第73話 ライトニングー4
◇少しだけ時は戻り沖縄
その映像をテレビで見る灰、直後お爺さんの治療を中断して立ち上がる。
「先生、絶対に助けてください。俺の大切な人なんです。絶対に死なせたくない人なんです。だから──」
灰は立ち上がり、お爺さんの影を踏む。
そして目を閉じた。
新しい力の使い方を自覚して、そして体にまるで電気を纏う。
バチッ!
「なにを……!?……どうする気じゃ!? 灰君!?」
灰が新たに得た力の一つ。『ライトニング』。
闇を払うため、光となって移動する。
その速度は。
「──ライトニング」
稲妻のごとき。
◇東京
「みえますでしょうか、今我が国のS級達が滅神教を名乗る大司教と戦っています。一体日本はどうなってしまうのでしょうか。もし彼らが敗北したとき、我が国はどうなってしまうのでしょうか……」
ヘリの上からの中継は日本中、そして世界中に届けられる。
灰を恨む声はいつしか消えて、彼らの勝利を願う声しか日本には響かない。
だが、そんな願いをあざ笑うかのようにその瞬間も電波にのって届けられた。
日本一のギルド、アヴァロン。
その副代表であり、実質的な代表の田中一誠。
日本でS級を除けば一番有名な攻略者といってもいい。
その田中が、滅神教の凶刃に貫かれ、その命の灯が消えそうになっている光景が日本中に届いていく。
「田中さん! 田中さん!!」
「レイナ、あなたが言う通りにしないからよ。……あら、まだ息があるのね、さすがですね、田中さん。だから早く楽にしてあげます」
「い、いやぁぁ!! やめて、ママ!!」
ソフィアの右手が倒れる田中へと向けられる。
かろうじてまだ息をしているが、膝をついて田中の最後の命をかき消そうとしている。
レイナはそれでも動けなかった、体に力が入らない。
泣き叫ぶながら許しを請うことしかできなかった。
「くっ! どけぇぇ!! ローグ!!」
「それはできんな。確か田中だったかな、裏方のA級のくせにこの戦いに割って入るからだ」
「一誠さん!! くそぉぉ!! お前らそこをどけぇぇぇ!!」
「ははは! 黒龍!! ここであいつは死ぬんだよぉぉ!!」
天道も景虎も間に合わない。
先ほどのミスで、より戦局は悪くなる。
ここで田中を失い、レイナを失えばソフィアの参戦によってもはや戦局は決してしまう。
そしてその手が真っすぐと田中へと向けられた。
「レイナ……君、はや……く……ゴホッ!」
「田中さん! 血、血がぁぁ!! やめて、ママ! やめて!!」
レイナは田中の血で染まっている。
混乱し、何も考えられない。
そしてソフィアの手が振り上げられ、振り下ろされそうになる。
「じゃあね、田中さん。あの世で主人によろし──!?」
その時だった。
バチッ!
振り下ろされる手を、片手で突如現れた男が止める。
体に稲妻のような光を纏い、その目は黄金色に輝いて。
「やめろ……」
ソフィアの凶刃を正面から受け止める。
「この人は俺の大事な人なんだ、絶対に死なせない」
ソフィアの手を握り止めたのは、雷を纏った少年の手。
田中の炎が作り出した田中の影の上へ突如現れる。
「灰?……なんで……」
涙でよく見えないレイナはその背を見てつぶやいた。
見たことがある背中、でも一回り大きく見える。
それでもその背中は、間違いなく灰だった。
「灰君!?」
「坊主!?」
その声に天道と景虎が驚き叫ぶ。
灰はスキル『ライトニング』を用いて田中の影へと転移した。
昇格試験を終えた後、薄れゆく意識の中で灰は田中の影を踏んでいた。
もし目覚めた時すぐに飛んでいけるように。
そして今、『ライトニング』というスキルを手に入れた灰が田中の影へと瞬間移動した。
「田中さんから離れろ!!」
「くっ!」
灰は驚き理解できないソフィアを蹴り飛ばし、田中を抱き上げる。
そしてレイナが作り出す影を一度踏み、そして一言唱える。
「──ライトニング」
◇沖縄
「灰君!? 一体どこ──うぉぉ!?」
「先生! 絶対に助けてください! お願いします!」
灰はそのまま田中をベッドの上に優しく置いた。
医者は、驚き理解はできなくても目の前にいる患者が瀕死の重傷だということだけは理解した。
そしてそれは田中であることも。
「な、な!? ……いや、わかった、任せろ。なんでかは知らんが君は東京にいって帰ってきたんだな?」
「はい、田中さんを助けてください!」
「これはひどい……だが、内臓はそれほど傷ついておらん、これなら……。よし! ここは任せなさい!」
灰はそのお爺さんの目を見て頷いた。
すぐにお爺さんは治療を始めてくれる。
「お願いします、俺はまだやらなきゃいけないことがあるんで」
そして再度唱えるのは、レイナの影への。
「──ライトニング」
◇東京
「え?」
それは一瞬の出来事だった。
レイナも、景虎も天道も、誰も理解できない現象。
灰が現れたと思ったら田中を連れてまた消えた、と思ったらまた現れる。
「会長、天道さん! 田中さんは、治療を受けています。……きっと大丈夫です!」
「灰君……お前さんは一体……」
「景虎、今のはなんだ。何が起きている」
今の一瞬を見てローグも何が起きたか理解できなかった。
高速移動とも違う、まるでその場から消えたような、それはまるで転移のような。
「儂にもわからんよ。男子三日あわざるば刮目して見よ。灰君は一日にしたつもりがついに2,3時間でここまで変わってくるとはのぉ」
「そうか、あれが……。写真では随分弱そうに見えたのだが、顔つきもそして目もまるで歴戦の戦士ではないか。あれがあの方がおっしゃっていた天地灰……か」
「あぁ、頼りになる。もはやこの国を任せられるほどになぁ!!」
憂いの亡くなった景虎とローグが再度戦う。
「坊主……そうか、お前……。助かる、これで心置きなく戦える!!」
それは天道も同じこと。
レイナに気を配り集中できていなかった日本最強の黒龍は、安心して背中を任せられるその少年の登場で本当の力を発揮する。
「レイナ……もう大丈夫」
灰はその銀色の髪の二人の女性の間に立つ。
「灰……」
レイナはその背を見つめた。
「やっとあの日の恩返しができる……レイナ、君は覚えていないけど……ずっと言いたかった言葉があるんだ」
灰はにっこり笑って振り向いた。
「助けてくれてありがとう、今度は俺が守るよ」
泣きじゃくって、血で染まっているレイナ、その灰の笑顔を見て少し落ち着く。
「うん……」
レイナはコクっと頷いた。
「あなたが誰かは知りませんが……倒させてもらう」
(銀色の髪……この人……レイナに似ている?……)
灰はレイナの実力は知っている、それでもこれほどボロボロになるなんてそれほどの強敵には見えなかった。
むしろ、敵とはいえ綺麗だと思ったしどことなく、レイナに似ていると感じた。
「あなた……灰? もしかしてあなたが天地灰なのかしら?」
レイナが灰の名前を呼んだのを聞いて、その女性は驚いたように灰を見る。
灰はその質問に答えた。
「そうだ、俺が天地灰だ」
「そう……ふふ。そうなのね……じゃあ──」
直後その女性が薄ら笑いを浮かべたと思うと灰へと全力で走りこむ。
「──死ね」
その速度は間違いなくS級の実力を持つことが灰にはわかった。
灰の目の前でその手を振り上げる、今まで戦ってきた敵の中でトップレベルに速かった。
でも。
「──ライトニング」
「!?」
稲妻の速度には程遠い。