“ひとりが似合うね”って誰?
「つむぎさんって、ひとりが似合うよね」
そう言われたのは、職場の飲み会のあとだった。
帰り道、タクシーをシェアした営業の後輩――
歳は26歳。たぶん私のこと、ちょっとだけ憧れの目で見てる。
尊敬されてるのか、舐められてるのか、たまにわからない。
でもその日は、酔った勢いもあって、彼がやけに素直だった。
「だって、余裕あるし。何でも自分でできちゃうって感じじゃないですか」
それって、褒められてるのかな?
なんか、ぜんぜん嬉しくなかった。
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ひとりが似合う。
たぶん、私が一番言われたくなかった言葉かもしれない。
いや、たしかにひとりで生きてきた。
一人暮らしも長いし、仕事もこなしてきたし、休日もそれなりに楽しんでる。
だけど、似合うかどうかは、私が決めたい。
勝手に似合わされても、困る。
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それに、“ひとりが似合う”って言葉の裏には、
「誰かと一緒にいるイメージがない」とか、
「彼氏いないのも納得」みたいな空気が滲んでる気がして、すごくイヤだった。
私は、“ひとり”でいることを選んでるわけじゃない。
かといって、“誰でもいい”と思ってるわけでもない。
この歳になると、
「独身=自由で楽しそう」みたいなフィルターをかけられることがある。
でも、そこに勝手な“納得”が加わると、一気に冷める。
“ひとりが似合う”って、そういうことなんだと思う。
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昔、ちょっとだけ付き合った男がいた。
「一緒にいて落ち着く」と言ってくれたけど、
最終的に「俺じゃなくても平気そう」って言って別れた。
誰のことも頼れない強がりが、
きっと透けて見えてたんだと思う。
頼りたいけど、頼りすぎたくない。
甘えたいけど、甘え方を忘れた。
そうやって、どんどん“ひとりで大丈夫な人”になっていった。
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それが、似合うって言われるまでになったんだとしたら、
それはきっと、頑張った結果じゃなくて、
少しずつ“あきらめた積み重ね”なんじゃないかと思ってしまう。
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タクシーが私のマンション前に止まった。
「お疲れさまでした」
彼はさわやかに笑って手を振ってくれた。
その姿を見ながら、私は何も言えずに会釈だけしてドアを閉めた。
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部屋に戻って、服を脱いで、
メイクも落とさずにベッドに倒れ込んだ。
天井を見ながら思った。
「ひとりが似合う」って、
そんなに悪いことなんだろうか。
いや、悪くはない。
でも、似合うって言われるたびに、
“もう誰かと一緒にはなれないんじゃないか”って、
未来を否定されてる気分になる。
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私はまだ、誰かと一緒に笑ったり、
くだらないことでケンカしたり、
それでも「ただいま」と言える場所が欲しいって思ってる。
その気持ちが、
似合わないと思われるほど、
私の顔にはもう出てないんだろうか。
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それでも明日は来るし、
また「一人でしっかりしてるね」って言われるのかもしれないけど。
……そんなにしっかりしてないんだけどな。
自分で選んだ“ひとり”なのに、
「似合うね」って言われると、
なんか急に“戻れない場所”みたいに思えてしまって。
強そうに見えるならそれでいい。
でもたまには、「弱くてもいいよ」って言ってほしかったりもします。
そんな夜の、つぶやきみたいな話でした。