびくともせず、ラーラマリーは顔色を悪くしながらも、その隙間からアドロを睨みつけた。


 アドロは小馬鹿にするような短い笑い声をあげた。


「やめておけ。守護の魔法以上の魔力を込めた茨の檻だ。触れれば怪我をするだけだぞ? まあ……()()()()()()()()()()()()なんだがな」


 目を細めたアドロの言葉と同時に、茨の檻がぎし、と軋む。


「その檻はなぁ……徐々にお前に向かって迫ってくるぞ。さながら囚われの姫だ。王の血を引くお前にはぴったりだろう? ここまですれば、ジークヴァルトも()()()私と遊んでくれるはずだ。ああ──来たぞ。見ろ!! お前の愛しい()()()()だ!!」


 ラーラマリーは、興奮で絶叫したアドロの視線の先、赤黒く夜に染まろうとしている空を見た。


「──ジーク」


 目に映ったのは、大きな翼を広げ、赤髪を靡かせ、彗星のような速さで空を駆けてくるジークヴァルトの姿。


 グシャリと顔を歪め、ラーラマリーは思わず消え入りそうな声で名を呼んでしまう。


 悔しさで胸が押しつぶされ、目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。


(間に合わなかった……。本当に、間に合わなかった……!! 優しいジークを……アドロ様に……友達に向かわせてしまった……取り込まれたネロ様の魂に、気付かせてしまった……!!)


 ぐんぐんと距離を詰め、ラーラマリーが泣いているのが見えたのだろう。


 濃紺の外套をはためかせ猛進しながら、ジークヴァルトは苦悶に顔を歪め、咆哮をあげた。


「ラーラマリー!!」


 その声に、ビリビリと大気が震える。


 瞳孔を縦に伸ばしたジークヴァルトは、彼女を捕える茨の檻を壊そうと、上空から輝く魔力の魔法陣を放つ。

 

 だが、アドロはそれを即座に撃ち放った黒い魔力で妨害し、衝突した二つの拮抗する強い魔力は、空中で轟音を鳴らして破裂し、爆風を起こした。


 割れた石畳からは粉塵が立ち上ったが、ジークヴァルトの姿を決して見逃すまいと、アドロが黒い魔力で風を起こし、土煙を巻き取り視界を晴らす。


 その瞬間、アドロの目の前まで迫っていたジークヴァルトは、濁流のような激情をその金の瞳に映したまま、すでに魔力の剣を振り抜いていた。


「──っ最高だ!!」


 アドロはこぼれ落ちそうな程に瞳を見開き、荒ぶる歓喜もそのままに、自身の胸に腕を突き立て、体の中の闇に飲み込んでいた大剣を引き抜くと、その剣を魔力で漆黒に染め、ぶんと大きく風を切りながら、ジークヴァルトの刃を受け切り結ぶ。


 ドン! と地が割れるような衝撃が生まれ、塔が揺れる。


 刃をぶつけ合ったまま睨み合う二人は、久々の友との再会に、全く異なる表情を浮かべていた。


「アドロ……。ラーラマリーを、返して貰うぞ」


 低く、だが悲しみの混じるジークヴァルトの呻きに、アドロは目一杯、口角を吊り上げた。


 

 

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