第59話 A級キューブ in 沖縄ー3
「な、な、な、何を言ってるの!? 凪ちゃん!」
「大丈夫です、お兄ちゃん以外は多分わかってます。彩さんわかりやすすぎですし。あ、レイナさんも気づいてないかな。あんな感じだし、お兄ちゃんが逆にレイナさんに対してわかりやすいけど。まぁあれは好きというより憧れですが」
「そ、そんなに? わ、わかりやすい?」
「はい、もうお兄ちゃんのことずっと目で追ってるし、レイナさんと仲良くしてると不機嫌になるし、もう、すぐわかります!」
「……うぅ……」
「ふふ、で? 好きなんですか? どうなんですか! お兄ちゃんといちゃいちゃしたいんですか?」
「……そ、それは」
「彩さん! 白状してください! お兄ちゃんとラブラブしたいんでしょ!!」
「……うぅ……は、灰さんのことす、す……」
「す?」
だが彩は次につながる言葉を言えなかった。
でも、こくりと真っ赤な顔で頷いた、彩にとって精一杯ではある意思表示。
それをみた凪はにんまり笑う。
「ふふ、まぁいいでしょう。今日のところはそれで勘弁してあげます。それでですね、彩さん! 私協力します!」
「え?」
「私的にはレイナさんより、彩さんとくっついてほしいなって。レイナさんが嫌いなわけではないんですけどね! でも彩さんには恩もありますし、それに私的には彩さんがお姉ちゃんって感じです!」
「な、凪ちゃん……」
「だから頑張りましょう! ほら、手を!」
凪は彩に握手を求めてにっこり笑う。
「……じゃあ……お願い!」
凪と彩は手を結ぶ。
凪的には兄の灰は大好きだが、別に異性として見ているわけではない。
幼い頃からずっと面倒を見てくれたいわば親、それでも兄のために命ぐらい懸ける覚悟はあるのだが。
そんな兄がいつの間にかかっこよくなってこんなに良い人に惚れられている。
ならばくっつけたいと思うのが妹心、そして。
「わくわくします!」
色恋は女の子の一番好きな話題でもあるのだから。
それが大好きな兄と、好きな彩となっては当然でもある。
◇灰視点
「あれ? レイナ?」
バーベキューも終盤の頃。
俺はレイナが一人砂浜に立って海を見つめていたので、お肉をもって話しかけにいく。
「レイナ、どうしたのこんなとこ──!?」
麦わら帽子をかぶって海を見ているレイナ、だがその表情を見た俺は驚く。
なぜならレイナは泣いていた。
泣きじゃくるというわけでもなく、その無表情な氷のような目でそれでも海を真っすぐ見つめて涙を流していた。
一筋の光が静かに流れ落ちる。
「……お母さん」
悲しそうだった。
でもどこか懐かしいものを思い出す哀愁のような姿で銀色の髪をなびかせ立つ。
それはまるで一枚の絵画のようだった。
「レイナ……大丈夫?」
俺は恐る恐る、レイナゆっくり話しかける。
「灰……なにが?」
「え? なにがって……だって海を見て……お母さんって」
「お母さん? わからない。でもここ……来たことがある気がする。さっきのホテルも。でもよくわからないの、遠い遠い記憶、きっと私が怖くて仕舞ってしまった記憶の中」
「そっか……」
景虎会長に聞いたことがある。
レイナは昔の記憶を封印している、それは思い出したら心が壊れてしまいそうな記憶だという。
それと一緒に感情も封印してしまったのではないかと。
「いつか……思い出せたらいいね」
「……うん」
レイナは一言だけ頷いて、そのままみんなのもとへと戻っていった。
俺は何か夢でも見たのかという錯覚に陥ったが、今のは本当に涙だったのだろうか。
その涙が印象的過ぎて俺はレイナのその表情が忘れられなかった。
…
バーベキューも終盤になり腹が膨れてきたころ。
凪と彩が何かこそこそやっているようだったが、仲良くなってくれてとても嬉しい。
彩は凪を妹のように面倒みてくれるので、俺としてはとても助かるし、凪の笑顔は幸せになれる。
あれ? あんなに悪そうに笑うやつだったか?
「では……バーベキューもひと段落ついたということで……」
会長が一人立ち上がり、にやにやと笑いながら酸素を肺に取り入れた。
そして。
「ドキドキ! 沖縄の海でビーチバレー! 愛と友情とチームワーク活性化大作戦じゃぁぁぁ!!!」
いきなり大声で叫び出す。
「え? ビーチバレー?」
俺が疑問に思っていると田中さんと会長がこそこそと何かを取り出した。
それはよく見るビーチバレー用の球だった、青と黄色と白色のよく見るあれ。
「なんだ、じじぃのいつもの悪ノリかと思ったら一誠さんも一枚かんでるんですか」
「はは、提案は会長だけどね。だがチームワークを高めるために球技をするというのはとても理にかなっている、遊びを通して少し親睦を深めようと思ってね」
「あぁ、そういうことですか。それは楽しそうですね!」
そういう田中さんは、近くに立っていたホテルの従業員に話しかけたかと思うと、てきぱきとビーチバレーのコートが組みあがっていく。
元々計画していたようで、迅速に砂浜の一角を占領しビーチバレーコートが組み立てられた。
白い砂浜に真っ白なコートが引かれ、ネットがくみ上げられていく。
「ではルールを説明しよう!」
すると会長がそのボールを手にもって仁王立ちするようにルール説明を始める。
まるでボールがソフトボールみたいだなと思ったが、会長が大きすぎるだけだった。
「ルールは簡単、3VS3じゃ。基本的にはバレーと同じ、ボールをつないで敵のコートに入れる。触れるのは一回のみじゃぞ。勝利条件は二つ。11点先取か、もしくは──」
会長がそのボールを空高く上げて、見事なまでのサーブフォーム。
ムキムキなだけに少し気持ち悪いと思ってしまうが、綺麗なフォームのまま天高く上がったボールを思いっきり。
「ぬらぁぁぁぁ!!」
叩き潰す。
パーーン!!
まるで何かが爆発したような音が海水浴場に鳴り響く。
全員がこちらをなにがあったのかと凝視する。
何が起きたかと思ったが、単純だった。
ボールがはじけ飛んだ。
文字通り、ものすごい力で叩かれたボールは空中で爆発した。
「──今のように、ボールを破壊したほうが負けじゃ」
「なんだその脳筋ビーチバレーは……」
気づけば田中さんが爆音によって驚いている海水浴に来ていたグループに何か菓子折りのようなものをもって謝りに回っていた。
田中さんも大変だな……。
…
「では、はじめようか」
今俺達はコートの上に立っている。
三人、三人のチーム分け、審判は田中さんだ。
「お、お兄ちゃん……私頑張る」
俺の隣には生まれたての小鹿のように震える凪。
俺と凪は同じチームが良いだろうということになった。
だが、先ほどの爆撃のようなスパイクを見て震えている、なぜこんな危険地帯に妹を連れてきてしまったのか。
せめて俺が守ってあげないと。
そしてもう一人のチームメイトは、彩だった。
不思議な力が働いたチーム分けのくじで、彩が俺と同じチームとなる。
ならば向こうは残り三名。
キン肉マン、キン肉マン2、そして美少女。
美女と野獣ならぬキン肉マン達の日本最強のS級チームだった。
あのメンバーなら国すら落とせるだろう、なんでビーチバレーやってるんだ?
「では、双方スポーツマンシップに則ってできる限り全力で。ただし地形を壊さないように」
「ガハハ! 血がたぎるのぉ、龍之介!」
「楽しそうだな、じじぃ」
「おじいちゃん、楽しそう」
試合が始まる。
基本的に俺が受け取って、凪はトス。
そして彩にスパイクしてもらおう、それが一番危険が少ない。
なぜビーチバレーで危険かどうかを考えなけばならぬのか。
「俺が受けるよ、彩」
「大丈夫ですよ。灰さん」
「え?」
「では開始!!」
すると会長がトスを上げて、スパイクを放つ。
「ではいくぞぉぉ!! ぬらぁぁ!!」
その威力たるやまるでミサイル、轟音と共に空気を押しつぶし隕石のような球が飛んでくる。
「バカか!? こんなのもはや攻撃だろ!!」
俺はその落下位置へと走りこもうとした。
しかし、灰よりも早くそこにいる少女が一人。
「あ、彩!?」
彩がレシーブしようとしていた。
だが、あんな球無理だ、怪我をする。
俺が手を伸ばそうとするが、もはや間に合わない。
しかし。
フワッ
「え? あがった!?」
「凪ちゃん!」
「はい!」
凪がトスする、俺はそれに合わせてジャンプをし、スパイクを打ち込み見事に得点を決めた。
レイナの真横にボールが埋まる。
「ぬぅ!! やりおる!」
会長が悔しそうにしているが、俺も驚いていた。
「彩、すごいよ!」
「べ、別にこれぐらい普通です。昔バレーでリベロをたしなんでいましたし、今の私のステータスならこれぐらいは」
そういう少し照れてる彩のステータスを見つめる。
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名前:龍園寺彩
状態:良好
職業:アーティファクター【覚醒】
スキル:アーティファクト製造Lv2
魔 力:325040
攻撃力:反映率▶30%=97512
防御力:反映率▶30%=97512
素早さ:反映率▶30%=97512
知 力:反映率▶200%=650080
装備
・黒龍の防=攻撃力反映率30%上昇、防御力反映率25%上昇
・緑龍の力=防御力反映率30%上昇、素早さ反映率25%上昇
・黄龍の早=素早さ反映率30%上昇、攻撃力反映率25%上昇
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実はあれから彩はなんどもアーティファクト製造を行なっていた。
景虎会長が惜しみなく現役時代に集めた魔力石を使いまくったらしい。
実に100回はやったそうだが、それだけで何百億になるのか。
「す、すごいよ! 彩!」
俺は彩の手を握る、少し赤くはなっているがそれでもほとんど威力を殺すことに成功していたんだろう。
彩は戦士ではない。
それでもスポーツ万能頭脳明晰の万能完璧美少女であり、しかも経験者となればとても心強かった。
「彩となら勝てそうだ、レシーブはお願いしてもいい?」
「もちろんです!」
彩がレシーブ、凪がトス、そしてスパイクは俺。
この三人の連携はすさまじく、どんどん点差を離していく。
「ぬぅぅ、レイナ! なにしとるかぁ! なぜさっきから拾わん! あれぐらいお前なら余裕じゃろうが」
会長が熱くなり、レイナを叱る。
「なにが?」
しかしレイナはきょとんとした顔で首をかしげる。
「なにがって……まさかルール知らんのか?」
コクっと頷くレイナ、いや、なんでずっと立ってた?
どこか抜けているレイナに全員が苦笑いしながらもルール説明を行なった。
「わかった、彩みたいにすればいいのね」
「そ、そうじゃが。まぁ彩はあれで結構スポーツ万能じゃから、とりあえず上げてくれればいいぞ」
そして会長が再度爆撃のようなサーブを打つ、しかし彩の前では無意味。
まるで達人のように、柳のように受け流し、トスを上げる。
俺はそのままレイナ目掛けてスパイクを放つ。
それは俺の優しさ。
せっかくルールを覚えたんだ、一度はやってみたほうがいいだろう。
とれるものならな!!
俺も少しだけ熱くなっていた。
アドレナリンを分泌させて気分を高揚させる。
勝負事というものは否応にも男を熱くさせるものだ。
テンション高く、レイナへと弾丸スパイク。
だが、俺は後悔する。
会長ほどではないにしろ、結構な威力で放ったはず。
それこそ一般人なら打撲で済まない殺人級の威力、しかし。
フワッ。
まるで彩のように滑らかに着地点へとレイナが先回りする。
まるで彩と全く同じフォームで、全く同じ動作をする。
ならば必然全く同じように美しく、球が上がる。
真似というには、あまりにレベルの高いコピー。
会長に前聞いたことがある、レイナの才能は魔力無しにしても化け物だと。
「よくやったレイナ! いけ、龍之介!!」
「やっとスパイクか……初めてだな……」
天道さんがだるそうに、首をコキコキならしながら地面を蹴った。
やばい。
俺は直感で、神の眼を発動する。
黄金色に輝いた目、その目で天道さんを見つめると、その手に今まで見たこともないような巨大な魔力が集まった。
色は黒、まるで墨汁のような光を通さないブラックホールのような黒。
その漆黒の魔力が腕から手からボールへと伝わっていく。
「覇邪一閃……」
その一撃はそれでも手加減していたのだろう。
ボールを壊さないように、手加減はしていたのだろう。
だが弾くのではなくまるで押すようにスパイクを打ったそれは空気の壁を突き破り、轟音を上げて俺達のコートへと向かってくる。
『覇邪一閃』それは天道さんが持つ侍という職業が持つスキル。
詳細は、ただ魔力を乗せた飛ぶ斬撃。
その魔力を今、あの人はボールに乗せて放ったのだ、殺す気か?
そのまるで黒龍のような一撃が、うなりを上げて飛んでくる。
彩の反応速度では動けなかった、彩を責めることはできない。
彼女は戦士ではないのだから。
それほどの一撃だった。
漆黒の荒ぶる龍が、彩に向かって飛んでいく。
魔力すらおびたその弾は、人の命にすら触れかねない。
だから。
「ぐぅぅ!!」
俺が守ってやらないと。
「灰さん!」
俺はその一撃を受けきった。
衝撃を殺そうと力を抜いたせいで、盛大に後ろに回転しながら吹き飛んだ。
まるで爆発したかのような衝撃で白い砂を巻き上げる。
俺はそのままひっくり返って地面に埋まる。
腕に食らった衝撃は、魔力で守られているので大したことはないのだが。
しかし、ボールだけは生き延びる。
「凪ちゃん!」
「はい!」
砂に埋まりながら見た光景は、凪がトスを上げて彩がスパイクを決める光景。
とても美しいスパイク、先ほどまでの俺のスパイクにも負けず劣らずの威力をもったスパイクが敵コートへとまるで弓矢のように飛んでいく。
レイナのほうでは受けられると考えた彩はスパイクを打つためにネット際にいた天道さんを狙う。
天道さんはスパイク後で体勢を少し崩していた。
これは決まった。
そう思ったのに。
「悪くねぇけどな……」
日本最強の男が立ちはだかる。
驚異的な反射神経と技術。
片手の甲だけを使って器用にボールの威力を殺しきり宙に浮かせる。
これが日本最強にして、歴戦の戦士、ただ魔力が強いだけではなく、武術の達人としても世界を席巻する天道龍之介という男の技。
それは彩の攻撃程度で貫けるはずもなかった。
高く上がったボールを会長がトスを上げる。
「よっしゃぁぁ!! レイナ!! 全力でスパイクじゃぁぁ!!」
レイナが飛んで、彩と全く同じ美しく理にかなったスパイクポーズ。
終わった。
さすがにこの状況では、もう決まりかもしれない。
だが天道さんだけはその景虎会長の失言に気づく。
「!? ば、ばか、じじぃ! レイナに全力なんて言葉使ったら!!」
「あ……しまった……」
砂に埋もれたまま俺は見た。
レイナの手に銀色に輝く魔力が集まることを。
先ほどの天道さんの比ではなく、文字通りの全力を。
地形すら変えかねない、比喩ですらないS級攻略者の戦略級ミサイル並の一撃を。
銀色に輝く手が、音速を超えて振り下ろされる。
ソニックブームが発生し、簡易的なコートを吹き飛ばし、ビーチに台風のような風が巻き起こる。
空気の壁を突き破る音がホテルのビーチに響きわたり、何人かがすっころぶ。
それほどの威力、ならば必然的に何が起こるか。
パーーン!!
耐久力を超えたボールは、木端みじんにはじけ飛んだ。
それはもう跡形すらも残さずに。
「…………全力で叩いたら……割れたわ、お爺ちゃん」
会長が頭を抱えてやってしまったと天を仰ぐ。
つまりこの瞬間、田中さんが勝者を告げた。
「……ゴホン……えーっと。ボールが割れたので勝者灰君チームです」