「姉貴っぽい」で終了。
「なんかさ、つむぎさんって……姉貴っぽいよね」
その言葉を言われた瞬間、私の中で何かがストンと落ちた。
ああ、またこれか、って。
場所は合コン。年下メンバー多め、軽くお酒が進んだ頃だった。
最初は悪くない空気だった。
ノリも良いし、見た目も爽やか、仕事もそれなり。
隣に座っていた25歳の男の子――ショータくんは、ちょっと懐っこい笑顔で私によく話しかけてきた。
「つむぎさんって落ち着いてて話しやすいですね!」
「大人の女性って感じで、めっちゃ憧れます!」
そんなこと言われたら、悪い気はしない。
年下とはいえ、久しぶりにちゃんと向き合って話せる男子だな、と思っていた。
でも――「姉貴っぽい」って、なに?
⸻
この“姉貴っぽい”って、どこから来るのか、だいたいわかってる。
たぶん私は、“なんでもわかってくれそう”に見える。
飲みの場では場を回すし、周りの空気も読む。
無理してるつもりはないけど、「気が利く」ってよく言われる。
でもそれって、女として見られてないってことなんじゃないの?
「姉貴っぽい」って、言い換えれば「男じゃないけど女でもない」ってことでしょ。
異性として見ていないことの、遠回しな表現。
それをわざわざ口にするところが、なんかもう、絶望的だった。
⸻
私は別に、年下の男に夢を見てたわけじゃない。
でも、だからといって、恋愛の対象外にされるために来たわけでもない。
せめて「キレイですね」とか「付き合ったら楽しそう」とか、
その場だけでもいいから、ちょっと期待できるような言葉がほしかった。
「姉貴っぽい」って言われた瞬間、
それまでの私の“女としての頑張り”が全部台無しになった気がした。
笑い方。話のふり方。適度なボディタッチ。
こっちだって、気を遣ってるんだよ。
⸻
結局、その日も何もなかった。
全員でLINE交換して、「今日はありがとうございました〜!」って感じで解散。
その後、連絡は来なかった。
私からもしなかった。
家に帰って部屋着に着替え、コンビニのスパークリングワインを開けた。
いい加減、こういう夜に慣れてきた自分がいた。
⸻
たまに思う。
女として頑張るのって、いつまでなんだろう。
20代の頃は、ただそこにいるだけで“女の子”だった。
飲み会に行けば誰かが連絡してくれて、誘われて、選ばれていた。
でも今は違う。
どれだけ笑っても、空気読んでも、
「安心感あるね」で終わる。
私、安心させたくて笑ってたわけじゃないんだけどな。
⸻
次の日、女友達に昨日のことを話した。
「え〜“姉貴っぽい”って、それ褒めてるんじゃないの?」
そう返されて、何も言えなくなった。
そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。
女として見られたいと願うこと自体、もう古いのかもしれない。
でも、もし私が“姉貴”に見えるなら、
もう、誰かの“彼女”にはなれない気がしてしまった。
⸻
夜。ひとりでいるとき、鏡の前で自分に聞いてみる。
「私、そんなに姉貴っぽいかな?」
そう言って笑った自分の顔が、ちょっとだけ寂しそうだった。
「姉貴っぽい」って、言われ慣れてる言葉なのに、
言われるたびに、なんか少しずつ削られてる感じがするんです。
それでも、あの日の私もちゃんとおしゃれして行ったし、髪も巻いたし、
ほんの少し、ときめきに期待してたんです。
…でもまあ、そういうのって、だいたいバレるんでしょうね。