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第37話 日本ダンジョン協会会長ー4

 なんでこんなことに……。


「さぁ、いつでも構わんぞ!! 全力でこい!」


 目の前にはアロハシャツを着たムキムキのキン肉マン。


「いいんですね、全力で」


「はは、わしのスキルを知っておろう、傷つけるつもりでその剣を思いっきり刺すといい。傷つけられるならな」


「はは、そりゃそうか」


 俺は乾いた笑いを浮かべる。

相手になるはずはないだろう。

だが俺は会長を信じて剣を握って会長へと走っていく。


 全力で地面を駆ける。

その速度は人類のかつての到達点を一瞬で飛び越えて車よりも速くまるでミサイルのような速度で飛んでいく。


 振り下ろす剣、しかしまるでその巨体からは想像できない柳のような動きで交わされる。


「ほれほれどうした! 儂は70過ぎじゃぞ!」


「70過ぎの動きじゃないでしょ!!」


 躱され続ける俺の剣、くそ! なんだそのふざけたよけ方は!


 まるで遊ばれているように俺の剣は適当に躱される。

指先一本で剣を動きをずらされたと思ったら、背後からデコピンされる。

デコピンだけで吹き飛ばされる破壊力、ってかめちゃくちゃいてぇ……。


 少しの攻防、いつの間にか俺は没入していた。

集中力が高まって、いつの間にか俺の目は。


「ほう……それが神の眼か……大層な名じゃな」


 黄金色に輝いた。


 戦いながら作戦を立てる。

勝てないのは分かっている。

それでもせめて一太刀ぐらいは食らわせてやりたいと。


 俺は景虎会長に向かって走った。

剣を自分の体で隠すようにして。


「だが……良い眼じゃ……真っすぐで」


 会長はまるで空手のように、構えて足踏みする。

魔力の放流が空気を震えさせ、草木を揺らす。


「おぉぉぉ!!!」


 振り上げる剣、そして振り下ろす剣。

それを見た会長は、俺の両手が持つはずの剣を注視する。


「!?」


 だがそこに剣はない。

驚きながらも振り下ろされるはずの剣に対して、魔力の鎧の腕を掲げた。

しかしそこに感触はない。


「まさか!?」


 それは俺のミラージュ、魔力の差がこれほどあると一瞬しか効果がない不可視の一閃。

体を隠しても景虎会長にはすぐに看破されるだろう。

距離を取られたら意味がなくなる。


 だから剣だけだ。

剣だけを俺は一瞬だけ不可視にした。


 受け止めたと思った会長は、俺の右手に剣が握られていないことに気付く。

それもそのはず。

俺の不可視の剣は、俺の腰にまだ差されているのだから。


「はぁぁぁ!!」


 地面に着地した俺は、無防備な景虎会長の脇腹へとまるで居合切りのようなポーズを取る。


「見事じゃ……」


 振りぬいた剣、これは当たる。

だがその剣は直前で速度が鈍ってしまう。

顔をしかめて、眉をしかめる俺。


 その一瞬は会長に対しては十分すぎる時間。

そのせいで受け止める余裕を与えてしまい、片手一本で受け止められる。


(鉄!?)


 その腕は、まるで金属のような固さを持っていた。

傷一つ付けられず弾かれた俺は、そのまま会長からデコピンを食らってひっくり返る。


「ぐわっ!?」


 地面に転んだ俺の上には景虎会長。

にっこり笑って俺の額に指を置く。


「儂の勝ちじゃな、これで終わろうか」


「……負けた……」


 俺の隣にあぐらをかいて座る景虎会長。

その大きな手で俺の頭をわしゃわしゃとなでる。


「組み立ては素晴らしかった。最後は、一撃もらってもおかしくはなかったしの。だが……思った通り。灰君、人を刺すのは勇気がいるか?」


「……」


 それが俺の剣が鈍った理由。

このまま剣を振りぬいたら俺は会長を殺してしまうのか。

その一瞬の迷いが俺の剣を鈍らせた。

今まで平和に生きてきた、魔物なら倒せる。

 

 でも人を刺す、人を切るというのは、本能が邪魔をする。


「……はい」


 フーのときは、もう何が何でもという気持ちだったから戸惑いはなかった。

それに多くの攻略者も殺され、俺も殺されかけていた。


 だから戸惑いはなく、無我夢中で戦えた。


 でも今は違う、しっかり頭が回り意識が明瞭のとき。

人を切るというのはそれほど簡単なことではなかった。

それはきっとみんな同じだろう、ダンジョンが現れたとはいえこの平和な日本で人を殺そうとすることがいかに難しいか。


「そうか……それでいい。それが普通だ。だが灰君。君はこれから普通ではない世界に入っていく。その力がもたらすのは力だ、そして呼ぶのも力。命の危険もあるだろう。そのとき人を刺せませんでは話にならんぞ」


「……それは……はい、わかります。」


「だが覚えておいてほしい、年寄りからの助言じゃ。何かを守るということは、誰かを殺すということと表裏一体だということを。だから覚悟を決めなさい、灰君には成し遂げたい夢も守りたい人もいるはずじゃ。なら人を、敵を殺す覚悟を持たなければならん。血なまぐさい世界だがきれいごとだけで守れなかった命を儂は何度も見てきた、君はもうその世界に足を踏み入れることを決意したのだから」


「………」


 どこかフーという敵を殺したことが心に引っかかっていた俺への言葉なのかもしれない。

そしてこれはきっと会長が歩んできた道でもあるのだろう、きっと会長も人を殺している。


 俺はそのとき、人を殺すことができるのだろうか。

もし悪とはいえないような、それでも俺にとっては敵を。


 少し落ち込み悩むようにしていた俺に会長が優しく言葉を続ける。


「灰君、それでも一つだけ覚えておくといい」


「……なんですか」


「どれだけの人を殺そうとも、心に一本の芯を、自分が守りたいものを、それが迷ったとき、君を支えてくれるはずだ。君にはあるか? 命を賭して守りたいものが」


「俺の……」


 俺は思い出す。

凪をAMSから救う。

そのためなら俺は悪にでもなってやる。


 それが俺の戦う理由で、絶対に成し遂げたい理由。

そして何度も死にかけたときその想いに助けられた。

力の試練のときも、初級騎士との戦いのときも、そしてフーの時も。


「……景虎会長はあるんですか? 護りたいものが」


「儂か? もちろんあるぞ。この国に生まれ落ちて70年。魔力がない時代から儂は戦ってきた。そして今もな。だから儂が守りたいものはこの国に住まうすべての国民じゃ。その中にはもちろん、君もおるぞ」


 そのにかっと笑う会長の笑顔に俺はつられて笑った。

顔を上げて、真っすぐ会長を見て返事をする。


「それはすごいですね、でも……かっこいいです。俺も守りたいものを守れるように覚悟を決めます!」


 会長はにっこり笑い、その日の俺達の話し合いは終了した。

俺はまっすぐに家に帰り、これからのC級ダンジョンソロ攻略の準備を開始した。



 灰が帰り、田中と会長が部屋に残る。


「いい子でしょう。灰君は。私彼のことが大好きなんです」


「がはは、今どき珍しいの、あんな子は。家族のために戦う。だが一番力を発揮する方法だ、わしにとっての彩のようにな」


「はい。きっと彼は強くなるはずです。戦う理由を持つ子はそれだけで強い。……それで会長、今回の世界ダンジョン会議の議題は……」


「あぁ、今回の議題は二つ。一つは滅神教について、近々大規模な動きがみられるから警戒をとのこと、対策は各国に任せると大分投げやりだがな。まぁ仕方ない。奴らの動きはわからん」


「そうですか、して最も今重要なあれは?」


「龍の島か。一応は米国が動くことになった。日米安保にのっとって軍事行動としてな。だが中国がまだ反発している。領土的には我が国の排他的経済水域内の龍の島だが、次に近いのは中国なのでな。もしかしたら……無理やり動くやもしれんな」


「難しい問題です。S級キューブ、その利権は莫大な利益を生む。どの国も欲しいはず。その魔力石はもはや軍事力ともいえる存在ですから。中国もアメリカには取られたくない。それは我々も同じですが」


「できれば我が国で解決し、我が国での利益としたいのだが……もう二度失敗している。これ以上他国の介入を止める言い訳がない」


「……この星にあって人類が唯一生存圏を奪われた島ですからね。……ダンジョン崩壊を起こしてもう2年になりますか、S級を3名も失ったあの日から」


「あぁ、S級の龍達が闊歩する島。他国の力を借りるのは……やはり日本としてつらいがの」


「では」


「あぁ、近々龍の島奪還作戦は開始される。海外にいる龍之介とレイナ君を呼んでくれ」


◇灰視点


「さて、C級の空気も掴めたが、はっきり言うと負ける気がしないんだよな……」


 俺は自宅に帰り、田中さんからもらったC級ダンジョンのリストを見る。

この一覧に関してはいつでも入っていとのの許可をえた。

とはいえ、ミラージュを使用して一人であることをばれないようにするのが条件だが。


「……いくか。強くならないといけないし、それに滅神教……田中さんには伝えたけどもしかしたらあいつら俺を狙っているかもしれない。というかこの眼のことを……それに神の試練のことも知ってた。一体何者なんだ」


 だが考えても無駄なこと。

今は強くなるためにC級を完全攻略し魔力を増大させる。


 俺はそのまま最寄りのC級ダンジョンへと向かった。


 そこは東京から少し外れ、都会とはいえないが人通りは確かにある。


 だから俺は、発動した。


「ミラージュ!」


 道行く人は俺のことに気付かない。

俺よりも知力の低いひとばかりなので認識することができないのだ。


「まるで透明人間だな。エッチなことしてもばれないぞ。さすがにしないけど」


 俺は少しだけいたずら心が出てしまうが、完全に犯罪なので自重する。

しばらくそのまま歩くと、巨大なキューブが町の中に悠然と立っている。


 付近を閉鎖されているが、宝石のように煌くキューブ。


 その色は、桜色。

まるで桜のような美しいピンクは眺めているだけでも少し楽しい。

しかし中にいるのはそんな可愛い存在ではなく、間違いなく人類の大半を殺せる魔物。


 C級とは大多数の人類の上にいる存在。

前の俺なら一秒で死んだだろう、でも。


「さぁ、いくか」


 凛とした音と共に俺はC級キューブへと足を踏み入れた。

恐怖はない、恐れはない、あるのはやはりこの胸の高鳴りだけ。


 俺はC級キューブを次々と完全攻略する。


 いつか来る戦いに備えて。



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