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2話 続 荷物持ちの無能な少年はパーティから追放されるがパーティメンバーは悲惨な目に遭いザマァとなる

「ミミィくん。君の行ったことが仮に真実だとして……その……俺にできることがあるとは思えないんだが」


 ケールは自分の無力さを痛感していた。俺達はアレックスが居ないと何も出来ない。突きつけられた残酷な事実に自信を消失しかけていたのだ。


 ーーアレックス……彼がもしこの獣人の少女の言う通りの人物なら到底俺に勝ち目はないのではないか?


 ミミィはアレックスの前で落ち着きなく往復する。

 顔はうつむき眉間にしわを寄せ、人差し指でシワを撫で、深刻な表情で回答する。


「彼がこれまで行った行為自体は犯罪ではありません。補助魔法も回復魔法も、魔物の討伐もそれ自体は善意の行動と言えましょう。ただしーー」


 ミミィはこれまで眉間に寄せていた皺を伸ばし、大きく息を吐いた。



「それにより、あなたがたが生命の危機に陥る可能性がある場合は別です。

 その場合は裁判により彼に悪質性が認められるでしょう。

 いいですか?あなたがたは彼の行動により勘違いを起こし、もしかしたら分不相応のクエスト引き受け全滅するかもしれません。

 死ぬかもしれないんです。

 そんな悪党を野放しにして良いんですか?

 一緒に彼をやっつけましょう!!」


 笑みを浮かべたミミィに少し希望を持ったケールは、爽やかな顔をしながら次の朝を迎えた。






 ケール達は荷物持ちの少年、アレックスといっしょにクエストを引き受けていた。

 アレックスは不機嫌そうな顔をし、ケールとは一切の口を聞かず他のパーティメンバーとの会話だけをしていた。

 4人はダンジョンに入る。


 アレックスはミミィとの会話を思い出す。


(いいですかケールさん、ここに魔力を感知したら記録される、自動書記用紙があります。

 彼が不穏な様子を見せたら彼に気づかれないように、彼の方向に紙をかざしてください。

 バレたら紙は破られ全てはおしまいです。

 おそらく膨大な魔力を誇り相当なスキルを持つだろう彼を欺きながらそれを行うのは至難の業です。しかしーー)





 ーー俺がアレックス、お前に何をしたって言うんだ。

 寂しそうな顔をしてギルドに一人でいるから誘ったのに。

 仲間だと思ってたのに、いつの間にか俺を……


(あなたがたは彼に思考を操作されている可能性があります。

 思考を鈍らされ、彼を追放するように操作され、余計なことを考えられないようにされているんです。

 私にはわかります。

 あなたに薄い紫のベールが掛かっているのが。

 それを今回、彼に分からないよう解除します)


 ーーなんで俺をはめようとした……


(思考や記憶が戻ってきましたか?

 彼と会う前の貴方がたの実力をよく思い出してください。

 今の貴方がたの実力とは掛け離れていたはずです。

 それを不思議に思えないようにさせられていたのです)




 ケール達はダンジョンに入り、魔物を倒していくが、昨日と同じで雑魚モンスターにも苦戦する。


(彼は今回は警戒して力を使わない可能性があります。

 あなたがたは彼の補助を受けられないかもしれない。

 彼が戦闘せざるを得ない状況を作ってください。例えばーー)


 ケールはあえて一人で突き進む。


「おっ!!あっちにお宝があるぜー!!ハハハ一!!俺が1番乗りだ。」


 宝箱を見つけるふりをし、ケールは両手を広げ、まるで舞台の上で演じる役者のように、大きくアピールした。

 その姿は、まるでピエロのようだった。


 魔法使いのエディが叫ぶ。


「ケール!!どこに行くの!?危ないよ!?」




(ボスモンスターをおびき寄せて彼を攻撃させてください)




 ケールの目の前の壁が突如割れ、石畳がガラガラと崩れ落ちる。高さ4mはあろうかという恐ろしい蜘蛛の化け物が現れた。

 彼は死を覚悟する。


(彼と一緒にいるままだと気づかれ、再度、思考操作をされる可能性があります。

 できるだけ彼にはバレないように隠蔽はしていますが、いつ見破られるかは私にはわかりません。

 彼と近距離で長時間行動をするのはお勧めしません。

 出来るだけ一人で行動してください。補助魔法を受けない場合、あなたがボスモンスターから逃げ切れるかはわかりません)


 たったの数十メートル、それがまるでマラソンコースのように長く感じられた。

 肺が灼けつくような痛みを感じ、足が鉛のように重く、視界は白く霞んでゆく。

 アレックスの補助魔法がどれだけ強力に作用していたのか、ケールは身を持って思い知った。

 蜘蛛の影が、まるで死神のように近づいてくる。

 心臓がバクバクと鳴り、全身に冷や汗が噴き出す。


 ーーもう限界だ。


 意識が遠のきそうになる。



(だけど……ムカつきません?

 彼にいいようにされて思考まで操作され策略にまんまと載せられて不幸な結末に陥る。

 彼を放置して逃げることも出来る。

 だけどその先には、あなたがたみたいな人達が大勢生まれる未来が待っています。

 そんなのウンザリじゃないですか?

 ケールさん、あなたの目を見ればわかります。

 あなたは報酬だけで動いてるわけじゃない。

 人助けが一番の目的の純朴な人です。

 一緒にたくさんの人の未来を変えましょう。ケールさん!!)


 ケールは死ぬ思いでアレックスのもとにたどり着いた。

 虚を疲れたアレックスは、



(そう、紙を彼にかざして!!)


 膨大な魔力を使い、眩いばかりの真紅の光を放出する。蜘蛛は光の中に飲み込まれていった。

 パーティメンバー二人は目が見開かれ、口が開きっぱなしとなった。



 ーーやった……記録したぞ……





 その様子をダンジョンの壁からミミィはそっと覗いていた。

 このあとにアレックスが凶行に走ろうとしたら阻止するためだ。

「……やりましたね、ケールさん」

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