噂ってのは広まるのが早いのよ
極悪ホステスの第五話です。
楽しんでいただけると幸いです。
「ふん、痕が残ったわね。よくやったわマチルダ」
「いえ...しかしよろしいのですか?背中にこのような...」
お風呂上りに鏡を見て私は微笑んだ。イイ感じの打撲傷の痕。手当てしなかった甲斐があった。
これで舞踏会に出れば皆は嫌でも私の背中を見るだろう。そして噂をするはずだ。「誰が痕を?」と。
誰がやったかを示すのは簡単。私が選んだ相手にビクリと震えればいい。
例えばヘレナにそれをすれば、公爵やシスコン兄弟はメイドたちを詰って犯人捜しをするだろう。
そして最もヘレナに似ているメイドを犯人にするはずだ。そう、アンタよ。マリー。
私のドレスを裂いて笑ってたの私覚えてますからね。ヘレナの指示で。
私はそう考えつつ、今日も美しく且つ清楚にクリーム色の生地にライラックの花柄の生地が縫い付けられているドレスを着、髪をストレートに整え、濃い茶色のリボンでカチューシャのようにし結んで、淡いメイクをし、優しいスイートピーの香水を振りかけて、柔らかい明るい茶髪を確認し、ソバカスはあえて見せて素朴さを出してメイクを完了させた。
カンペキな美しさはヘレナが持っていればいい。私は優しくて可愛らしい奥さんにしたいような素朴な女であればいい。
男ってこっちの方が好きだしね。
既に何人かの使用人は味方につけた。あとは優しさと親切で何人かのメイドもね。あとは奥様も。
そういえば最近ヨアンが妙にかまってきている。
正直クソウザい。私金髪の男って嫌いなのよね。昔付き合った浮気性の金髪男思い出すから。
ナサニエルも公爵も金髪。あー嫌。奥様は茶髪だからまあいいか。ヘレナも金髪。クソウッザ。
茶会なんてめっちゃ嫌だから仕事を理由に断っていたら仕事をなくして呼んできた。ウザい。
それでずーーっとヘレナの話。私なんで呼ばれたわけ?興味が無かったからぼんやり庭園見てたら「クラリスはどう思う?」って聞かれたから「なにがですか?」って答えちゃった。
ヘレナびっくりしてたわね。なぜかヨアンが今度劇場へ行くって話したから、「いってらっしゃいませ」って言ったらヨアンが困ったようにこう言ってきた。
「君も行くんだが、劇は嫌いか?」
「行ったことがないのでわかりません」
「.....」
なにこの沈黙。私なんかやった?でもクラリスの記憶を探っても行ったことないし仕方ないわよね。そうしたらヨアンがまた聞いてきた。
「ほかは?どこか行ったことくらいあるだろう?」
「いいえ、どこにも。わたくしは実家ではメイド扱いでしたので」
ああ、妹のベティは両親とたくさんでかけてましたからベティにお聞きなさって。というとヨアンは困ったように考え込んでしまった。そうしたら今度はナサニエルが口を開いた。
「では喜劇でも観に行こうか。あれなら分かりやすい」
そうしよう、と決まった中私はめんどくせーとしか思わなかった。
そして気づいた。舞踏会と食事の件から半月。これは噂が社交界に届いたなと。
案外早かったわねと思いつつ私は何も分からないフリをして微笑んだ。
お読みいただきありがとうございました。
今回は短いので次は今日の夕方に更新します。