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第75話 頂点と雷ー1

◇灰視点


 アーノルド・アルテウスは米国最強、そして世界最強だ。

俺も海外の番組で見たことがある、その圧倒的な暴力を。


 いわく、彼一人でS級100人分は強い。


 いわく、彼一人にすら米軍は敗北する。


 いわく、彼を止める手段はなくアメリカ大統領ですらただお願いすることしかできない。


 彼の前に法はなく、彼の前に壁はない。

ただの一度の敗北もなく、その無敵の体に傷すらなく、苦戦した戦いすらもない。


 『超越者』、神と呼ばれるS級すらも歯牙に駆けず天上天下唯我独尊。

彼に対抗できる戦力は、世界に5人と存在しない。

魔力測定器の限界測定値、99万9999を超える存在。


 二つ名を、暴君。


 人類にとって幸いだったのが、彼が世界を支配しようなどと考えておらず、ただやりたいように生きたいように生きているだけであること。

米国はありとあらゆる財を使って彼のご機嫌を取っている。


 その代わり、彼にお願いをする。

聞いてもらえなければ、それまでのただの提案。

ただし細かい依頼はできない、というよりは聞いてもらえない。


 だから対象を殲滅する。

それが最も彼に適した依頼だった。


 行動した場合は必ず任務を遂行する。

過去S級キューブのダンジョン崩壊をたった一人で殲滅するという任務すらも。


 それが米国最強の覚醒者、暴君『アーノルド・アルテウス』


 その最強が来た理由は、大統領からのお願いだった。


 日本は米国に依頼した。

壊滅的なダメージを東京に出し続ける滅神教から日本を救ってほしいと。


 そして米国は依頼した。

アーノルドに滅神教を皆殺しにしてくれと。

彼ら滅神教は、生け捕りにしてもどんな拷問をしようとも絶対に何も話さない。

自爆テロまで繰り出してくる狂信者。


 ましてやS級を捕獲しておける安全な檻など世界にない。


 ならば殺すしか選択肢はなかった。


 だから世界最強の国は、世界最強の暴君に依頼した。


*

『滅神教を殺せ、ただの一人も生かさずに』

*


 その結果が、これだった。


『HEY、JAPANESE。そこをどけ。プレジデントのオーダーだ。滅神教をぶっ殺せってな』


 アーノルドがソフィアを殺そうと腕を振り上げた。

それを防ぐように、レイナが前に立ちはだかる。


『確か……レイナだったか? この国のS級だったな……HAHA、顔が良いんで覚えてたぜ。いつもは警告なんざしねぇが、特別に一度だけだ。次はねぇ、そこをどけ』


「……どかない!!」


 レイナはそのアーノルドのプレッシャーの前でも立ちはだかる。

暴君アーノルド・アルテウス、誰にも制御できない化物を前にしても真っすぐ目をそらさずに。


 それは傍から見れば不思議な行動だろう。

自分を殺そうとした人を守ろうとしているのだから。

でも、レイナが涙を流して精一杯その小さな体で守ろうとする。


 それはきっといまだに母が好きだからなのだろう。

心の奥底に封印しても、忘れられない記憶があるからなのだろう。


 俺は少しだけその気持ちがわかった。

あの海で流した綺麗で、寂しい涙の意味も。


 だから。


「絶対にどかない!」

『OK、死ね』


 バチッ!


 俺が守るんだ!


『HEY、なにをしている? JAPANESE? お前らが泣いて助けてくれって言うからきてやったのに。さっきから何だその態度は』


 そのままアーノルドは、拳をレイナもろともソフィアへと下ろそうとした。


 しかしその拳は止まった。


「止まってください、もう殺す必要ないんです」


 なぜなら俺がライトニングを発動し、アーノルドの背後にできている影へ瞬間移動した。

まるで山のような背の後ろからアーノルドの首へと剣を喉元へと突き立てる。


 それを見て振り上げられたアーノルドの拳が止まる。

俺は拙い英語で、ここは引いてくれと精一杯単語をつないだ。


「Stop……いや、フリーズ!」


 その俺の行動に、アーノルドが笑いだす。

手刀を振り上げた右手とは逆の手でサングラスをつまむようにしてあげて、振り返って俺を見た。

その目は、蒼く自由の国の血が流れていた。


『HAHAHAHA!! いつぶりだ、俺に剣を向けたバカは!! それが何を意味しているのかわかってるのか? 戦争する気か? この俺と』


「何を言っているかわからないけど……あなたを止めます、彼女を殺さないでくれ」


 それを見て景虎も英語で叫ぶ。


『アーノルド! とまってくれ!!』


 その声は間違いなくアーノルドには届いていた。


『OK……』


 OKという単語を聞き取れた俺は少し安堵した。

しかしそれは勘違い、突如アーノルドの身体から魔力の放流が起きる。

紫色の禍々しいまでの力の魔力。


『止められるものなら……止めて見なぁぁ!!』


 アーノルドがそのまま手のひらを伸ばしナイフのようにし、レイナもろともソフィアさんを貫こうとする。

喉元に剣を向けられているのに、全く意にも介さずに、止まらない。


「なぁ!?」


 俺は仕方ないと、剣を持ち替え全力でその腕に突き刺そうとした。

バカげた魔力の中でそれでも魔力が薄い場所、つまり急所のはず。


 しかし。


「なぁ!?」


 まるで鉄を殴ったような、圧倒的な固さ。

魔力が薄いところですら化物のような魔力の放流が俺の魔力を帯びた攻撃など弾いてしまう。


(とまらない! くそ!! なんだこの化物!!)


 止められることは不可能だと理解した俺は、レイナに叫ぶ。


「レイナ! 避けろ!!」


 しかしそれは意味がなかった。

なぜなら彼女は母を守りたいのだから、避けたらそのまま母が死ぬのだから。

だからレイナは涙を溜めて、それでもそこから動こうとしなかった。

レイナも光の盾を発動する。

しかしその銀の盾は、飴細工のように砕け散り、アーノルドの拳がレイナに届く。


「まにあわ──!?」


『Bye』


 その手刀がレイナを貫こうとした時だった。

俺はライトニングを発動して、転移しようとする。

景虎会長も、天道さんも止めようとこちらに走ってくる。


 しかし誰も間に合わない。


 その世界最強の拳からは。


「レイナ……」


 最も近くにいたその人以外は。


「え?」


 レイナが後ろから突き飛ばされる。


 それはソフィアだった。

レイナを突き飛ばし、アーノルドから守った。


 つまり、貫かれたのは。


「ママ? ママ!!」


 ソフィアだった。

そのアーノルドの凶刃に貫かれ体をその手が貫通する。


『……ミッション完了だな。Hey、Boy。かっこよかったが、止められなかったな。……一応トドメ……差しとくか』


 アーノルドはその手を抜き取り、再度振り上げる。

だが、再度アーノルドは止まる。


『HAHAHA!……まるで悪役ヒールだな。なんだ? 俺は殺せと言われたから殺しただけだが?』


 しかし、その手を景虎会長と天道さんが二人がかりで止めた。


「坊主!」「灰君!」


 俺はその意図を理解する。

すぐにレイナと、血を流すソフィアさんを二人とも抱きかかえた。


『逃がすわけねぇだろ、どけぇ!! カス共!』


 直後アーノルドが天道さんと景虎会長を振り払い、俺達へとその化物じみた魔力で襲い掛かる。

捕まったら死、その速さは音速戦闘機よりも速い破壊の権化。

誰も逃げられない暴力の化身。


 でも俺なら。


「──ライトニング」


 稲妻となって逃げられる。


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