表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/101

「姉貴っぽい」で終了。

「なんかさ、つむぎさんって……姉貴っぽいよね」


その言葉を言われた瞬間、私の中で何かがストンと落ちた。

ああ、またこれか、って。


場所は合コン。年下メンバー多め、軽くお酒が進んだ頃だった。


最初は悪くない空気だった。

ノリも良いし、見た目も爽やか、仕事もそれなり。

隣に座っていた25歳の男の子――ショータくんは、ちょっと懐っこい笑顔で私によく話しかけてきた。


「つむぎさんって落ち着いてて話しやすいですね!」

「大人の女性って感じで、めっちゃ憧れます!」


そんなこと言われたら、悪い気はしない。

年下とはいえ、久しぶりにちゃんと向き合って話せる男子だな、と思っていた。


でも――「姉貴っぽい」って、なに?



この“姉貴っぽい”って、どこから来るのか、だいたいわかってる。


たぶん私は、“なんでもわかってくれそう”に見える。

飲みの場では場を回すし、周りの空気も読む。

無理してるつもりはないけど、「気が利く」ってよく言われる。


でもそれって、女として見られてないってことなんじゃないの?


「姉貴っぽい」って、言い換えれば「男じゃないけど女でもない」ってことでしょ。

異性として見ていないことの、遠回しな表現。


それをわざわざ口にするところが、なんかもう、絶望的だった。



私は別に、年下の男に夢を見てたわけじゃない。

でも、だからといって、恋愛の対象外にされるために来たわけでもない。


せめて「キレイですね」とか「付き合ったら楽しそう」とか、

その場だけでもいいから、ちょっと期待できるような言葉がほしかった。


「姉貴っぽい」って言われた瞬間、

それまでの私の“女としての頑張り”が全部台無しになった気がした。


笑い方。話のふり方。適度なボディタッチ。

こっちだって、気を遣ってるんだよ。



結局、その日も何もなかった。


全員でLINE交換して、「今日はありがとうございました〜!」って感じで解散。


その後、連絡は来なかった。

私からもしなかった。


家に帰って部屋着に着替え、コンビニのスパークリングワインを開けた。

いい加減、こういう夜に慣れてきた自分がいた。



たまに思う。

女として頑張るのって、いつまでなんだろう。


20代の頃は、ただそこにいるだけで“女の子”だった。

飲み会に行けば誰かが連絡してくれて、誘われて、選ばれていた。


でも今は違う。

どれだけ笑っても、空気読んでも、

「安心感あるね」で終わる。


私、安心させたくて笑ってたわけじゃないんだけどな。



次の日、女友達に昨日のことを話した。


「え〜“姉貴っぽい”って、それ褒めてるんじゃないの?」


そう返されて、何も言えなくなった。


そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。

女として見られたいと願うこと自体、もう古いのかもしれない。


でも、もし私が“姉貴”に見えるなら、

もう、誰かの“彼女”にはなれない気がしてしまった。



夜。ひとりでいるとき、鏡の前で自分に聞いてみる。


「私、そんなに姉貴っぽいかな?」


そう言って笑った自分の顔が、ちょっとだけ寂しそうだった。



「姉貴っぽい」って、言われ慣れてる言葉なのに、

言われるたびに、なんか少しずつ削られてる感じがするんです。


それでも、あの日の私もちゃんとおしゃれして行ったし、髪も巻いたし、

ほんの少し、ときめきに期待してたんです。


…でもまあ、そういうのって、だいたいバレるんでしょうね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ