会ってほしい人がいます。
「紬の家族って、どんな人?」
たくやがそう言ったのは、
カフェでアイスコーヒーを飲みながら、会話がゆるやかに流れていたときだった。
突然ってわけでもなく、でもふいにすぎて、私は少しだけ驚いた。
「えっと……母は、わりと明るくて、父はちょっと無口。けど優しいよ」
「へえ、なんか想像できるかも」
たくやは笑った。
そして、ごく自然にこう続けた。
「いつか会ってみたいな」
――その一言に、心臓がどくん、と鳴った。
その日はそのまま、楽しくおしゃべりしてバイバイした。
でも、ひとりになった帰り道、私はずっと考えてた。
(…“会いたい”って、そうか。そういうことだよね。)
たくやのなかには、ちゃんと“先の未来”がある。
その未来に、私を含めてくれてるってことだよね。
なのに私は……
(家族に、“好きな人がいる”って、ちゃんと話したことあったっけ?)
この歳になって、家族に恋愛の話なんて、照れくさくて避けてた。
昔は“彼氏できたの?”って聞かれてたのが、
“結婚はまだ?”に変わって、
そのうち“もう諦めてるの?”みたいな視線まで感じるようになって。
そんな中で、ちゃんと好きな人がいるって、
言えない自分がいたんだ。
でも、たくやはちゃんと、私を未来に連れて行こうとしてくれてる。
だったら私も、
ちゃんと家族に向き合ってみよう。
***
夜、ソファに寝転がって、スマホを手に取った。
ホーム画面に出てくる“母”の名前。
何度も見てきた文字なのに、今日はなんだか胸がそわそわする。
「…かけよっか、そろそろ」
ぽちっと、通話ボタンを押す。
数秒後、母の声が響いた。
「もしもし、どうしたの?」
「うん、ちょっとだけ話したくなって」
少しだけ、間を置いてから言った。
「…好きな人がいるんだ」
母は一瞬沈黙して、
「えっ」と小さく言って、すぐに笑い声をあげた。
「なぁんだ、びっくりしたー。でも嬉しいよ」
その声が、あまりに優しくて。
私は思わず目を伏せた。
そのまま、たくやのことを話した。
年上で、優しくて、ちょっと不器用だけど、すごくあたたかい人だって。
するとスピーカー越しに、父の声が入ってきた。
「おぉ、そうか。今度、会ってみたいな」
「それ、こっちのセリフでしょ」って母が笑う。
なんか、変な感じだった。
でも、すごく安心する時間だった。
電話を切ったあと、私はスマホを胸にあてて、
ぽつりと呟いた。
「……やっと言えたな」
“結婚しないの?”って聞かれるたびに、
“今はひとりが楽だから”って強がってきたけど。
本当は、誰かと“ちゃんと生きたい”って、
ずっと心のどこかで思ってた。
それを、今日やっと言えた。
好きな人がいるって。
ちゃんと、未来を考えられる人がいるって。
それだけで、
世界の見え方が少し変わった気がした。
家族に恋人の話をするって、
意外と勇気がいるものだなって思った。
「まだなの?」って聞かれるのが嫌で、
いつの間にか話すことをやめてたけど、
やっぱり、家族にはちゃんと知ってほしい。
今の私は、もう“まだなの?”の先にいる。
“この人と一緒に生きていくかも”って、
ちゃんと考えてる自分がいる。
そう思えるようになったのは、
たくやのおかげ。
ありがとう、たくや。
私、少しずつだけど変われてる気がする。




