5話 続 異世界転生した冒険者、シヴァンが最強のオークと対峙!運命の決戦
シヴァン達は村の様子をよく観察した。
依頼を付けたときと同じで村人達は平和そのものだ。
夕陽に照らされた畑では、村人たちが懸命に鍬を振り下ろしていた。
汗ばんだ顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
木の枝を持ち羊を追いかけ回し小屋まで誘導する者。
川辺では、娘が冷たい井戸水を桶ですくい、顔を洗っていた。
グローブを装着し、キャッチボールをして遊んでいる少年たちもいた。
ーー彼らにも生活があるし、いつも臨戦態勢は取っていられないのでは?
シヴァンは彼らの行動に確信を持つことができずに居る。
(まず墓を探してください。
住民がたくさん殺されたと言うなら、オークちゃんの墓と同じように真新しい墓がいっぱいあるはずです)
パーティメンバーは小高い丘にやってきた。
墓が並んでいたものの、多くのものには年季が入っており、最近虐殺されたような感じには見えなかった。
シヴァンは、杖に体を預け自分の家の前で佇んでいる村長に聞いてみた。
「最近オークはアンタ達の村に入って大勢殺したか?」
「つい最近もあの極悪非道なオークは村に入ってきて何人もの村人を殺したんですじゃ」
「ではなぜ真新しい墓がない?」
一瞬村長が挙動不審になるも、暫くの無言の後に村長は続けた。
「……実は、奴らのせいで満足に墓も作れないほど村の人口は減ってしまったのですじゃ。」
「では、なぜそこまで襲われていながら村人に危機感がない?」
「それは……うう……じ、実はもう皆オークに怯えて暮らすことに疲れてしまったのですじゃ。
もう最後くらいは伸び伸び暮らしたい」
ーーおかしい。なぜそのような状態になるまで放っておいた?
しかも『最後くらい』と言っておきながら何故クエストを発注した?
なぜ俺達なんだ?
もっと大きな組織に頼むべきではないか?
シヴァン達4人はミミィとオークの居る山まで戻った。
「……たしかに、ミミィ。アンタの言う通り村人には疑わしい点があるようだ」
「そうでしょうね」
「だがこれだけで村人を断罪したり訴えるのは……俺達には無理だ」
パーティメンバーの3人もそうだそうだと同意する。
「……そうですね。ではこうしましょう。オークを捕らえたフリをして村に戻ってください。
村人たちがオークを殺害し、遺体を回収するのは何か狙いがあるはずです。囮作戦です」
「いや、アンタの言う通り村人がオークを虐殺してるならとても危険な作戦では?」
こんな命がけの作戦を平気でオークに実行させようとしているこの獣人の少女にシヴァンは恐ろしいものを感じていた。
「危険にならないうちに彼らに加勢して、村の正体を暴いてください」
オークは渋々ながら同意した。
ーー彼らも仇をとりたいのだろう。
俺たちは後ろ手に縛った2匹のオークを連れて村に来て、村人たちは歓声の声を上げ村長は涙する。
シヴァン達の提案でオークは明日、国の機関に引き渡されることになり、それまでの間は納屋に閉じ込めるとのこと。
オークにかかった翻訳魔法はとっくに切れており会話はできなくなっていた。
宿の一室でシヴァンたちは監視魔法を使い、オークが閉じ込められた納屋周辺を見張る。
すると夜に、納屋周辺に次々と人が集まるではないか。
不穏な動きを察知しシヴァン達は納屋に急いだ。
なんとそこには鍬、ボール、杖やグローブ、桶など様々な得物を持ちながらオークの周辺に群がる人々が居る。
「これは何をやっている!?」
そこにいた村長は答えた。
「おお、これはシヴァンさん。あなたも知ってる通り我々はオークに恨みがあり、せめて一矢報いたいと、このような次第ですじゃ」
不穏な発言とは裏腹に笑顔で応える村長にシヴァンはただならぬ者を感じる。
「村長、アンタ約束したよな。オークを国に引き渡すって」
「もう我々は我慢の限界ですじゃ」
「村長。アンタらがオークを虐殺したと、本人たちが訴えている」
「!?……と、とんでもない根も葉もない嘘じゃ。オーク共は罪を我々になすりつけるためにあらぬことを言ってるだけですじゃ」
「しかしオークの住む洞穴には大量の墓があった」
「そんなのあらかじめ作っておいたに決まっておる」
「洞穴は巧妙に隠されていた。そもそも我々との言語が通じず、魔法を使わないと会話できないオークがそんな事をするか?」
「……しかしですじゃ。我々の体格を見ていただきたい。オークとの差は圧倒的。とても太刀打ちできない…だから貴方がたを呼んで討伐依頼を出したんじゃ」
ーー確かに村長の言ってるように
オークは身長3mほどで村の人達とは圧倒的な体格差がある。
これでどうやって虐殺できたのか。
そもそもこの人たちは持っているものがおかしい。
杖や桑はともかくグローブや桶でどうやって復讐するつもりなのか。
不審に思ったシヴァン達はパーティメンバーに提案し、探知魔法で村人達の持つ得物を丹念に調べあげた。
探知魔法を使ったパーティメンバーの魔法使いのシフィが訴える。
「シヴァンさん!か、彼らの持っているものから…オークの反応があります!!」
シヴァンは血の気が引くのを感じた。
村長は笑顔をやめ、冷酷な表情を浮かべーー
「…お前ら何者じゃ?」