いい女すぎて無理?
「つむぎちゃんって、いい女すぎて無理なんだよね」
告白でもなんでもない、その言葉を言われたのは、2軒目のバーだった。
軽く酔っていたし、冗談まじりの空気だった。
でも私は、その一言を、たぶん一生忘れない。
相手は大学時代の友人。
久しぶりに飲もうってなって、他愛もない話をして、
お互い彼氏彼女がいないことを確認して、
じゃあなんで私たち付き合わないんだっけ、みたいな空気になって。
その流れで出たのが、「いい女すぎて無理」だった。
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いい女すぎて無理、って何?
それ、褒めてるようでぜんぜん褒めてない。
むしろ、“お前とは付き合えない理由を、相手に責任転嫁してる”だけじゃないの。
たとえば、「綺麗すぎて緊張する」とか「完璧すぎて自分には無理」みたいなやつ。
だったらもっと気楽に向き合ってくれればいいのに、
こっちが高く構えてるみたいに扱われると、
「そっちが勝手にハードル上げてんじゃん」って言いたくなる。
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私は、いい女なんかじゃない。
ちゃんと人並みに悩むし、
自分の顔にコンプレックスもあるし、
寝ぐせがひどい朝もあるし、
下着とTシャツのバランス、正直だるくて無視してる日だってある。
職場では笑ってるけど、
帰りの電車では毎日ため息ついてるし、
週末はひとりで酒飲んで、録画したバラエティ観て寝てるだけ。
それのどこが、“いい女すぎて無理”なんだろう。
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私はただ、
誰かと一緒にいて、ちゃんと向き合って、
たわいもない話して、一緒に笑って、
安心できる関係を築きたいだけ。
でも、それを“完璧な女が求める理想像”みたいに見られてるんだとしたら、
ちょっとしんどい。
たぶん私は、“わかりやすくダメなとこ”が足りないのかもしれない。
「実家暮らしです」とか、「料理できません」とか、「恋愛経験少ないです」とか。
そういう“守ってあげたい女”みたいな要素が、たしかに、ない。
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でも、そういうのって、こっちが頑張ってきた結果でもある。
一人で暮らして、ちゃんと働いて、
なんとか自分を保って、ここまでやってきた。
その積み重ねを、「無理」で片付けられるのは、
……なんか、悔しいよね。
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「ごめん、嫌な思いさせた?」
彼は、私が黙り込んだのを見てそう言った。
その顔には、少しだけ申し訳なさそうな色が浮かんでいた。
私は笑った。無理やり、というほどでもない自然な笑顔だったと思う。
「ううん、大丈夫。言いたいこと、わかるよ」
そう言ってグラスを口に運びながら、
心の中では「もう無理だな」と静かに引いていった。
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たぶん私は、
“ちょっと難しそうに見える女”のまま、
今日もまた、恋愛の対象外にされていく。
いい女すぎて無理、って、便利な言葉ですよね。
それを言われた瞬間、
「あ、これ以上追いかけなくて済むな」って思ってる顔、見逃してないです。
ちゃんと知ってくれたら、そんなに“無理”じゃないと思うんですけどね。
……まあ、それを言うとまた面倒くさがられるんでしょうけど。