1話 荷物持ちの無能な少年はパーティから追放されるがパーティメンバーは悲惨な目に遭いザマァとなる
酒場の薄暗い照明が、壁に掛けられた動物の剥製に不気味な影を落としていた。
けたたましい笑い声と、酒瓶がぶつかり合う音が、湿った空気を震わせている。
勇者パーティの3人は、酒場の奥まったテーブルに腰掛けていた。
ケールの顔にはいつも通りの自信満々な笑みが浮かんでいる。
一方ピンク髪の弓使いの女は、どこか物憂げな表情で窓の外を見つめ、魔法使いの黒髪の女は、厚い本に顔を埋めていた。
金髪の男は口を開いたかと思うと、
「アレックス!!君は今日限り追放だ!!荷物持ちをするだけの役立たずなど我がパーティメンバーに必要ない!!即刻でていけ!!」
酒場を震わせる怒号が響く。
何百回見たかわからない展開が今日も繰り広げられている。
怒鳴られた童顔の少年は、顔をうつむき唇を噛みしめ、震える声で
「…分かった。でていくよ」
と呟いた。
「ちょっと待ってください!!」
その声とともに二人の間に割って入ったのは、ルーペを手に持ちウサギのような耳を生やした、利発そうな獣人の少女だった。
金髪の男眼が獣人の少女に怒鳴る。
「なんだ!?君は!!」
「私は不幸な出来事を未然に解決するために動いている、トラブル調査解決団のミミィです。
解決にあたっては報酬をもらっています。よろしくお願いします」
名刺を渡されたケールは虚を突かれ一瞬怒りを忘れた。
凝った書体で『トラブル調査解決団』と記され、ミミィのイラストが描かれていた。
どこかコミカルな絵柄に彼は唖然となる。
乱闘寸前の緊迫した空気が、突如として静まり返った。
まるで誰かに水をぶっかけられたようだ。
「き、君には関係ない!!これは俺たちの問題だ!!
それにトラブルは今解決されようとしてるんだ!!
報酬なんて支払わないぞ!!さては荒手の詐欺業者だな!?」
「お願いです。どうか冷静になって、彼を追放する前に貴方がた3人だけでクエストを受けてください。
それで問題ないなら謝罪し、お金も払います。なんなら一筆契約書も書いていいですよ」
彼女が見せたその契約書に示されたのは、クエスト3回分にもなる額。
「なんだこれは……。あまりにこちらにデメリットがなさすぎる。君は頭がオカシイのか?」
「いいから、ぜひお願いを聞いて下さい」
「……わ、わかった。その契約書を寄越せ」
荷物持ちの少年が一瞬不穏な表情を見せるのを、ミミィは見逃さなかった。
次の日ーー
ミミィとケールが酒場で会話を交わしていた。
「ミミィ、君の言う通りだった。アレックスがいなくなった途端、俺たちは何故かその辺の魔物にも苦戦を強いられた。
そして頻繁に魔力切れになるし荷物持ちがいないせいでアイテムを使っての回復もろくに出来なかった」
「そうですか」
「だがーー何故だ?」
「結論を述べましょう。貴方がたは彼に今まさにハメられようとしているところです」
「ハメ……ハメられている?俺たちが?」
「はい。おそらくですが彼はあなた達に分からないよう強力な補助魔法を頻繁に使い、さらに、メンバーの魔力の回復も頻繁に行っています。
あなたがたが見ていないところで厄介な魔物を倒している可能性もあります。私にはわかります。
殆ど完璧に隠蔽されてますが、彼は底しれぬ力を隠しています」
ーーなんだと?あいつが?
「い、意味がわからない!!そんな事をするなら俺たちに堂々と見せれば良いだろう?申告すればいいだろう?隠すメリットは?」
「当然の疑問です。
私も調査不足なので断言はできません。
彼はあなた方がこのあと陥るだろう末路を見てほくそ笑むのが目的、もしくは女性のパーティメンバーの誰かと旅をするのが目的である可能性があります。
他のパターンもないわけではないですが多くはその2つです」
「ア、アレックスが?そんな姑息なことを考えるような男には見えないぞ!?」
「残念ながら私は彼のような純粋そうな少年によってハメられ不幸な末路を辿るパーティメンバーを幾度も見てきました」
ケールは衝撃を受けた。
ーー俺たちがハメられている?あのアレックスに?
彼がここまで容易周到な真似を?
到底信じられない。
だがこのミミィとかいう少女の言う通り、我々がまともにクエストを達成できない状態にあるのもまた事実。
ミミィがニコッと笑う。
「ここから先は有料となっています」
「……分かった、払うよ」