表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/101

“その気にさせといて”って、そっちでしょ。

「……え、そんなつもりじゃなかったんだけど」


その一言で、全部が冷めた。


一瞬で、心の中のスイッチがバチンと切れる音がした。

まるで誰かが勝手にブレーカー落としたみたいに。


いやいや、待って。

じゃあ、あの優しさは?

夜中の長電話は?

急に呼び出してきたの、そっちでしょ?


どの口が言うのよ、“そんなつもりじゃなかった”って。



相手は、友達の友達。

ちょっとした集まりで知り合って、連絡を取り合うようになった。


年も近くて、話が合って、テンポも合って、

お互い仕事の愚痴を言い合えるくらいには心地よかった。


向こうから連絡が来る。

飲みに誘ってくる。

夜中に「声聞きたくなった」とか言ってくる。


そりゃあ、勘違いするよ。

少なくとも、好意があると思うじゃん。



でも、結局彼はこう言った。


「つむぎさんって、そういう対象じゃないっていうか……なんか、違うんだよね」


“違う”?

こっちこそ、その言葉に違和感しかないんだけど。


都合よく甘えて、寂しいときだけ呼び出して、

こっちが一歩踏み込んだら「いや、そっちがその気になったんでしょ?」みたいな顔。


あのね。


そっちが“その気にさせた”んだよ。



私も、完全に何もなかったわけじゃない。

ちょっとドキドキしてたし、

「久しぶりにちゃんと恋できるかも」って思ってた。


でも、ちゃんと心の準備はしてた。

焦らず、ゆっくり知っていきたいと思ってた。


だからこそ、この落とし方は、ない。



帰りの電車、イヤホンから流れる音楽が、

ただのBGMみたいに遠く感じた。


駅のホームで、すれ違うカップルが手をつないでた。

女の子の笑い声が、やけに眩しく聞こえた。


私は、なにをしてたんだろう。



でも、こういうこと、過去にもあった気がする。


“ちょっと優しいだけ”の男に、

“少しだけマメな連絡”に、

“気まぐれな電話”に、

勝手に期待して、勝手に落ちて、勝手に傷ついてる。


わかってる。

だから、もう期待しないようにしてたのに。



でもさ。


優しくされたら、嬉しいんだよ。

名前を呼ばれたら、ちょっと心が動く。

気にかけてくれたら、「もしかして」って思っちゃう。


それを“勘違い”で片付けられるのは、やっぱり悔しい。



“その気にさせといて”って言いたくなる夜が、

この年になっても、まだある。



好きだなんて言ってないけど、

期待させたくなかったなら、

あんな風に笑いかけないでほしかった。


優しさって、無意識でやるからタチが悪い。


勘違いって言われたら、それまでなんだけど、

だったらそっちの“匂わせ”にも、ちょっと自覚持ってほしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ