第60話 A級キューブ in 沖縄ー4
ビーチバレーも楽しんだ俺達はそのまま海水浴を楽しんだ。
親睦を深めるためのビーチバレーは、しっかり俺達の仲を深めてくれた、多分。
今は少しだけパラソルの下で飲み物を飲みながら休憩中。
「天道さん、覇邪一閃すごい威力でしたよ。魔力を纏わせるんですね、魔力って自分の周りしか纏わないと思ってました」
「明日本気の一撃をみせてやるよ、魔物相手になら問題ねぇからな。俺も原理はよくわかんねぇけどな」
「はは、楽しみにしてます」
「灰さん、守ってくれてありがとうございます。龍さんは私を殺す気ですか? 一瞬パパとママが見えました」
「死なねぇよ。アーティファクトで防御力を上げてる彩じゃ。お前にぶつかってボールが割れて終わる。それを狙ってたんだがな……よく止めたな坊主。眼がいいのか? まるでくる場所がわかってたみたいだったぞ」
「あーはは、確かに目は良いですね」
俺達が談笑していると彩の横に凪が座る。
「ふぅ疲れた。彩さんとお兄ちゃんも泳いできたら? 楽しいよ、景虎会長って面白いね」
「あのじじぃははしゃぎ過ぎだ。一番はしゃいでるだろ、あの年でよくやる」
「はは、でも俺は好きですよ。会長がいると賑やかでいいですよね」
「まぁそうだな。あの爺さん元気だけは良いからな」
すると凪が、彩を肘でつつく。
まるで何かを急かしているように。
「あ、あの灰さん?」
彩が立ち上がり、俺の前に来る。
なんでこんなに顔が赤いんだ? 暑いからか? 手で顔を仰ぐようにして目を泳がせる。
「少し泳ぎたい……です」
「ん? いってきたら?」
「ええっと……ええっと……そうじゃなくて……ええっと」
「どうしたそんなに慌て──げふっ!? どうした妹よ!?」
突如妹に脇腹を殴られる。
兄が何をしたというんだ、妹よ。
「お兄ちゃん、邪魔だから泳いできたら? 私天道さんと少しお話ししたいんだけど」
「えぇ……邪魔なの?」
突如浴びせられる反抗期の妹の暴言。
さっきまであんなにお兄ちゃんっ子だったのに、この豹変ぶりである。
ってかいつの間にこんな野獣さんのことを? 食い殺されないか心配だぞ。
「うん、はやく!!」
そして俺はしぶしぶ彩と一緒に浜辺へと向かった。
食い殺されないか心配だなと後ろを何度か振り返る。
まぁ天道さんは実は良い人なので問題ないのは分かっているが美少女と野獣だな。
「大変だな、あんな兄だと」
「はい、でも最高のお兄ちゃんです」
「はは、俺には姉しかいねぇが兄妹仲いいのが一番だ」
凪と天道は、二人の背中を優しく見守った。
…
「……みて。すっごい美人……」
「モデルさんかな? 綺麗な黒髪……」
「彼氏さんもすごい良い身体。美味しそう……」
彩は目立つので隣を歩くと結構こんな声が聞こえてくる。
美人と言われ慣れている彩は一切気にせずすたすたとモデルのように歩いていくのだが。
それにしても黒のビキニが似合っているな、正直ドキドキするというのが本音である。
レイナの破壊力のせいで少しばかり威力を失ったが、俺には少し刺激が厳しい。
「そういえば、灰さん。あとでアーティファクトを作り直しませんか?」
「あ! そうそう、お願いしようと思ったんだよ、彩のスキルレベル上がってたでしょ? そのおかげか反映率もあがってるっぽいんだよね」
「そうみたいですね、強くなったのを実感します。じゃあ今夜……しますか? また……」
そういう彩は顔を赤くしながら少し震える声で下を向きながら俺に言った。
俺もその言葉で、何をするかを想像してしまい少し照れて頬を指で掻きながら頷く。
「……う、うん。彩がいいなら」
「私は……いつでもいいです」
「じゃあ今夜、お願いできる?」
「はい。灰さんが呼んでくれるならいつでも……部屋に行きます」
(なんか少しエッチに聞こえるのは俺だけでしょうか……)
今日の夜、彩にアーティファクトを作ってもらう約束をする。
魔力石ならA級のがたくさんあるので数は問題ない。
いつかS級の魔力石ができたら真っ先に彩に作ってもらおう。
「気持ちいいですね、海。気温も最高です」
俺達はそのまま海へと入る。
海はぬるい温度でとても気持ちいい。
こういうときは水の掛け合いとかするんだろうか……。
でもそれはカップル限定か。
サバーーン!!
そう思っていると俺と彩が空から降ってきた大量の水でずぶぬれになる。
何が起きたと俺が元凶を見た。
そこにははしゃぐ会長とレイナがいた。
「ガハハ! どうじゃ、レイナ!! ぬらぁぁ!!!」
「お爺ちゃん、滝みたい」
横ではまるで爆撃されたような海が水柱を上げて舞い上がっている。
会長が全力で水をかけあっている、いやあれは掛け合っているというのか? 攻撃しているの間違いでは?
レイナのほうは、なぜかその滝のように落ちてくる水を躱そうとしているようだ。
目にも止まらぬ速さで水をよけ続けるレイナ。
あれなんて遊び?
「ふふ、灰さん、私達もやりますか?」
「あれを?」
「……いえ、普通に泳ぎましょうか」
「そうしよっか。あ、あの島までいってみようよ。今の俺達なら余裕だろうし」
俺は少し先に見える離れ小島を指さした。
そこは小さな無人島、距離にして一キロほどはあるのだろうが今の俺達なら余裕だろう。
「はい」
俺達は泳ぐ。
急いでいるわけではないので、のんびりだがそれでも少し力をいれるだけでまるでジェットスキーのような推進力で前に進む。
「ふぅ……強くなってから初めて泳いだけど気持ちいいな」
「はい、私もです」
そういえば彩もステータスが上昇してから泳ぐのは初めてかな。
まだこの力に気づいてから一月ほどしかたってないのだから当然か。
そういう意味ではやっぱり俺達は少し境遇が似ているかもしれない。
俺達はそのまま無人島の砂浜につき、あぐらをかいて座った。
とても綺麗で、真っ白な砂浜、いつの間にか日も落ち始め夕暮れの色が紅く海を照らし出す。
俺はふと横を見る。
横には彩が同じように綺麗な姿勢で両足を揃えて座っていた。
濡れた髪を両手でかき上げて、夕暮れの光に少し照らされている。
俺と目が合うと、優しく笑いかけてくれた。
真っ黒なアップされた髪とハイビスカス。
それと赤いピアスが夕暮れで煌めく。
綺麗だった。
元々芸能人みたいに美人なのは分かっている。
それでも周りに誰もおらず、無人島に二人きり。
このシチュエーションは少しぐっとくるものがあった。
「彩……」
名前を呼ぶと彩が俺を見つめてくれる。
俺も彩を見つめていた。
見つめたまま俺達はなぜか無言になってしまった。
少し手を伸ばせば彼女に触れられる。
少し近づけばキスできる。
俺だって健全な男だ。
沖縄の夏は何かが起きそうな気がした。
この手を伸ばせば何かが変わる気がした。
彩のことは可愛いと思う、それが異性として好きという感情なのかは正直よくわからない。
好きと可愛いの違いが恋愛弱者の俺にはまだよくわからない。
元々恋愛感情が成就したこともなく、憧れと好きという感情の違いも俺はよくわからない。
そういう意味ならレイナに憧れたのは間違いはないのだが、それでも好きなのかと言われたら疑問がでていくる。
じゃあ彩はどうなんだ?
まだ出会って日も浅いが、それでもとても濃い時間を過ごした。
憧れている? それは少し違う。
守ってあげたい? それはそうだ。
じゃあ触れたい? ……今は……少し触れたい。
キスしたい? …………。
俺が戸惑っていると、彩が何かを決意したように身を乗り出して俺に近づく。
両手で体を支えて、まるで迫ってくるように。
レイナほどではないにしろ、それでもスタイルがいい胸が手で押されて谷間を作る。
「灰さん……私……灰さんに言いたいことが……」
頬をいつものように真っ赤に染めて、夕暮れの赤よりもほんのり赤く。
彩は俺に近づいてくる。