第58話 A級キューブ in 沖縄ー2
「なんでいるんだ……」
俺と凪がビーチへと向かう。
そこの一角で、遠目から見ても圧倒的威圧感を醸し出す二人がいた。
パラソルの下、バーベキューの準備をしている二人と一人。
一人は田中さんだ、相変わらずバーベキューが好きだな。
俺も好きなので嬉しいし、こんな海辺でやるバーベキューは最高だろう。
問題は残り二人。
一人はブーメランパンツにムキムキの身体。
胸毛も生えて、胸には銀色のシルバーネックレスと無精ひげが生えている。
厳つかった。
まるで軍人のような、傭兵のような男。
それは天道龍之介さんだった。
遠目からでも、一発で分かる、なぜなら周りの観光客がおびえて距離を取っているからだ。
あの人有名人で顔も知られているはずなのに……ってかブーメランパンツって……笑ってしまいそうになる。
そして、もう一人。
天道さんに比べれば少しだけ体格が悪い。
体格が悪いというとまるで細いようだが、そんなことはない。
まるでプロレスラーのような体格をしている、ただし年齢は70代を超えて白い坊主頭のお爺さん。
サングラスに短パンとアロハシャツが似合うハイカラで世界最強のお爺ちゃん。
「おぉ! 灰君! きおったのぉ!! 凪ちゃんも初めましてかの? 楽しんでいこう!」
「は、はじめまして!!」
「なんでいるんですか、会長。お仕事は?」
「うんうん、よろしくのぉ! 仕事か? なに、こんなおいぼれ一人いなくても仕事は回る。優秀な部下ばかりじゃからな……大丈夫じゃろ、多分」
◇一方 ダンジョン協会日本支部。
コンコンコン
「会長入ります、椿です。彩さんと旅行にいけずに残念とは思いますが──」
扉を開けて会長室に入る椿。
A級攻略者でもあり、協会職員であり覚醒犯罪対策課のエース。
彩と灰が倒した滅神教徒を引き取った職業パラディンのキャリアウーマン。
会長の懐刀とすら呼ばれる協会の中でも屈指の実力者。
その椿が会長に相談したいと業務中であるはずの会長室に会いに来た。
そして扉を開く。
「──先日の滅神教の三人についてご相談したいことがあるのですが……」
そして気づく。
後ろの窓が開いていることに、まるで泥棒に入られた後のように。
だが椿にはわかった。
あの会長に泥棒が入るはずなどない。
そんなのは自殺行為だ、景虎会長を倒せる人など世界でも数える程度しかいないのだから。
つまり。
「あんの糞じじぃぃ!! 仕事ほっぽって遊びにいきやがったぁぁ!!」
◇灰視点
「という感じで、わしは今日一日はバカンスするつもりじゃ。やはり上司が率先して休まねばみんなが休めんからな」
会長が絶対帰らんぞという強い意志を俺達に見せている。
一見とてもまともな意見のように聞こえるが、その上司のしりぬぐいをされている部下の人を思うと涙が出てくる。
田中さんが少し遠い目をしながら火の準備をしながらつぶやいた。
「椿君に怒られても知りませんよ。先ほど電話がかかってきましたが明日には絶対に帰してくださいと怒ってました」
「明日のA級キューブ攻略を見届けたら帰る予定じゃ。それまで帰らんぞ! 久しぶりの旅行なんじゃ! わしだってもっとみんなと遊びたいもん」
「もんじゃないだろ、じじい。とりあえず坊主。相手してやってくれ」
「はは、俺でよければ……」
俺としては会長のことは好きだし賑やかになるので嬉しい限りではあるのだが。
A級攻略は明日の予定となっている。
当日到着でもよかったのだがどうせなら前日INして遊びたいというのが若い俺達の本音。
それを見て提案は田中さんがおこなってくれたが、こういうセッティングをさらっとできるかっこいい大人になりたいものだ。
「おぉ? 女性たちが来たぞ。灰君、わかっとるな? 褒めるんじゃぞ? お世辞でもな。できれば彩をべたべたに褒めるんじゃぞ……」
「あの二人にお世辞なんていりませんよ、本心から言えま──」
俺がバーベキューの準備をしながら振り向いた先、そこには二人の美女がいた。
彩とレイナ、どちらも系統は違うが圧倒的に美女だった。
スレンダーで細くまるでモデルのような彩。
真っ黒な髪を海仕様なのかアップさせ、花の髪飾りを付けている。
黒のビキニと足元は花柄の真っ赤なスカーフのようなものを巻いている。
優雅で綺麗、同じ18歳とは思えない。
まるで海外のセレブがビーチで過ごすかのように。
サングラスまでつけていて黒と赤のコントラストは、沖縄の海と相まってまるでハイビスカスのよう。
そしてもう一人。
正直に言おう、俺はその胸に視線がいってしまったと。
銀色の髪と彩の麦わら帽子をかぶり、彩とまるで対象的な白いビキニ。
しかしハーフゆえの発育の良さが日本人らしい彩とは違って出るところはでている。
一体何カップなのかわからないが、なぜあれほど大きくて腰は細いのか。
綺麗は綺麗だが、どちらかというと性に直撃してくるような威力を感じた。
その威力は俺の本能を直撃し、視線を釘付けにする。
スキル『挑発』でもこれほどの力は持っていなかった、なんて強制力!
「ふ、二人ともすっごい綺麗だ」
俺はそれでも言われたとおりに誉め言葉をひねり出す。
「ありがとうございます。とても嬉しいです、私の顔を見ていってくれてたらですけど!」
しかし彩には気づかれていた、少し不機嫌にそっぽを向く彩。
そしてレイナにももちろん。
「灰……私の胸……ずっと見てる? 何かついてる?」
「し、失礼しました!!」
俺はそれでも動こうとない自分の顔を両手持ち、全力でひねって視線を変える。
神の眼をもってしても、抗えないその力に鋼の意思で首を曲げた。
数多の死線をくぐり抜けてきてよかった、もう少しで意識が持っていかれるところだった。
「灰君……0点じゃ……いや、もう落第じゃ……」
会長が頭を抱えて、悲しそうにつぶやいた。
それから俺達はバーベキューを楽しんだ。
美味しい肉と青い空、エメラルドの海に白い砂浜、綺麗な女性。
最高の時間を俺は過ごしたといってもいい。
「そういえば明日のキューブって天道さんとレイナは攻略したことあるんですか?」
「あぁ、俺とレイナはよく攻略してるからあんまり緊張感もねぇ、だからそんなに気張んなくてもいいぞ。まぁ気抜いたら死ぬけどな」
「灰、中は複雑。私の傍から離れないで」
「わ、わかったよ。でも俺も一応S級だからな、負けられない。戦うよ」
俺が拳をにぎっておんぶに抱っこは許さないと覚悟を決める。
それにもし可能ならA級もソロ攻略したいと思っている。
まだ条件はみていないがきっと完全攻略はソロ前提なのだろう。
俺は決意をもってレイナを見る。
また胸に視線が行きそうになるが必死にこらえて太ももへと視線を何とか誘導する。
うん、正直こっちもむっちりしててエッチだ。
(……? 傷?)
俺がふとももをみていると、レイナの足にはまるで剣が貫かれたような傷があった。
だがよく見ると、右のふとももと右の二の腕あたりにもあった。
正直ほとんど目立たない、俺が凝視しなければ気づかなかっただろう。
(何の傷かな……)
「そういえば灰君。この攻略が終わったら君を6人目のS級として正しく登録しようと思っている。世間の目に晒されることになると思うけどいいかい?」
「え? それって……」
「あぁ、日本に景虎会長、龍之介、レイナ君、彩君、そして君は面識はない天野弓一君の5人のS級。その6人目として発表するんだ。龍の島奪還作戦に参加するからね、もはや隠すことはできない。そして君はもう──」
田中さんが俺の肩を叩き、優しく笑う。
「──隠れなければならないほどに弱くない。よくぞ二月ほどでここまで来た。とても嬉しく思う」
「田中さんの助力のおかげです。本当にありがとうございました!」
俺は田中さんに感謝を述べながら、肉を焼く。
思い起こせば遠い道のりをほんの数か月で歩いてきたものだと少し感傷に浸っていた。
◇灰達と少し離れた場所
灰のさきほどの失態で少しだけむくれている彩と横に座る凪。
「ねぇねぇ、彩さん! 彩さん!」
凪が彩を呼び手を引っ張る。
「な、なに? 凪ちゃん。どうしたの?」
彩と凪は仲がいい。
凪としては自分の命を救ってもらった彩に恩義を感じているし入院中はよくしてくれた。
少しお姉ちゃんってこんな感じかな? という気持ちで接している。
なので凪は結構彩に懐いている。
そして彩のほうはというと、凪を気に入っている。
彩にとっては思い人の妹さんだし、何よりも灰に目が似ている。
それだけで彩としては凪を気に入るには十分すぎる要素だった。
だがそれを踏まえても凪の可愛くて心優しい人格に好意を寄せているのは間違いない。
灰のことを好きになったのはその性格が原因であるように、同じような性格の凪を好ましく思っている。
彩にとっても凪を妹のように少し思っているし、本当にそうなれば嬉しいのにと。
「ちょっとだけこっちきてください!」
「え? いいけどどうしたの?」
凪は彩を連れ出して灰達から少し距離を取る。
そして凪は彩に耳打ちをした。
「彩さんって──」
「ん?」
「──お兄ちゃんのこと好きなんですか?」