第65話 昇格試験(上級)?ー2
◇少し時刻は戻り、灰達がA級キューブの攻略を開始した頃。
ここはダンジョン協会日本支部。
その取調室で厳重に拘束された男と一人のスーツの女性が机をはさんで向かい合う。
「で、お前達の目的はなんだ。少しは話す気になったか?」
その女性は椿。
ダンジョン協会会長の懐刀と呼ばれるA級覚醒者であり、覚醒者犯罪に関してを主に担当している。
日本の女性公務員の中ではレイナを除けば最も強く正義の女性、その目は鋭く一切の油断はない。
だがこのやり取りも何回目かもわからない。
今日も同じ質問をし、必ず同じ答えが返ってくる。
「既存の神の世界を壊すこと」
「お前達はそればかりだな、痛いのがお好みかな? まさかこの国に拷問などないと思っているのか?」
日本語ではない言語で話すその男は灰によって倒された滅神教のB級覚醒者。
滅神教にとっては使い捨てだろうが、それでも世界の上位存在である覚醒者だった。
椿は同じ言語で会話する。
「聞き方を変えよう、なぜ天地灰を狙う。龍園寺彩は景虎会長の娘であり、S級だ、影響は大きい。まだ理解はできる。だがなぜアンランクの天地灰を狙う」
椿はあれから調べたが、協会にはアンランクから成長し、C級として登録されていた。
そんな偶然はないと思ったのだが、会長に問いただすとふざけた顔で今はひ・み・つ♥と言われた。
ぶん殴ってやろうかと思ったが会長は痛覚がないし、殴ったこっちがケガしそうなのでやめたが。
「ふっ。アンランク? あれが? バカなことを言うな。我らはただあの男を殺せと命令されただけだ。どちらかというとあの女の方がついでだな」
「……一体どういうことだ、お前達は何を狙っている。ただテロ行為をして力を示したいだけではないのか?」
「テロ行為? ふふふ、ははは! 何を馬鹿なことを言っている。我らはいつだって目的のため行動している。既存の世界を壊し、新たな世界を創造するためなのだ。力を誇示したいだけのわけがないだろう、我々は我らの未来のために動いているのだから。既存の神が我々から奪い取った世界を」
椿は諦めたように目を閉じる。
滅神教は今までも同じように捕まえたことはある。
それは海外でも同様だ、しかし全員がこれである。
既存の神の世界を壊す。
その方法も、やり方もわからずにただ末端の狂信者たちはそれが目的だと話すだけだった。
間違いなく洗脳されているのだろうことは分かる。
椿が今日も諦めて立ち上がろうとした時だった。
「俺からも一つ聞かせてくれ」
「……なんだ」
椿はその質問から何か情報が引き出せないかと質問を受け取ることにする。
「今は何日の何時だ?」
「時間?……今日は9月30日、時刻は昼の12時を回ったところだ。それがどうした」
「ふふふ、そうか。そうか。ではもうすぐだな」
「何がだ」
「我々からの報告がないからな……あの方々が来るぞ。もうすぐだ、もう、すぐそこまでこられているぞ。あの方々が!」
「何を……」
その時だった。
ドーーン!!
強大な爆発音とともに、協会の建物全体が揺れた。
何が起きたと椿は立ち上がる。
慌てて職員が扉を開けて椿を呼んだ。
「椿さん! 強大な火の魔法が協会本部に落ちました!! 今の規模は最低でもA級。下手をすれば……S級かもしれません!」
「なんだと!? すぐにいく! お前は会長に連絡しろ!」
椿は取調室を後にした。
ただ一人その男だけはずっと高笑いを続けている。
「こられたぞ! 大司教様達がお越しだ。終わりだ、この国は。大した力もないくせに、神の寵愛を受けたばっかりに。この極東の島国は終わる。……ふふふ……はははは!!!」
◇時刻は灰が騎士昇格試験中へと戻る。
俺はあまたの屍の上に立っていた。
30、あまりの数の多さに笑ってしまう。
しかも全員が魔力一万つまりはA級ということ、こいつらだけで一クラスできてしまうぞ。
連携は人間ほどは取れていなかった、それでも苦戦はさせられた。
しかし俺は勝利した。
「……これが魔力の差か。たとえA級下位が30いようともS級には勝てないっていう証明だな」
俺は自分のステータスを見る。
B級キューブを全力で攻略し続け、そして彩によって最高のアーティファクトを装備している今の俺の力を。
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名前:天地灰
状態:良好
職業:初級騎士(光)【初級】
スキル:神の眼、アクセス権限Lv2、ミラージュ
魔 力:251185
攻撃力:反映率▶50(+30)%=200948
防御力:反映率▶25(+30)%=138151
素早さ:反映率▶25(+30)%=138151
知 力:反映率▶50(+30)%=200948
装備
・龍王石の白剣=全反映率+30%
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彩のアーティファクトによって、すべての能力が30%上昇している。
それに関東のB級キューブはほぼすべて攻略するぐらいの勢いで攻略したため俺の魔力は今25万となっている。
一日二つ回るのが限界だったので一週間で13個ほど攻略した。
30の敵をなぎ倒した俺は肩で息をしながらも扉の先に進むのかと思い、歩いていく。
すると、その敵が現れた扉は真っ黒なだけで次に進めなかった。
「これはここで待機ってことか?」
おそらく今回のダンジョンはまるでタワーディフェンスのように押し寄せる敵を駆逐していくのが目的のようだ。
だから俺は今座り込んでコンビニで買ったサンドイッチと水を食べてスタンバっている。
疲労はあるが、傷と呼べるほどのダメージはないためできるだけ体力を回復しておこうという状態だ。
正直走り回ったので、少し息が切れている。
「初級が来たってことは……次は上級の奴らがきそうだよな……そういえば初級騎士の上級ってなんなんだろう、上級騎士?」
盾使いと魔法使いの上級は知っている。
パラディンとウィザードだ。
といっても基本はそれだろうが、実際は派生しているのだろう。
会長のバーサーカーはおそらく盾使いの派生だ。
もしかしたらその人の適性に合わせた職業内容に変わるのかもしれない。
なら俺の騎士の上は何だろうか。
そもそも騎士とは何なんだろう。
この俺の首にかかっているランスロットと書かれたタグ。
それを着けていると昇格試験が、騎士昇格試験へと変わっている。
「でも初級にしては、騎士の力は異常だとは思うけどな……」
他の職業に比べて騎士の強さは一段上の気がする。
といってもほとんどサンプルがないから思い込みかもしれないが。
「……来たか」
ガシャンガシャン
鎧が歩く音がする。
俺は水で食べ物を流し込み立ち上がる。
剣を構えて油断せずに、現れた敵を見据えた。
真っ黒な扉の先、闇の中から二体の敵が現れた。
「……だろうと思ったけど……最初の昇格試験を思い出すな」
そこには、豪華な鎧と大きな盾を持った騎士、パラディン。
あのダンジョン協会の椿さんと同じだ。
そしてもうひとり、まるで田中さんのような豪華なローブを着た魔法使いの上級職。
ウィザードがいた。
敵はどうやら二体のようだ。
「二体か……はは、さすがにもうそんな油断はねぇよ」
だが、今の俺に油断はない。
神の眼を発動し、世界を見る。
黄金色に輝いた瞳は、灰色の世界を彩づかせ、世界の真実を映し出す。
俺は何もないはずの虚空に向かって剣を振るう。
なぜならそこには。
「残念ながらこの眼の前では、どんだけうまく隠れても!!──」
キーン!!
「──見えてるぞ! アサシン!」
三体目の暗殺者が俺の命を狙っていたから。
昨日 レベル表記をランク表記に変更しました。
レベル0→アンランク(最初の灰)
レベル1→E級
レベル2→D級
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レベル5→A級
レベル6→S級