壁破る寝言
深夜、姉妹が眠っていた。妹は早くから眠っていたが、姉は眠りに就いたばかりだった。
「誰かに見られてる!」
姉のけたたましい声に、妹が起こされる。
声を上げた本人は苦しげな顔をしてはいるが、眠り続けている。
いつもの寝言か、自分の声で起きないのかな、と妹が溜息を吐く。
姉の寝言は最近になって始まった。受験を控えているため、ストレスのせいだろう、と家族は認識していた。
寝言ひどかったよ、と妹が姉に伝えても、全く覚えておらず、ごめんね、と謝るだけだ。
「誰かが、部屋の中にいるの」
再び姉が声を上げた。ホラーな夢でも見てるのかな、と妹がぼんやりと考える。
「私が見てるよ」
寝言に返事をするのは良くないと聞いた覚えはあったが、妹は面白半分に答えた。
「違うの。あなたじゃないの」
妹は姉の答えに驚いた。ホントは起きてるんじゃないの、と姉を見ても、先程から変わった様子もなく、冗談や悪戯を人一倍嫌う姉は、起きていたとしてもこんなことはしないだろう、と考え直す。
「じゃ、誰なの?」
「分からない。私たちのことを知っているみたいだけど」
姉は首を振りながら答える。寝言と会話するのが面白くなってきた妹が更に尋ねる。
「どこから見られてるかは分かる?」
「部屋の中なのは間違いないんだけど」
「じゃあ、私も見られてるってこと?」
「そう。どちらかと言うと、あなたの方に興味があるみたい」
姉の夢の中の話だろうと、自分も見られていると言われたことで、何となく不安を感じた妹は、枕元に置いたスマホを手に取ると、ライトで部屋の中を照らした。
当然、姉妹の他には誰もいないし、普段と変わったところもない。
ばかばかしい、と自分の行動に苦笑しながら、妹は未だに眠り続ける姉を睨んだ。
「誰もいないよ。良かったね」
「ダメ。まだ見られてるみたい」
妹は溜息を吐いた。いっそ起こしてやろうか、とも思ったが、毎日遅くまで勉強をしている姉の睡眠時間を削るのも可哀そうか、と思い直した。
明日からは寝る場所を別にしてもらおう、と考えながら、部屋中のカーテンを隙間なく閉め、全ての照明を消す。
部屋は完全な暗闇に包まれた。妹からは、姉の姿どころか目の前も見えない。
「これで大丈夫でしょ?」
妹は言いながら、夢の中だから関係ないのに、私も何してるんだろ、と苦笑した。
「これでも姉が何か言うようなら、リビングで寝よう。妹はそう考えた」
「お姉ちゃん?」
「どこから見られているか、今分かったわ」