なんかもう、王様みたいだった。
「ちょっと緊張するな〜」
駅の改札を抜けながら、たくやがポツリと呟いた。
「え?さっきまで“任せとけ”みたいな顔してたのに?」
私は笑って、たくやの腕に軽くぶつかる。
実家にたくやを連れて行く日が、ついにやってきた。
数日前の電話のあと、母からの返信は早かった。
『おもてなし準備しておくね!』とだけLINEが届いていて、私はその時点で嫌な予感がしていた。
そして――
それは的中した。
「たくやくんね!ようこそいらっしゃい!」
玄関を開けた母は、エプロン姿で満面の笑み。
背後からは父が顔を出して、「今日はよろしくお願いします」と深々とお辞儀していた。
そしてリビングに通されて、私は言葉を失った。
テーブルの上には、手作りのケーキ3種、クッキー、果物の盛り合わせ、和菓子、なぜか高級そうなチョコまで並んでいる。
お茶は3種類。ペットボトルで買ってきたらしい。
「…え、これパーティーじゃん」
私が思わずつぶやくと、母がにっこり。
「ほら、“たくやくんが好きそうなお菓子”って検索してね」
「検索したんかい」
「娘の大事な人だから、全力でおもてなししたくて」
父は父で、「今日のために、髭を剃ったんだ」なんて得意げに言うし。
もうなんか、二人してテンション高すぎる。
「たくや、王様じゃん…」
思わず私が呟くと、たくやは「いやほんと恐縮です…」と恐縮しながらも、どこか嬉しそうに笑った。
しばらくして、4人で食卓を囲む。
たくやが母の手料理を「本当においしいです」と言えば、母はもう顔がとろけそうで、
父は父で「ほらな、俺の嫁の料理は絶品だって言っただろ?」と謎の自慢モードに入る。
私の小さい頃の話も自然と始まった。
「この子、小学生のときランドセル背負ったまま寝てたのよ〜」
「運動会で転んで泣いたの、たくやくんに見せてあげたいくらい」
「…やめてよほんとに」
私はお味噌汁に顔を突っ込みたくなりながら、たくやの表情をチラッと見た。
笑ってた。やわらかく、楽しそうに。
その空気に、私の肩の力も自然と抜けていった。
そんな中、たくやがすっと姿勢を正した。
そして、ごくまじめな表情で口を開いた。
「お父さま、お母さま――」
食卓の空気が一瞬で静まる。
「……はい?」と、母が姿勢を正し、
父は箸を置いて、「どうしたんだい、たくやくん」と真剣なトーンに。
「突然ですが、今日はご挨拶をさせてください」
「僕は、紬さんとこれからも一緒に人生を歩んでいきたいと考えています」
「どうか、紬さんとの交際を、お許しいただけますでしょうか」
一瞬の沈黙。
それを破ったのは、父のすすり泣きだった。
「……っ! ああ……あああ! 僕、ずっとこれやってみたかったんだよ!」
「“この娘さんを私にください”って、ずっと、夢だったの!」
「いや、たくやが言ったんだよ?」とツッコミそうになったが、
母もすでに涙目で、「いい子だねぇ……」と頷いていた。
なんかもう――私が泣きそうだった。
夕食の最後まで、ずっと笑い声が絶えなかった。
父と母が出会った頃の話、初めてのデートで迷子になった話、
どれも微笑ましくて、どこかたくやと私の未来を重ねてしまう。
帰り道。
駅に向かって並んで歩く。
「うちの家、騒がしかったでしょ」
「いや、最高だった。あの“ランドセル寝”の写真、今度見せてね」
「見せるかぁ!」
笑いながら、でも心の中はぽかぽかしてた。
(よかったな……)
(たくやのこと、ちゃんと受け入れてくれた)
(こんなふうに、家族って増えていくんだ)
……って、ちょっと感動してたのに。
ふと脳裏をよぎった。
(あれ?でも、今のって……プロポーズじゃなかったよね?)
(私から、言ったほうがいいのかな……)
(え、どうしよう、これ、私のターン?)
気づけば、胸がそわそわしていた。
父と母、あんなテンション高かったっけ?
でも、嬉しかったな。ちゃんと歓迎してくれて、たくやのことも認めてくれて。
“王様対応”されてたのに、たくやはちゃんと、あの空気にも真面目に向き合ってくれて。
あれがこの人のすごいところだなぁ、って改めて思った。
……ただひとつだけ、言いたいことがある。
「ねぇ、プロポーズって、いつなの?」
ソワソワが止まらないんだけど!!




