第67話 昇格試験(上級)?ー4
昨日上げる順番間違えました
第67話 昇格試験(上級)?ー1から読み直しすみません
「お前が……覚醒騎士。この試験のラスボスか」
真っ黒な一切の光を通さない黒い壁。
そこから現れたのは、対照的な白い騎士。
ただし一部黄色の装飾が施された白と黄色の甲冑を着ている。
体格は俺と同じぐらい。
ガシャンという音と共に西洋の鎧を纏った騎士は歩いてくる。
俺は神の眼を発動する。
その騎士が纏っている魔力は静かで完全に制御されていて、ゆらゆらと優しく揺れる。
この魔力は天道さんや景虎会長に似ている。
完全に自身の力を制御下に置いた達人のような魔力の流れ。
「みたらわかるよ、今までの敵とは格が違うって……」
上級職三体相手でも俺は楽勝とは言わずとも苦戦せず勝利できた。
だがこの相手にはそのイメージが湧かない。
全力を賭して、なお届くか分からない。
それほど洗練されている技術とプレッシャーを感じた。
「……ライトニング」
俺は即座に神の眼でステータスを見た。
そしてその魔力量に絶句する。
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名前:ライトニング
状態:弱体化
職業:覚醒騎士(雷)【覚醒】
スキル:ライトニング
魔 力:300000
攻撃力:反映率▶75%=225000
防御力:反映率▶25%=75000
素早さ:反映率▶50%=150000
知 力:反映率▶50%=150000
装備
・騎士の紋章
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「魔力30万……天道さん達を除いたら今までの誰よりも強い」
俺の魔力は25万、対するこの騎士の魔力は30万。
そもそも魔力が大きくなりすぎて5万の差が大して大きく感じないがそれは違う。
レベル0の魔力5の頃に、魔力五万の龍王や鬼王と対面したらわかるだろう、相手にならない。
といってもこの差はそれほどの絶望はない。
もちろん、素手でナイフと戦ったら敗北は必須だが、果物ナイフと軍用ナイフで戦えば戦いようによっては勝てるはず。
お互い相手の命に触れるだけの火力は持っているのだから。
それに反映率のおかげでステータスの数値だけを見るなら俺の方がいくらか強い。
「彩のおかげだな……生きて帰ったら感謝のハグをしてやらないと」
俺はその手に握る龍王の剣をもう一度強く握る。
彩の愛が込められているはずの純白の剣。
あのクールのはずのお嬢様は、俺がぎゅっと抱きしめたら一体どんな顔をするのだろうか。
また真っ赤な顔で慌てて照れて、可愛い顔をしてくれるのだろうか。
「絶対見ないといけないな……だから、俺は生き残る!」
俺は油断せず前を向く。
魔力の差はそれほどない。
ならば勝負を分けるのはスキルの差。
だから俺はその『ライトニング』と書かれたスキルの詳細を見ようとした。
黄金色に輝く眼で俺の前にに立ちはだかる白と黄色の甲冑を着た騎士。
その一挙手一投足を油断なく見つめ、ステータスの詳細を見ようとした時だった。
俺に向かってゆっくりと俺の剣と同じぐらい真っ白な剣を持ち上げる。
戦闘態勢、切っ先を俺に向けた。
戦闘開始の合図なのかと俺も剣を掲げて身構えた。
神の眼も発動して、何が起きても対応できる。
そう思ったのに。
バチッ
俺の耳に乾いた音がした。
まるで静電気のような、電気がはじけるような音。
俺が一瞬だけ瞬きした瞬間だった。
俺は本当に瞬きをしただけ、それこそ一秒の満たない刹那の時間。
神の眼も発動しているので、魔力の動きも見えていた。
仮に音速の速度で動かれようが、見失うなんてことはない。
なのに。
「!?」
俺はその『白い稲妻』を見失った。
それは、はっきり言うと運だった。
意識も思考も回っていない、なのに体が勝手に動いてくれた。
数か月だが何度も死というものを乗り越えた俺だからこそ。
死という感覚を誰よりも経験してきたからこそ、俺の体は思考を超えて反射で動いた。
後ろで鎧が擦れる音がした。
右から剣が空気をつぶすような音がした。
首筋にナイフを当てられているかのような死の音が迫ってきた。
いつだってギリギリの戦いを超えてきたからこそ。
「ぐっ!!」
俺の体が無意識の中で、俺の命を守ってくれた。
すれすれで俺の首筋を狙った剣、その剣と俺の首の間に何とか龍王の剣をねじ込んだ。
両手で握った剣が、ものすごい勢いで横から殴られたような衝撃が走る。
俺の全身が痺れるような振動を受けこけそうになるが、何とか踏ん張る。
何が起きたか理解できない俺はそれでも、必死に頭を回転させる。
倒れそうな体勢を整え、その背後に現れた騎士に剣を振るった。
その一撃を躱そうと後ろに飛びのいた騎士。
一瞬だけ俺に思考する時間が与えられる。
(なんだ……今の……一体なにがおきた……)
俺はその白い騎士のステータスを見た。
早く見ろ、早く何が起きたか理解しろ、じゃないと。
「……なんだよ、そのスキル」
死ぬ。
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属性:スキル
名称:ライトニング
入手難易度:ー
効果:
・視界内の影へと稲妻の速度で移動可能。(失敗時:CD1秒)
マーキングした相手に対しては、視界外からでも対象の影の上に稲妻の速度で移動可能
※マーキング:対象(生物)の影を一度踏む。
・触れている物体も同時に移動する。
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俺は一瞬でその文字を読み理解した。
つまるところあいつは視界内の影に稲妻、つまり光の速度で移動してくるのだろう。
加えてもう一つ、もし俺の影を一度でも踏めばマーキングされる。
マーキングした相手は、どこからでも俺の影に移動することができるらしい。
それは、対象(生物)と言及していることから無機物はできないようだ。
「チ、チートじゃねーか!」
稲妻の速度で移動する?
それは光の速度で移動すると同義だ。
光にも速度はあるとはいえ、この地球上に光が距離を感じるような場所はほぼないだろう。
つまり、瞬間移動と同義。
古今東西ありとあらゆる創作物において瞬間移動は確実にチートだ。
人類の夢でもあるその能力を有したスキルに俺はチートだと叫ぶ。
バチッ!
その俺の魂の叫びと同時にまた『ライトニング』が発動された。
俺の視界から完全に消えて俺の後ろ、背後の影へと稲妻の音と共に移動する。
能力を知っていたからこそ、俺は消えた瞬間後ろを振り返りその一撃を防ぐことに成功した。
そいつは、そのまま付近の影へと再度スキルを使用して距離を取られる。
俺はとりあえず走って逃げた。
戦略を立てるにしても、まずはあいつの攻撃から逃げなくてはならない。
だが、俺はすぐに気づく。
ライトニング、その能力の本当の怖さを。
「はぁはぁ……くそ、魔力の動きでいつ転移するかはなんとなくわかるけど……どこに転移するかは全く分からない」
ライトニング発動直前、魔力がまるで感電したかのように震える。
だから発動するのはわかる。
俺は支柱の裏に一旦逃げた。
だが、逃げた瞬間に気づく。
「……違う! 逃げても!!」
気づいたと同時に目の前にそいつは現れる。
瞬きした瞬間、俺の影の上に光の速度で現れて剣を振り上げている。
『ライトニング』のもう一つの力。
一度踏んだ生物の影の上ならばどこにいてもそこへと転移できる。
たとえ視界内にいなくても。
「くそっ! 隠れることもできない!」
振り下ろされた剣を、ギリギリで顔の目の前で受け止める。
鼻先に受け止めた剣が触れるほどギリギリ。
闇を照らす光の力。
夜を照らす一筋の稲妻は、どこに逃げようとも。
何度でも俺の闇に落ちてくる。