ヤリモクか、ときめかない男
「ねえ、今日うち来る?」
その言葉に、私はうなずいた。
驚くようなことじゃない。初めてでもないし、拒む理由もなかった。
飲んで、いい雰囲気になって、体を求められて、なんとなく断るタイミングを逃して。
……って流れではなく、私はちゃんとわかっていた。
彼が私を“そういう目”で見ていたことも、今夜がそういう夜になるってことも。
自分で選んでついて行ってる。
私の意思で、私が決めてる。
⸻
この歳になると、甘え方とか、距離の詰め方とか、
どこで笑って、どこで上目遣いすればいいのかなんて、もうわかってる。
「彼氏いそうだよね」とか「モテそう」とか、散々言われてきたし、
言われ慣れてるぶん、扱い方も自然と覚えた。
ちょっと腕に触れるだけで、男はすぐにスイッチが入る。
それがわかってるからこそ、私は“ちゃんと選んで”そういう関係を持ってきた。
でも、何人と寝たって、
恋人ができるとは限らない。
むしろ、そういう関係からはじまった男とは、ほとんど付き合えなかった。
⸻
彼氏ができるのは、2年に1回ペース。
長くても、3ヶ月で終わる。
それがここ数年の私の恋愛履歴。
原因はきっと、私が“強そうに見える”こと。
「お前、ひとりでも生きていけるよな」とか言って、離れていく男のなんと多いことか。
別に、強くなんかない。
毎晩、誰もいない部屋に帰って、
シャワーを浴びて、コンビニで買った缶チューハイを飲んで、
録画してたバラエティ見ながら笑って、スマホを触って、そのまま寝落ちする。
誰に頼ることもなく、ひとりでちゃんと過ごしてるだけ。
それって、そんなに“強そう”に見えるの?
⸻
私だって、誰かに甘えたい。
ちゃんと好きになって、好きって言われて、
この人となら、って思える人と、穏やかに付き合ってみたい。
でも現実は、
「つむって、彼氏いなそうに見えないよね」
「理想高そうって言われない?」
「なんか…俺じゃダメな気がする」
そんなふうに、勝手に遠ざけられて終わる恋ばかり。
⸻
ベッドの中で、彼が寝息を立てはじめた。
私はその隣で、目を開けたまま、天井を見つめていた。
心も体も委ねたはずなのに、
なんだか全然満たされていない。
好きになってほしいわけじゃなかった。
でも、せめて少しだけ、大事にされていたかった。
思ったより冷たいシーツの感触が、
私が置き去りにされてることを、やけにくっきりと教えてくる。
⸻
スマホを開く。SNSのストーリーに、友達の楽しそうな写真が並んでる。
結婚式の笑顔。新居のキッチン。家族写真。
そんなの見たくなかったのに、つい指が止まってしまう。
もうこの時間だし、誰かにLINEするのも違う。
かといって、ひとりで帰る気力もない。
心だけ、ぽつんと取り残されたまま。
いや、きっと最初から、ひとりだったのかもしれない。
⸻
そのとき、ふとストーリーの中に、知らない男の横顔が映った。
友達の知り合いらしい。名前もわからない。でも、なんとなく目を引いた。
「ああ、またどうせ既婚者とか彼女持ちでしょ」
自分にそう突っ込んで、ため息ひとつ。
でも、少しだけ、ときめいたことは否定できない。
⸻
恋をすること。
誰かと関係を持つこと。
人肌を求めること。
そのどれもが、間違ってるわけじゃない。
でも、何かがいつも、足りない気がする。
それが“愛”なのか、“運命”なのかは、わからない。
ただ私は、
“選ばれたい”わけじゃない。
“選びたい”と思える人と、ちゃんと出会いたい。
そう思いながら、もう一度、眠れない夜をやり過ごす。
断れなかったわけじゃないんです。
行きたくて、行ったんです。
私だって、大人だから。
ちゃんとわかってて、ちゃんと選んで、そうしてるつもりなんです。
でも、毎回こうして朝を迎えると、
「何やってんだろ」って、思わなくもないんですよね。
恋がしたかったのか、
それとも、ただ誰かといたかったのか。
自分でも、よくわかんないまま夜が明けました。