第163話 その黄金色に輝く魂に、感謝を込めてー3
ゼウスさんが驚きながら俺の両肩を揺らす。
「ど、ど、どういうことでしょうか、灰殿?」
「言った通りです。空に輝く星々には、魔力が含まれている星もあります」
「しかし、この星ほど豊富な魔力を持つ星など空を見上げても、私は見たことがないですよ!?」
「はい。周囲……この銀河系にはありませんでした」
「銀河系?」
どうやらこの時代に銀河という概念は存在しないのかもしれない。
俺は順を立てて説明していく。
「まずは俺のスキル。神・ミラージュ……これは全く同じ分身を生み出します」
俺は幻影を生み出す。
それだけで周りからおぉという感嘆の声が漏れるが、これだけなら真・ミラージュと同じだ。
だがここからが神域なんです。
なんとこの幻影は俺と同じスキルが使える。
しかも、魔力を消費すれば何体だって幻影を生み出せる。
「今、俺の幻影が、3億体ほど宇宙を飛び回っています」
「3億!?」
「はい。星の魔力を大量に使わせてもらっていますがそれぐらいの数です。そしてもう一つ、神・ライトニング。これは簡単に言えばワープです。時空すら超越する転移は、光の速度なんて目じゃない。なぜならまったく同じ時間に転移できるので、たとえ宇宙という光にとっても広大な距離を実質0秒で移動できるんです」
「なんという……力だ。まさか灰殿、その力で」
「はい、見つけました。とんでもなく遠く……光でも何百年……いや何億年かかる距離にですが、この星の1万倍の大きさで、さらに自然豊か。魔力総量が1京を超える巨大な星です。生命体は存在していますが、まだ知的生命体と言える状態ではない星。理想的な星です」
俺がそう言った瞬間、ゼウスさんが泣き崩れた。
「そんな……そんな方法があったなんて」
ハデスさんは立ったまま泣いている。
それを見ると、俺も自然と涙が出てしまった。
ゼウスさんも、ハデスさんも、俺には二人の苦悩が記憶として痛いほどにわかるから。
「灰君、一つお願いがあるんだ」
「なんでしょうか」
「みんなに僕がやったことを記憶として見せてあげてくれないか?」
「で、でもそれは」
するとハデスさんは首を振る。
「僕がやったことは、許されない事実だ。これから必死に償っていかないといけない。新天地では、国の垣根を超えて手を取り合わなければならないと思う。そのためには、隠し事はダメだ。どうして、君が未来から来て、僕がどうしてここにいるのか。すべてを彼らには知ってもらいたい」
「…………わかりました」
言われた通り、俺はハデスさんの記憶をみんなに渡す。
苦悩し、戦い続けたハデスさんの記憶。その中には、ここにいる神々で殺された者もいる。いや、半数以上は殺されている。
世界を救うために、他の国すべてを亡ぼして、黒の帝国として最強の軍事力で、白の国へ攻め入ったのだから。
ハデスさんは静かに待った。
殺してしまった、その事実を許してもらえるとは思わない。
甘んじて罰は受けるつもりだったが。
神々は、立ち上がる。
そしてハデスさんの手を握った。
優しく。
「どうして……僕はあなた達を」
「あんなものを見せられて、怒れると思うんですか? よかったですね。約束を守れて」
アフロディーテさんは泣いていた。
同じく他の神々も泣いていた。
ゼウスさんも、その手を重ねて、今この世界の神々が全員手を重ね合わせた。
「頑張りましょう。ここからもう一度……ね。ハデス陛下」
すすり泣くような声が聞こえるが、みんなただ優しく抱きしめあった。
きっと大丈夫。この人たちなら新天地でも問題ないはずだ。
そこからは早かった。
いや、急ぐ必要があった。
なぜなら俺がこの星の魔力を大量に消費してしまったからだ。
早くしなければ、この星の人たち全員を転移させる魔力が無くなってしまう。
だが完全なる縦社会の神々の号令に、民たちは誰も逆らわない。
移動は、ゼウスさんとアテナさんの魔術によって、キューブに全員を封印して、転移するという方法を取ることにした。
これなら取りこぼしはないからだ。
そして数日後、約束の日。
「まるでノアの箱舟だな」
「なんだい、それは」
「あぁ、俺の時代に伝わる神話ですよ。大洪水で種が亡びる前に、巨大な船でみんなを救う。そんな話です」
俺の目の前には何百個もの巨大なキューブがある。
そこに次々とこの世界の住民が乗り込んでいった。
もちろん各国が、従えている魔獣たちもだ。その姿がまるで大洪水から逃れるためのノアの箱舟に見えた。
「もしかしたら、何か別の形で君の時代に伝わったのかもしれないね」
「はは、そうかもです。なんだか聞いたことある名前もいっぱいありましたから」
そしてようやく、三日三晩かかった乗り込みが完了した。
あとはアテナさんとランスロットさんと、ハデスさんとゼウスさんの四人だけだ。
まずはランスロットさんだ。
俺はぎゅっと抱きしめた。
「灰君、ありがとう。僕の光を受け継いでくれて……そしてもう一度アテナ様の騎士にしてくれて」
「お礼を言うのはこっちです。ランスロットさんの光が無ければ、俺はとっくの昔に死んでました。こちらこそありがとうございます」
そして次はアテナさんだ。
「灰さん、その……」
「何緊張してるんですか、キスした仲じゃないですか」
「も、もう! いじわるですね! でも……ありがとうございます。本当はたくさん謝罪したいんですけど、でも今は……ただ心からの感謝を、あなたに」
「はい!!」
やっぱりアテナさんともぎゅっと抱きしめあった。
そしてゼウスさんにもハグをした。
「あなたの苦悩は全部知っています。これからはその神の眼で、みんなと共に」
「ええ、任せてください。本当にありがとう。本当に……」
そしてハデスさんも俺を抱きしめた。
「灰君。すまない。本当に……すまない」
「ハデスさん、こういうときは、謝るんじゃないですよ」
「……でも……君は、自分を犠牲にして」
それを見たランスロットさんとアテナさんは首をかしげた。
そうだ、二人には言ってないからな。
そのときだった。
俺の足元が光となっていく。
どうやら未来が確定したようだ。
「灰君!?」
「灰さん!?」
「始まった! ハデスさん! ゼウスさん!! 急いで!!」
その瞬間、二人は即座にアテナさんとランスロットさんを抱えてキューブへと飛び込む。
「お父様! 一体どういうことですか!」
「今日、過去は変わる。灰殿が懸念していたとおり、過去が変われば未来が変わる。お前が封印したキューブは、未来には存在せず、つまり……神の眼を持つ彼はいなくなるんだ」
「――!? な、なんで! なんでそんなことを!」
そうだ。
わかっていたことだ。
初めからそうなると思っていて、俺はこの時代を救うことを決めた。
過去を変えれば未来が変わるなんて当たり前なんだから。
「灰君!! ありがとう!! 絶対に、もう二度とこんなことがないように僕が頑張るから!!」
ハデスさんが大きな声で叫んだ。
だから俺も心から叫ぶ。
「アテナさん! ランスロットさん! ゼウスさん! ハデスさん!! 大丈夫!!」
俺はここで消える。でも大丈夫、未来はくる。
なぜならこの星の魔力が切れるところからの歴史は全く同じはずだから、変わらぬ未来はくる。
誰も魔獣で死なない世界が、誰もAMSで苦しまない世界が。
誰も大切な人を理不尽に奪われない世界が。
だから。
「――きっと未来は明るいですよ」
そして、俺は神・ミラージュを発動する。
すべてのキューブを繋ぎ合わせ、そして星の魔力のほぼすべてを使う。
俺の幻影が、新天地の星に待機しているので視界を共有する。
そして見えてさえいれば。
「神・ライトニング!!!!」
時空すらも超越する。




