元カレと偶然、のはずが待ってた私。
「えっ、久しぶりじゃん」
声をかけられたとき、
一瞬、時間が止まった。
それはまさかの、元カレだった。
場所は渋谷の駅前。
人混みの中で、ふと目が合って、
「まさか」って顔をして、でもお互いすぐにわかった。
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彼とは、3年前に別れた。
喧嘩別れでもなかったし、ドラマみたいな事件もなかった。
ただ、私のほうが“結婚”を意識し始めた頃、
彼はまだ「今は仕事が忙しい」って言い続けてて。
少しずつすれ違って、
なんとなく、フェードアウトみたいに終わった。
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「ちょっとだけ、時間ある?」と聞かれて、
私はうなずいてしまった。
断る理由はなかった。
……というか、断れなかった。
内心、会えて嬉しかった。
でもそれを顔に出すのは、絶対に違うと思って、
ぎこちない笑顔だけ浮かべた。
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近くのカフェに入って、
お互いの近況を話す。
「仕事はどう?」とか、「あの頃の友達は今どうしてる?」とか、
どうでもいいような話ばかり。
でも、話してる間中、
私は心のどこかで“何か”を待っていた。
「やっぱりお前って落ち着くな」とか
「今、彼氏いるの?」とか
もしくは
「実は、あの時――」なんて後悔を滲ませるひと言。
……でも、彼の口からそれは出てこなかった。
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彼は笑顔でコーヒーを飲んで、
「いま、仕事はやっと落ち着いてきたんだ」って言ってた。
“あの頃”に言ってほしかったその言葉。
なんで今さら、そんなに余裕ある顔してるの。
こっちはあの後、
何度も恋愛しかけて、うまくいかなくて、
ようやく“恋なんてもういいや”ってとこまで来たのに。
なんであんたは、そんなタイミングで現れるの。
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カフェを出たあと、
「じゃあ、またね」と言われた。
「またね」って、なに?
もう連絡先も消してるし、
連絡することもないし、
“また”なんて、もう二度と来ないってわかってるのに。
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帰り道。
なぜか足が、すぐに家に向かえなかった。
駅のベンチで、しばらく座ってた。
自分でもびっくりするくらい、虚しかった。
偶然を装ったけど、
私、たぶんどこかで“待ってた”んだ。
もしかしたらまた繋がるかも、とか
やっぱり彼が忘れられてなかった、とか
そんなことがあるかもしれないって、
心のどこかで信じてた。
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だからいま、
期待したぶんだけ、惨めだった。
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もういい加減、前に進まなきゃ。
……そう思ってるのに、こういう偶然が、いちばん厄介。
もう過去なのに。
でも、“好きだった人”って、
どうしてこうも、綺麗なまま記憶に残るんだろう。
偶然って、
本当にたまに、意地悪なタイミングでやってくる。
もう忘れたと思ってた気持ちが、
名前呼ばれた瞬間にぶわって戻ってくるの、
あれ、ほんとずるい。
期待してたわけじゃない。
……って、言い訳する自分がいちばん苦手です。