とりあえず準備しなきゃね
極悪ホステスの最新話です。
楽しんでいただけると幸いです。
最も効果的な嘘の吐き方って知ってる?それと相手を窮地に陥らせる方法。
まずは嘘なんだけど、1つ嘘を吐くなら他は全部真実を話さないとダメ。
つじつまが合わなくなるからね。
私の場合はもう演技してるから真実しか話せない。
そして相手を窮地に陥らせる方法だけど、これはね、相手の言ったことをバカ正直に鵜呑みにして信じるフリをするの。
私は今はバカ正直なアホ。みんなそれを知っている。
それが相手がこういったのでって言えばどうなると思う?
もう答えは分かるわよね。
「今日はありがとうございました、グロリア様」
舞踏会でグロリア様が帰るという時に私はお礼を言ってお辞儀をした。グロリア様は「令嬢がそんなメイドみたいなお辞儀をするもんじゃありませんよ」と眉を顰めたが、私は慌てて謝って言った。
「すみません、うっかり...家ではこうですので」
実際そうだから誰も違うとは言えないわよね。それに私のバカさ加減はもう舞踏会に出てる面々に知れ渡っている。
ウィリアムズ公爵家の人たちの方を見ると顔を引きつらせていたわ。グロリア様は溜息を吐いて私の演技に付き合ってくれた。
「あなたを教育するのは骨が折れそうね。明日、午前10時にオルコット公爵家にいらっしゃい。くれぐれもそんな庶民のようなドレスを着て現れないように」
「はい、グロリア様」
グロリア様はそう言って目で私に合図して去って行った。
内容は「これぐらいでよろしくて?」私は頷く代わりに嬉しさのあまり飛び跳ねそうな笑顔をしてグロリア様を見送った。
そしてウィリアムズ公爵家の人たちの元へ行き、こういった。
「明日からグロリア様に作法を教えていただきますのでお先に失礼します。皆さまどうぞ楽しんでくださいませ」
私は先ほどグロリア様に言われたとおりに慣れない感じ、でも一応習ってますって感じの令嬢の挨拶をして会場を出た。
どうせ馬車も違うしヨアンは追ってこないだろうって思ってたら「待て、クラリス」という声がして私は立ち止まった。
見るとヨアンがいてなんだよって心の中で悪態を吐いた。
おめーに今構ってる暇ねえんだよって思っているとヨアンは「私も一緒に帰ろう」と言ってきた。
「え?でも、馬車が違うではありませんか」
「一緒の馬車に乗ろう」
「それは構いませんが...」
私は早く帰りたかったので「では行きましょう」とヨアンを無視して先に歩いた。
腕を組むのをすっかり忘れていた。でもしょうがないわよね。今まで腕組んだことないんだし。
ヨアンは困ったように周りを見、私の後をついてきた。
なんか笑い声が聞こえる。まあどうでもいいわ。どうせいつもこういう扱いだったし。
知ったことではないと私は馬車に乗り、ヨアンが乗り込むのを待って、家に帰るように言った。
運転手は驚いていたけど私が「明日が早いのよ」とせかして急いでもらった。
通常、舞踏会は夜中の3時ごろまで開かれる。ーで、グロリア様と私が帰ったのが0時前。
つまり今日のヨアンは舞踏会の一番楽しい時間をフイにしちゃったってわけ。私はそれが不思議だった。
「ヨアン様、よろしいんですの?こんな時間にお帰りになって」
「妻を1人で帰らせるわけにはいかないだろう」
そういうヨアンは慣れない笑顔を向けてきた。ブチキレしたくらいでご機嫌伺いしてくんじゃねえよ。
一貫した態度を取れよ。まったく女々しい男だな。
2年くらいそうしておけばそのうち皆そういうものだって扱うわよ。
私はめんどくさくなってそれ以上話をするのをやめて、窓の外を見た。
この世界って電気ないから真っ暗ね。でも月の光が綺麗。
そう思っているとヨアンが話しかけてきた。なんだよウゼーな。
「君はグロリア嬢と何を話していたんだ?ずいぶん楽しそうだったが」
「グロリア様ですか?」
私はそこでピンときた。ヨアンは公爵に言われて追ってきたのだろう。そういえばグロリア様と話してる間周りには誰も寄せ付けない感じで話していたなと思い出し、私は言った。
「グロリア様に美しさと気高さと気品を持つにはどうしたら良いかを聞いただけですわ。わたくしってばまるで庶民のようでしょう?恥ずかしかったんですけどそう打ち明けましたらグロリア様、寛大にもお教えくださるって言ってくれまして。それで明日から作法の勉強にオルコット公爵家に向かうことになりましたの」
「そうか...まあ、その方がいいだろうな」
うるせーよシスコン金髪野郎。私は笑顔で「精進いたしますわ」と微笑んだ。ヨアンは私の方を見、「だが、」と続けた。
「君の笑顔はその、野山に咲く花のようで、それなりに可愛らしいとは思うがな。今日の舞踏会で会った友人のアディンセル侯爵家のマシューとその話になって、『大事にしろよ』と言われたよ。君はマシューと会ったことがあったかい?」
「ええと...」
実は覚えていたけどアホなんで分かりませんという風に上を向いて考えていた。
あの黒髪に紫の眼の人でしょ。知ってるわよ。私に唯一手を差し伸べた人。
目を見たら正義感が強くて愛情深くて頭がすごく良かった。気を付けないとと思ってたから覚えている。私はピンと思いついたようにヨアンに尋ねた。
「もしかして前の舞踏会の時にわたくしに手を差し伸べてくださった方ですか?黒髪の紫の眼の」
「そう」
「素敵な方でございました。ああいけない、お礼を言うのを忘れておりました。ヨアン様、マシュー様にお礼することできます?」
「家に呼ぶかい?」
「よろしいんですの?ありがとうございます」
私はニコリと笑い、珍しいこともあるもんだと思った。
ヨアンとこんなに穏やかに長く話したのは今日が初めてだった。
これはなにか裏があるかもしれないと思い、私は明日、グロリア様に会った時に今日のことを話すつもりでいた。
私とグロリア様が話していた内容は主に3つ。1,気品と気高さについて、2,教養とたたずまいについて、そして3,どうにもきな臭いわがウィリアムズ公爵家とオルコット公爵家の関係について
必要のないことは話さない。これは社交界でもお水でも鉄則。私は急に優しくなった夫に笑顔でグロリア様に習った表面だけをなぞりながら話し、重要なことは話さなかった。
そして屋敷に着き、私はヨアンに「おやすみなさいませ」と挨拶し、さっさと部屋に戻った。
あー疲れた。マチルダが沸かしておいてくれたお風呂に浸かりながら、私はふと、これはヘレナもグロリアの家に連れて行くことになるかもしれないと考えた。
公爵的には私よりも可愛い娘のヘレナがグロリア様と関係を持ってくれた方が嬉しいもんね。
-でも残念、それもう私グロリア様に伝えてあんの。
もしヘレナが一緒についてきたときは私たち2人はグロリア様に徹底的に詰られ、鞭で打たれて教育されることになっている。
私はそんなもんで折れるタマじゃないけど、孤児院でシスターにちょっと鞭打たれたらすぐ泣いて、ウィリアムズ公爵家に養子に入ってそれからは甘やかされ放題のヘレナ、アンタは耐えれるかしら?
私は泡を手のひらでやわやわと揉みながら、明日のことを考えてニヤリと笑った。さーて、師匠も見つけたし次の段階へ行くわよ。
読んでいただきありがとうございました。
次は明日に更新します




