思い出すだけで、十分だったりもする
土曜の午後、
洗濯機の音と、ベランダ越しの風。
予定のない週末って、嫌いじゃないけど――
ふと、誰かの名前が浮かぶ瞬間がある。
連絡したいとかじゃない。
会いたいわけでもない。
でもなぜか、
“あの人、元気かな”って思ってしまう。
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その人の名前は、たけるさん。
会社の取引先で知り合って、
一時期よく話すようになって、
食事に行ったことも、2回だけあった。
それっきり。
何が悪かったとかじゃない。
お互い忙しかったし、
きっかけを作る余裕がなかった。
ただ、
“ちゃんと始まらなかっただけ”。
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たけるさんは、笑うとちょっと頬がへこんで、
話を聞くとき、いつも首を少し傾けてた。
焼き鳥が好きで、
「締めは絶対、鳥スープ派」ってこだわりもあった。
細かい記憶なのに、
消えない。
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なんで思い出したんだろう。
洗濯物を干しながら、
コインランドリーで喋ってたことを思い出したからかもしれない。
「部屋干し苦手なんですよね〜」って言ってた声が、急に蘇った。
会いたいわけじゃない。
連絡して、どうこうしたいわけでもない。
でも、
“誰かを思い出せる自分”が、
まだ恋をあきらめてない証拠のような気がして、
なんだか少し嬉しかった。
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夕方、空が淡いオレンジに染まる頃。
洗濯物を取り込みながら思った。
きっと誰かのことを思い出す日があるって、
それだけでちょっと、人はあったかくなれる。
恋じゃなくても、
ちゃんと記憶に残ってる人がいる。
それって、
その人との時間が、ちゃんと意味あった証だと思う。
“連絡しない選択”が、大人になるってことかもしれないけど、
思い出すのは、自由でしょ?




