表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

序章 柚香の朝


 柚香(ゆずか)はベッドから頭だけ持ち上げてまわりを見た。


 うす青い朝の光の中にぼんやりと浮かぶ見慣れた部屋。窓の外からは小鳥のさえずりが聞える。さわやかな初夏の朝だった。


 頭をめぐらせて隣のベッドを見る。


 そのベッドは一分の隙もなくきちんとベッドメイクされていた。けれど双子の弟、柚司(ゆうじ)の姿は見えない。


 几帳面なあの子らしい、と柚香(ゆずか)は思い、頭を枕につけてふたたびタオルケットにくるまる。


 夕べも一睡も出来なかった。


 明かりを消してもすこしも眠くならなかったのだ。闇の中で眼だけが冴えて、いろいろなことを思い出してしまう。そして明るくなった今になって、ようやくとろとろと眠くなって来たのだ。


 とんとん。


 突然のノックの音に柚香はびくっと体を震わせた。ようやく眠れると思ったのに!


柚香(ゆずか)? 起きてる?」


 そっとドアが開く。母親の心配そうな顔。


「起きてる」


 タオルケットの下からむすっと答える。


「そう。どう、今日は学校に行けそう?」

「だめだと思う」

「どうして」

「やっと眠くなってきたから」


 母親はそっとため息をついた。


「そう。わかったわ。無理はしないで」

「うん」

「食事はキッチンに用意しておくから。眼が覚めたら食べてね」

「うん」

「じゃあ、お父さんとお母さんは仕事に行くけど。ひとりで大丈夫ね?」

「たぶん」


 母親はまだ何か言いたそうに口ごもった。


「なに」


 柚香(ゆずか)の短い問いに、母親はおずおずと答えた。


「あのね、柚香(ゆずか)、お部屋のことなんだけど」

「なに」

「あのね、いつまでも同じお部屋に柚司(ゆうじ)のベッドと一緒というのは、ね。あなたも中学生になったのだし」


 柚香(ゆずか)はベッドから半身を起して叫んだ。


「いいのっ! わたし達は双子なんだから。ふつうのきょうだいじゃないんだから。それにこの部屋はわたしとユウの部屋なの。お父さんが言ったじゃない、ここは二人の部屋だ、仲良く使いなさい、て」

「でもそれはずっと小さい時の」

「変わってない! 変わらないの! わたしとユウは!」

「そう、そうね。そうだったわ。ごめんなさいね」


 言葉の最後は涙声になっていた。ドアが閉じるパタンという音。母親を泣かせてしまったことに柚香(ゆずか)の胸はズキンと痛んだ。


 自分は何をしているのだろう。


 学校にも行けず、母親を悲しませて。

 柚香(ゆずか)はふたたびベッドの中に潜りこみ、右手の親指の付け根を強く噛んだ。そうしないと叫び声を上げてしまいそうだった。


 タオルケットから顔を出して隣のベッドを見た。


(ユウ)

(先に行ったんだよね)

(でもいい。許してあげる)

(一緒だものね、離れていても)

(あなたはわたし。わたしはあなた)


 そして柚香(ゆずか)は小さくつぶやいた。


「ユウさえいれば、わたしはそれでいいの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ