イケメンの隣、20代。
土曜の昼間、特に予定もなかったから、
仲のいい女友達の買い物に付き合うことになった。
表参道。晴れた週末。
人が多すぎて疲れるって文句を言いながらも、結局ちゃんとメイクして、服もそれなりに整えて来てしまう自分がいた。
女友達の名前はミカ。年下。24歳。
可愛いし、愛嬌もある。なにより、ちゃんと“モテる”子。
その日も、予定があるからって男友達と合流して、そのままカフェへ。
「つむぎさんも一緒に行こうよー!」
そう言われて断る理由もなく、ついていった。
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カフェに着いたら、さらに友達も一緒だった。
イケメン。
この言葉が一番しっくりくる、絵に描いたような整った顔。
少し無防備な笑顔で、「はじめまして」と手を差し出された瞬間、私は思わず指先を意識してしまった。
年齢は、たぶん25〜26くらい。
服もラフなのにセンスがあって、所作も自然で、無理してない感じが逆にいい。
……つまり、全部が私の“ときめきセンサー”に引っかかってしまった。
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でも、席に座ってすぐに気づいた。
彼の隣に座っているのは、ミカ。
笑顔で話す彼女。よく笑う彼。
目が合って、ふっと二人だけの空気が流れる瞬間。
ああ、そういうことか。
私、完全に“ただの付き添い”ポジションだ。
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それでも私は、ちゃんと笑ったし、会話にも加わったし、空気も読んだ。
けど、そのうち私は“話の聞き役”にまわっていた。
誰かの恋バナの相談をされてるときと、まったく同じ構図。
「つむぎさんって落ち着いてて素敵ですね」
彼がそう言った瞬間、なんか全部終わった気がした。
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“落ち着いてて素敵”って、
だいたい“恋愛対象外”の枠でしか使われないワードだ。
若い子には言わない。
同い年にも言わない。
私が今、“落ち着いてて素敵”と言われた意味は、
つまり、そういうことだ。
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帰り道、電車の窓に映った自分の顔を見て、
「今日のメイク、ちょっと薄かったかな」なんて考えてる自分が情けなかった。
彼にとって私は、“ミカの先輩”。
それ以上でも以下でもない。
でも、ちゃんとときめいてしまったのは、私のほうだった。
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家に帰って、スマホを開く。
ミカのストーリーが更新されていた。
昼間のカフェの写真。
向かい合って笑うふたりの姿が、さりげなく映っている。
彼の隣には、やっぱりミカがいた。
ストーリーをそっと閉じて、何も見なかったふりをした。
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好きになっちゃダメな人を、
好きになるほどバカじゃない。
……そう思ってるのに、
ときめきって、こっちの都合なんて関係なくやってくる。
だから困る。
だから、疲れる。
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私が隣に座るべき人って、どこにいるんだろう。
そんなことを思いながら、今日もまた、誰のいないベッドに体を沈める。
隣に座れなかっただけの話なんです。
私がときめいた人は、たまたま若くて、かっこよくて、隣には20代の女の子がいた。
それだけのことなのに、
自分の年齢とか、見た目とか、全部に自信がなくなっていく感じがして。
…ほんと、疲れますよね、恋って。