やっぱり私、この人が好き。
仕事を終えて、駅の改札を抜けたとき。
たくやからの「先に着いたよ」ってメッセージに、自然と顔がほころぶ。
少し前のすれ違いが、嘘みたいだ。
まるで昨日までの不安が、ふたりの絆を強くしたみたいに。
たくやを見つけた瞬間、
「待った?」と声をかけるより先に、彼の方からふわっと笑ってくれた。
「暑かったね、今日。歩きながら、どっか寄ろっか」
何気ないその一言が、なんだか心にしみる。
この人と、また普通に笑い合えてる。それだけで嬉しい。
歩き出してすぐ、駅前の小さな神社で人だかりを見つけた。
あれ?と思って覗いてみると、ちょうど夏祭りが開かれていた。
派手さはないけど、浴衣の子どもたち、屋台のあかり、夜の風。
ふわっと懐かしくて、胸がきゅっとなる。
「行ってみる?」とたくやが聞いた。
私は首を振ってから、にっこり笑って言い直した。
「ううん。行こう!」
かき氷を半分こしたり、
たこ焼きを食べて口の中を火傷したり、
金魚すくいをのぞいて「うまそうだね」とたくやが真顔で言ったり。
たいした会話はしてないのに、ずっと笑ってた。
「たくや」
「ん?」
「次の夏も、ここで笑ってたいな」
言ったあとで、自分でもちょっと照れてしまったけど、
たくやは特別な顔をせずに、ただ「うん」とだけ返してくれた。
ちょうどそのとき、
どこか遠くで花火の音が鳴った。
空を見上げると、住宅街のすき間から、
ひとつ、ふたつと、小さな花火が見える。
人混みから少し離れた場所にふたりで移動して、
縁側のような段差に腰掛けて、
たくやの肩にもたれる。
花火の音が、夜の静けさを破るたびに、
私は胸の中がぽっと温かくなる。
たくやは黙って、そっと私の手を握ってくれた。
その手が、ちょっとだけ汗ばんでたことも、嬉しかった。
(隣にいるだけで、
こんなに幸せなんだな。)
そう思った瞬間、
目に映るすべてが、愛おしくなった。
たくやも、今の自分も、
この静かな夜も。
この夏の記憶が、
ずっと色あせずに残りますように。
あのとき見上げた花火、すっごく小さかったのに、
心の中では、すごく大きく広がってたんだよね。
正直言うと、たくやと一緒に笑ってるだけで、
もうそれだけで“幸せ”って感じられる自分にちょっとびっくりした。
昔の私なら、
「ちゃんと付き合ってどれくらい?」とか
「そろそろ将来のこと考えるべき?」とか
勝手にひとりで焦ってた気がする。
でも、今の私は――
ただ、手を繋いで笑ってる瞬間にちゃんと心が満たされてる。
うん、たぶんこれが、
「やっぱりこの人が好き」ってことなんだと思う。




