“大丈夫”って言いすぎて、自分の気持ちがわからなくなることがある。
「大丈夫、平気だよ」
何気なく使ってきたこの言葉が、
最近ちょっと重く感じるようになった。
ほんとは“平気じゃない”のに、
口に出すとそれが“現実”になっていく。
“強がり”のつもりが、だんだん自分でも、
何が本音かわからなくなってくる。
そんな夜の話。
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その日、職場でちょっとしたミスがあった。
すぐにリカバリはできたけど、
上司からのチクリとしたひと言が、
妙に胸に刺さった。
「最近ちょっと抜けてるよ?」
ああ、ごめんなさい、って即答した。
“忙しさのせいにしたくなかったから”じゃない。
“言い訳する女”って思われたくなかったから。
私は昔から、そういうところがある。
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帰り道、改札を出てすぐのコンビニに寄る。
無糖のカフェラテと、レンジで温めるドリア。
レジの店員さんは無表情で、「袋ご利用ですか?」と聞いてきた。
私はにこっと笑って、「大丈夫です」と返した。
自分の声が、ちょっと疲れていた。
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部屋に着いて、ドリアを温めながら、
いつもの癖でスマホを開く。
LINEは既読スルーのままの会話と、
友達からの「今日ランチいく?」っていう軽い誘い。
そのどれにも、ちゃんと向き合う気になれなかった。
でも、どこかで“つながっていたい”気持ちがあるから、
スタンプだけは返す。
にっこり笑ったクマのやつ。
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“ちゃんとやってる感”を出すのが、もうクセになってる。
誰にも心配かけないように、
自分のことは後回しにして、
とにかく“迷惑をかけない女”でいようとしてきた。
だから、「大丈夫だよ」が、
いつの間にか口癖になっていた。
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でも最近、
その“クセ”に自分が苦しめられてる気がしてる。
本当は疲れてた日。
話を聞いてほしかった夜。
一緒にごはん食べてほしかったタイミング。
全部、「大丈夫だよ」って断ってしまった。
そして気づいたら、誰にも頼れない“自立した女”ができあがっていた。
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「紬って、ほんとに一人でなんでもできるよね」
よく言われる。
それ、褒めてくれてるのはわかる。
でも、たまには思う。
「できない」って言ってみたら、どうなるんだろう?
誰かがそばに来てくれるのかな。
それとも、めんどくさいって思われるのかな。
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ひとり暮らしの部屋で、
レンチンしたドリアをすくって食べながら、
ふと涙が出そうになる。
理由はわからない。
ただ、少し胸が苦しかった。
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きっと私は、
“がんばってる”って思われるのが好きで、
“弱ってる”って見られるのが怖かった。
でも、
「大丈夫だよ」って言いすぎて、
本当に大丈夫なふりが上手くなってしまった。
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これからは少しずつでも、
「実はしんどいかも」って、言ってみたい。
その言葉が重くならない誰かと一緒にいられたら、
私はもっと素直に笑える気がする。
「大丈夫」って、便利だけど危ない言葉。
自分を守るために使ってるはずなのに、
そのうち、自分の気持ちすら見失ってしまう。
もうちょっとだけ、
“助けて”って言える自分を許したい。
それを笑わない人に、出会えたらいいな。