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“そんなこと思ってたの?”って、笑わないで聞いてくれる人がいたらいいのに。

深夜0時を過ぎた頃、エアコンの風が静かに部屋をめぐっていた。

ソファに座ったまま、私はクッションを抱え込んでいる。

リモコンを握る手は何度もNetflixを開いては閉じ、結局何も再生できずにいた。


今日はなんでもない日だった。

仕事も忙しくなかったし、特に嫌なこともなかった。

でも、なぜか心の奥に、沈殿した言葉が溜まっていく感じがしていた。


誰かに話したい。

でも、何を?

この曖昧で、とりとめのない気持ちを。



LINEのトーク画面をスクロールする。

「最近元気?」と聞いてくれた同僚のメッセージ。

グループLINEでは、来月の旅行の話が盛り上がっている。

そして、元カレとの会話履歴は、もう半年以上前で止まっていた。


誰に話せばいいんだろう、って思う。


「最近、夜が寂しいんだよね」とか。

「ふいに“選ばれないまま”歳を取っていくのが怖くなる」とか。

「強がってるけど、本当は誰かに弱音を吐きたい」とか。


そんなことを言ったら、相手はどう反応するだろう?


“わかるよ”と共感されるか。

“元気出して”と励まされるか。

それとも、“気にしすぎじゃない?”と軽く笑われるか。


そのどれも、少しずつ違う気がした。



何年か前、付き合っていた人がいた。

無口でちょっと不器用な人だったけれど、私の話はよく聞いてくれていた――と思っていた。


ある日、夜中にふと不安をこぼしたことがある。


「私、将来ずっとひとりだったらどうしようって、たまに思う」

彼はベッドの中で小さく笑って、「何それ、紬らしくないな」って言った。


たぶん、慰めるつもりだったんだろう。

でも、私はその一言で、それ以上何も言えなくなってしまった。

“らしくない”って、なんだろう。

強くあらなきゃいけない、ってことだろうか。

私の弱さは、彼にとって“キャラじゃない”ものだったんだろうか。


それ以来、「そんなこと思ってたの?」って聞いてくれる人がいない。



スマホを置いて、冷蔵庫を開ける。

炭酸水の缶を手に取ってプシュッと音を立てる。

ゴクゴクと喉を通っていく炭酸の刺激だけが、今日を“生きた実感”として体に残る。


「こんな夜って、誰に言えばいいんだろう」

ぽつりと声に出してみる。

もちろん誰も返事はしない。

むしろ、そんなふうに呟いた自分がちょっとおかしくて、笑いそうになる。


でも、本当は笑ってほしくないのだ。

この感情を、“そんなこと思ってたの?”って言ってもらいたい。

そして、“思ってたよ”って返したとき、

そのままの私を、誰かに抱きしめてもらえたらいいのに。



私は、笑われたくない。

けれど、驚かれたい。

誰にも言わずに溜めてきた気持ちを、

ちゃんと聞いてくれる人がいたら、

たぶん私は、いくつかの夜を越えられる。



ベランダの窓を開ける。

冷たい空気が肌を撫でた。

遠くの方で電車の音がした。

その音に紛れて、心の声も流れていけばいいのにと思った。


けど、たぶん私は、また誰かに話したくなる。

きっと、近いうちに。



わたし、たぶん強がってる。

本音を出したら引かれるかもって思って、

笑顔で“平気なふり”ばかりしてる。


でも、本音をこぼせる誰かがいたら――

もっと素直になれるのにって思う。


「そんなこと思ってたの?」って、

笑わないで、静かに聞いてくれる人が、

どこかにいるって信じたい夜です。


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