第57話 A級キューブ in 沖縄ー1
◇一週間後
残暑残る夏、エメラルドグリーンの海と晴天の空。
東京のコンクリートジャングルに比べれば、むしろ涼しいとすら思える気温。
時刻は12時、太陽が真上に昇った頃。
俺達は沖縄に来ていた。
会長の家で話し合った一週間ほど先。
A級キューブを攻略するために沖縄へ。
俺はその間、B級キューブをたくさん攻略し、さらに力を増していた。
そして今は那覇空港、空の旅を終えたところだ。
「わぁぁぁ!! お兄ちゃん綺麗! 綺麗!! みてみて!! 海が透き通ってる! 東京湾とは違う!!」
「こらこら、凪はしゃぐ──いや、盛大にはしゃげ。数年分ははしゃげ、兄ちゃんが許す。全力で楽しめ」
「さっすが!! 早くホテルに荷物置いて泳ごうよ!!」
凪が俺の腕を引っ張る。まるでリゾート気分だが正直俺も少しリゾート気分だ。
俺が沖縄にいくと告げたら、凪が行きたいというので連れてくることになったのだ。
随分と顔色もよくなって、もはや可愛さは全盛期。
何よりおしゃれをして可愛さは倍増、髪はツインテールで黒いリボン。
露出多めの足に長めのロングTシャツはまるで下を履いていないかのよう。
黒いブーツは分厚い厚底で身長を精一杯伸ばしている。
メイクも覚えたようで、いわゆる病みメイクというらしい。
お兄ちゃんは詳しくないが、可愛いから良いと思うぞ。
せっかくのリゾートだ、楽しもう。
といっても別に遊びに来たわけではない。
目的はA級キューブの攻略だ。
時期的には、そろそろダンジョン崩壊を起こしてしまう可能性があるので、アヴァロンが対応を受け持ったらしい。
なので、実はこの旅行、旅費はアヴァロンの経費で全て落ちている。
もちろん凪は違うので俺が払ってあげるのだが。
「灰さん、龍さんや田中さんはもう先にホテルについているみたいですので、私達も行きましょう」
そういって俺と一緒に空港に降り立ったのは彩。
麦わら帽子に黒の肩だしワンピース、とてもお嬢様という雰囲気が似合っているセレブという感じ。
AMSの資料については完成し近々海外と共同で、臨床試験を行うらしい。
さすがに、凪のようにいきなり適用するわけにはいかないとのこと、細かいことは正直わからんがそういうものらしい。
この旅行が終わったあと世界中に彩の名で、アッシュ式として世界中に公表されることになるだろうな。
「お爺ちゃんはかわいそうだけど仕方ないですね……」
景虎会長は仕事でこれずとても寂しがっていたが、彩だけは一緒にくることになった。
俺と一緒にいたほうが安全だということだ、それに彩自身すでにS級として恥ずかしくないステータスなのだから。
しかもここ沖縄には、俺だけではない。
天道龍之介、日本最強の男も先に到着している。
それと、もう一人。
「彩、暑いわ……その麦わら帽子貸して」
汗だらだらの銀野レイナも一緒なのだから。
彩と対照的な真っ白な肌を露出するラフな格好で銀色の髪、そして日差しでとろけそうになっている。
ぐでってしているレイナは少し可愛い。
「だから言ったじゃない……もう、ほら貸してあげる。暑いの苦手なのに」
「私半分雪国のハーフだから……暑いのだめ」
「関係ないわよ、ほとんど日本で生きてきたんだから。はい、どうぞ」
そういって彩は自分の麦わら帽子をレイナにかぶせてあげる。
年齢的にはレイナのほうが二つ上なのだが、どちらかというと彩のほうがお姉さんに見えるな。
「ありがとう、彩」
いや、妹に頼りきって何もできないダメな姉という見方もできる。
少しだけレイナのことを知ると、生活力が終わっているという事が分かった。
寝たいだけ寝て、食べたいだけ食べて、服は散らかしっぱなし、俺がいるのに普通に下着で歩き出すし。
感情の起伏が起きない、下手すると俺が胸を揉んでも何も反応しないぞ、試してもいいかな……。
「じゃあ、どうする? タクシー?」
「そうですね、ちょうど4人ですし」
ということで、俺達は俺、彩、凪、レイナの4名で沖縄に来ていた。
A級キューブを攻略するのは、レイナと天道さんと俺の三人。
ダンジョンポイント的に言えばA級に対してS級三人なので十分な戦力と言える。
それに二人はベテランだ、俺なんかよりも修羅場をくぐっている。
俺達はそのまま那覇空港からタクシーにのってホテルへと向かう。
確か夢野リゾートという大手総合リゾート運営会社が経営している沖縄でもトップ5には入るホテルと聞いている。
正直楽しみだ、贅沢な旅行など一度もしたことはないのでワクワクしている。
俺達はタクシーに乗って、ホテルへと向かう。
前に俺、そして後ろに女の子三人。
後ろを振り向くとなんていい光景だ、全員がS級美女、凪は二人の間にいてもとても可愛い。
きゃぴきゃぴしていて、見ているだけで幸せだ。
彩は18歳、凪は14歳、レイナは確か二つ上なので20歳。
「お客さん、観光ですか!? ハーレムですね!! めちゃくちゃ美人さんばっかりじゃないですか!」
タクシーの運転手のおっちゃんが陽気に話しかけてくる。
全員真っ黒でサングラス、さすがは沖縄のタクシー、むしろ雰囲気がある。
休みの日はダイビングばかりしてそうだ。
「はは、そうなんですよ。全員俺なんかとは比べ物にならないぐらいの美女ばかりで」
「いやいや、お客さんも相当かっこいいですよ? せっかく沖縄にきたんです。楽しんでいってくださいね!」
俺達はそのままタクシーでホテルへと向かう。
海沿いの道が美しく、エメラルドの海が日差しで光る。
久しく海水浴などしていなかったので、俺も楽しみだった。
「……ここか、すごいな」
俺達がついたホテル、夢野リゾート『夢の沖縄』。
「きゃぁあ!! リゾートホテルだぁぁ!! お兄ちゃん、早く早く!!」
凪がその高級ホテルの佇まいからすでにテンションが振り切った。
海に隣接しているホテルは、まるで南国のようなビーチとホテル専用ビーチは人が溢れるこの時期にあってほとんど人がいない。
殆ど貸し切り状態といってもいいほどに、白い砂浜と波打つ海を独占できる。
俺達はそのまま受付を済ませようとロビーへと向かった。
「やぁ、空の旅お疲れ。みんな」
そこにはいつものスーツ姿で仕事のできるエリートサラリーマンの田中さんではなく、オフの日という感じのサンダルと短パン、アロハシャツの田中さんがいた。
こういうのをギャップというのだろうか、とても似合っていていつもよりかっこいいなと思った。
「田中さん!」
「アヴァロンの名前で受付しておいで、一番良い部屋だからね。いわゆるスイートというところだ。二人部屋二つでよかったのかい? どうせなら一部屋で楽しめばよかったのに。ハーレムを」
「ははは。さすがにもう俺達高校卒業してますからね」
少し親父っぽいセリフを吐いてぐふふと笑う田中さん。
どうせならそうしてほしかったが、さすがにそうしてくれとは俺の口からは言えなかった。
「この度はお邪魔して申し訳ありません、田中さん! お世話になります!」
「いやいや、君はお兄さんのお金で来たんだから。私が払うと言っても強情なお兄さんには断られたしね、優しくてかっこいいお兄さんだ」
「はい! 自慢の兄です! 大好きです!」
「恥ずかしいからやめてくれ」
「はは、兄弟仲むつまじくて羨ましいよ。レイナ君は彩君と同じ部屋だよ。受付が終わったら着替えてビーチへおいで。お昼にしよう」
「はい!」
俺達はそのままホテルの受付へと向かった。
案内された部屋へと向かう、俺と凪と彩とレイナ。
こういうときお約束ならば同じ部屋なのにと思うのだが、残念ながら高級ホテルでそういった手違いはなく、田中さんがミスするわけもなかった。
「じゃあまたあとで」
俺と凪はレイナ達と別れて部屋に向かう。
扉を開けた先は、これがスイートかと呼べるほどに広かった。
「でも、億ションの我が家を見てからだとまぁまぁねって気持ちになっちゃうね」
「そうか? 俺は十分すごいと思うけどな、みろ、ハンモックまであるし部屋の中なのにあの南国っぽい木もあるぞ。どこにでもあるなあの木」
俺達は部屋の中を少し探索する。
部屋は二人部屋だが、基本はカップル用なのだろう。
確かに世間一般では兄弟二人で旅行に行くなどあまりないことだろうな。
でもうちの凪は世界一可愛いから俺は普通に行くぞ。
断じてシスコンではない、妹が好きなだけだ。
「お兄ちゃん! 水着に着替えるからこっちきちゃだめだよーー」
「わかった! 俺も風呂場で着替えるよ」
俺達はそのまま水着に着替える。
俺は短パンとパーカーを羽織る、前を開けばムキムキのシックスパック。
うーん、いつみてもキレテルキレテル、大根がすりおろせそうだぜ。
っと、前と同じ失敗を繰り返しそうになる俺は凪の着替えを待って、部屋に戻る。
「……天使」
そこには天使がいた。
まだ中学二年生、それでも女らしさと幼さの両方を兼ね備え白い肌はまるで天使。
胸は少しつつましいが、それがいい。
黄色いフリフリの水着と下はジーパン生地の短パン。
妹とはそういうものだ、巨乳の妹もまぁ悪くはないのだがそれでも凪はすべてにおいてパーフェクトなのでつまり貧乳はステータスということだ。
「もう、変な事いわないで!」
「似合ってるぞ、これでビーチの視線は釘付けだな!」
「レイナさんと彩さんがいるのにバカなこといわない。ってかお兄ちゃん腹筋すご……触っていい?」
「いくらでもどうぞ」
「うわぁぁ……実の兄でなければ性的魅力を感じるところだね!」
「これでも攻略者だからな! とりあえずビーチにいこっか。腹減った。田中さんがBBQだって」
「うん! 楽しみ!」
そして俺達はそのままビーチへ向かう。
彩とレイナを待とうとしたんだが、凪に無理やり連れていかれる。
そういうものは砂浜で見せたいものだからと言われたがどこで見ようと一緒では?
俺達はそのままホテルが運営するプライベートビーチへと向かう。
そこには。
「……なんで?」
本来いるはずのないキン肉マンがいた。