恋愛相談される側ばっかりで、私の恋バナ、誰も聞いてくれない。
「それでさ、私が“もう無理かも”って言ったら、彼が急に優しくなるの。どう思う?」
仕事終わりのカフェ。
紅茶のカップに口をつけながら、友達の話を聞いていた。
隣の席ではカップルが笑ってて、BGMはたぶんオシャレな洋楽だったけど、
私はそのどれにも集中していなかった。
「ねぇ、紬はこういう時どうする?」
と聞かれて、私は笑顔でうなずく。
「そうだね…距離を少しだけ置いてみたら?」
聞き慣れた会話。
言い慣れたアドバイス。
でも今日ばかりは、ちょっと胸が詰まった。
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私は昔から、恋愛相談をされる側だった。
誰かの愚痴を聞くのは嫌いじゃない。
むしろ、相手の気持ちをほどいていく作業は嫌いじゃなかったし、
「紬に話すと楽になる」って言われると、
なんだか役に立てた気がして、嬉しかった。
けど――
いつの間にか、“誰かに相談する”という習慣が、自分から消えていた。
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誰かに恋をしたとき、
私はその気持ちを、静かに育てるタイプだ。
浮かれすぎないように、
気持ちが先走らないように、
ゆっくり丁寧に距離を詰めていく。
でも、
そんなふうに大事にしてる恋の話ほど、
人には話せない。
「わかってほしい」よりも先に、
「わかってもらえないかも」が浮かんでしまうから。
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それに、
今さら私が誰かに恋してるって話しても、
どうせ“意外〜!”とか言われて終わりだ。
“紬は恋愛とか冷静そう”
“ひとりの方が向いてそう”
“男がいても隠してそう”
どこかで勝手にラベリングされてるような感覚がある。
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ほんとは、
私にも語りたい恋がある。
LINEが既読になってないだけでソワソワした夜とか、
駅のホームで見かけただけで一日中嬉しかった瞬間とか、
何でもない会話の中で、“私のこと気にしてるのかな”って思えた言葉とか。
そういうちいさな出来事を、
「それでさ〜!」って笑いながら話せたら、
きっと私はもう少し軽くなれるんだと思う。
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でも今の私は、
誰かの話を聞くことはできても、
自分の気持ちを話す場所がわからない。
誰なら、
この恋バナを笑わずに聞いてくれるだろう。
私が真剣に人を好きになってることを、
ちゃんと受け止めてくれるだろう。
考えれば考えるほど、
浮かぶのは“聞く相手”じゃなくて“聞かせたくない相手”ばかりだった。
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カフェを出て、帰り道。
友達は「ほんとありがとね〜紬、マジで神」と笑っていた。
私は「またいつでも話してね」と返した。
たぶんまた次も、“聞く側”になるだろう。
それが嫌なわけじゃない。
でも。
でもね。
たまには私も、
「で?その後どうなったの?」って、
ワクワクしながら聞かれたい。
聞き役って、ほんとは一番繊細だと思う。
ちゃんと相手の気持ちに寄り添って、
自分のことは脇に置いて、
でも心の中では、
“私だって、話したいことあるんだよ”って思ってる。
今度誰かに相談されたら、
そのあとに「紬は最近どう?」って、
聞いてくれる人が現れたらいいな。