男はメンツの生き物なのよ(改)
極悪ホステスの第四話です。
楽しんでいただければ幸いです。
8月19日 少し加筆しました。
「クラリスはドレスは何着持っているんだい?」
「3着でございます」
ナサニエルの質問に正直に答えるとナサニエルは「へえ」と興味なさそうに言い、デザイナーの方を見、「カタログを見せてくれ」とカタログを手に取った。
ヘレナは何着持っていたかしら、と考えている間、彼らはああでもない、こうでもないと相談していた。
私にカタログを見せないあたり、ヘレナと被るのが困るから地味なのでも選んでいるのだろうと察し、私はめんどくさくなってトルソーに飾られている空色のレースのついたドレスと真っピンクのドレスを見た。
お金持ちの友達が嫌がらせで私を呼んだ時に着ていたドレスに似ていて私は思わず「ああいうのは趣味が悪いですね」と呟いた。
そして視線を感じ見ると4人がこちらを見ていた。
「どのドレスだい?」
「あの空色のドレスとピンクのドレスですわ。私をいじめていた方がよく着ていたもので。すみません」
「では君はどんなドレスが好きなのかな?」
ナサニエルは私にカタログを差し出した。私はパラパラとめくってみたが、大したのは載っていなかった。
ふうん、安い店でも選んだのかしら?と考えているとナサニエルが「気に食わないかい?」と笑顔で言った。
「君に似合いそうだと思ったんだけどな」
「そうですね、このメイドのようなドレスが気に入りましたわ。動きやすそうでお掃除がしやすそう」
笑顔で答えてみるとナサニエルは初めての私の反撃に驚き、「違うカタログを持ってきてくれ」とデザイナーに言った。
服など分かるまいと侮っていたのだろう。毎日ヘレナのドレスを見ていれば分かるっつーの。
デザイナーは今度は奥様やヘレナが普段見ている装丁のカタログを差し出し、ナサニエルは私に「どれでも好きなのを選んで。なんなら全部でもいいよ」と笑顔で言った。
こいつバカか?同じデザイナーにランク落としたカタログ見せろって命令したの?私がウィリアムズ公爵家次男の嫁って周知の事実なのよ?
私は心の中で呆れつつ、ナサニエルに言った。
「ではお言葉に甘えて全部いただきますわ」
「え?」
「お義兄様のせっかくのご提案、断るわけにはいきませんもの」
私の微笑みにナサニエルは頬を引き攣らせ、「喜んでもらえてなによりだよ」と小切手を切った。
ほらよ、とりあえずメンツ立ててやったよ。私に感謝しな。これでデザイナーも『なーんだ、最初のはジョークか』って思ってくれるわよ。たぶんな。
わかんないって人に説明すると、客観的に見て、自分の妹には高級なドレス着せて着飾って、嫁いできた嫁には自分の妹よりもランク落とした安いドレスを何着か買ってやる家ってどう思う?ってことよ。
悪役令嬢ものでこういう展開よくあるけど、あれってはたから見ればただの嫁いびりなのよね。
デザイナーや宝石商から見れば『うわーこの家、一家そろって嫁いびりしてるんだ怖ー』ってなるの。
ーで、デザイナーや宝石商には一応顧客だから守秘義務があるけど、バックヤードで店員同士で噂するのは問題ないわけ。
そこを一般客が聞いたら?ほかの店員が聞いたら?一般客がもしもどっかの貴族の家の使用人だったら?ってことよ。
貴族は現実世界で言えば芸能人みたいなもん。噂はすぐに広まるわ。
皆も好きでしょ?芸能人のスキャンダル。
だから私がナサニエルのカワイイジョークにしてあげてユーモアたっぷりの義兄ってことにしてあげたの。褒めて欲しいわよね。
私はそう思いつつカタログをパラパラめくり、心の中で満足した。うん、ヘレナが着ているのとだいたい同じ装飾とデザインね。数もまあ同じくらいでしょうよ。
デザイナーを帰し、次はアクセサリーだと宝石商がやってきて、アクセサリーを見せた。ナサニエルが「何か気に入ったものはあるかい?」と尋ねたので私は「ヘレナ様はどのようなアクセサリーをどれくらい持っていらっしゃいますの?」と矛先を変えた。
ヘレナは慌てていたが、私が知っている限りの数と種類を答え、私は「そうですの」とだけ言って、今度はヨアンに矛先を向けた。
「わたくしはヘレナ様ほど美しくはないのでそれほどはいりませんわ。ヨアン様、あなたが選んでくださいますか?大切に使いたいんですの」
そう言ってみると急に矛先を向けられたヨアンは焦り、しばらく迷っていたが、先ほどヘレナにアクセサリーの数と種類を聞いたためにショボいものを選ぶわけにはいかなくなったのだろう、大粒のトパーズのネックレスやらサファイヤやダイヤのネックレスやらを5点ほど選んで私にくれた。
そこでちょうどよく奥様が「クラリス、靴は?」と尋ねたので「1足持っております」と答え、今度は靴になった。
そうして靴に靴下に下着に扇や帽子に手袋、化粧品に化粧水にクリームに手鏡に香水にハンカチにとすべてそろえ、最後に私が「お義母様、髪を切ってもよろしいでしょうか?もう3年も切っていなくて...」と尋ねると舞踏会でのボサボサの髪の毛を知っている3人は「髪結いを呼んである」と言って出て行った。
私はやってきた髪結いにクラリスの顔に最も似合う髪型を選び切ってもらった。
クラリスは顔が小さく、目は少し小さいが肌が白く、ぱっちり二重でまつ毛も長く鼻の形もいいし輪郭も卵型で綺麗だ。だからお嬢様スタイルが似合う。
ストレートの髪ならオリエンタルドレスを着た時に結うこともできる。
ホステスのメイクとヘアスタイルの技を舐めんなよ、と思いつつ髪結いが去った後、一度風呂に入り、マチルダに買ってもらった宝石類のうち、一番壊れやすそうなものを選びそのルビーのネックレスを解体して粒が連なっているチェーン部分を半分とデカいルビーを渡した。
「あの、クラリス様?」
「これでもう少し私に尽くしてくれる?私の地位が上がるまで」
誰にも言わないようにというとマチルダは頷き、ルビーをポケットに仕舞った。
そうしてドレスに着替え、今日初めて呼ばれた夕食へ向かうためにメイクとヘアメイクをした。素朴かつ清楚に、でも可愛く。
髪を丁寧に結い、化粧を顔に施して、確認し買ってもらったばかりの淡い黄色のドレスとレースのついた明るい色の靴を履き、手袋をつけて広間に向かった。
廊下を歩いている際中、メイドや使用人が驚いてこちらを見ているのを見、これならまあ買った甲斐はあるでしょう?ナサニエル。と私は心の中で密かに笑った。
「失礼いたします」
私が広間に入ると給仕人も公爵もナサニエルもヨアンも奥様もヘレナも驚いていた。
公爵が「クラリスか?」と尋ねたので「はい、変でしょうか?」と照れた女を演じてみると「いや、良く似合う」と咳ばらいをしながら言い、給仕人に席へ案内させた。
ふーん、下座ねえ。そう思って2席開けた先のウィリアムズ一家の食事風景を見、まあいいやと放っておくことにした。
どうせ給仕人が噂を流す。情報は下から上へ流れるって知ってますかお義父様?料理の質もすべて流れるのよ、と2ランクほど下の肉を食べつつ私は余裕だった。
給仕人にもめちゃくちゃ丁寧に接した。私に好意を持つようにね。
当たり前だ。伊達に銀座でホステスなんてやってない。男は面目の生き物。
この噂が家に届くころには既に社交界では大きな噂になっている。メンツを潰されるのはまあ早くて1か月くらいかしらと計算し、私はパサついた肉を噛み締めた。
お読みいただきありがとうございました。
次は明日に更新します。