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第13話 神の眼ー3

 俺は見上げるほどの巨大高層ビルの前に立っていた。

黒の短パンと、白の無地のシャツ。

俺の基本スタイルで、夏スタイル。


 色合いだけでみるのなら、スーツの人達と大差ない。

ただ彼らのネクタイ一つよりも俺の着ている服の値段の総額は低いだろう。

というか少し恥ずかしい。

想像してほしい、ビジネススーツをビシっと決めているエリートの中にまるで元気っこのように半袖短パンでいる姿を。


「ここか……門前払いされそう」


 そして俺は一歩を踏み出す。

しかし、意外と仲はラフな格好の人が多かった。

というのもダンジョン攻略者が多く在職するギルドの本部なのだ、ラフな格好の攻略者が多いのもうなずける。


「やっぱ、ギルドって儲かるんだな……」


 俺はそのビルの中に入り、良く分からないアート作品を見る。

室内なのに噴水があるが、これがおしゃれなのだろうか。


 湯水のごとく金が儲かっていることを暗示しているのだとしたら中々皮肉だな。

ギルド経営は儲かる、それを信じて多くのギルドがダンジョンで散っていったのは言うまでもないが、それでも儲かる。


 命の安全、それを担うということは何よりも優先され、世界中の人間がお金を落とすしかなくなる。

要人の警護、災害救助、ダンジョン崩壊の対処、ダンジョン攻略、そして魔力石や、魔物の素材の売買。


 キューブと人類の覚醒が生み出した雇用は、数えきれない。


 ちなみに魔力石は、大変なエネルギー変換効率を持っているらしい。

俺は科学には疎いので原理は詳しくは知らないが、A級の魔力石一つで町一つのエネルギーが数日は賄えるというから驚きだ。


 そんなギルドの日本一が儲からないわけがない。

今や日本の政財界、世界経済にも影響を与える日本トップのギルド。


 それが日本最強『アヴァロン』だ。


「あ、あの……」


 俺は一階ロビーで受付のお姉さんに話しかける。

なんで受付が三人もいるのかはわからないが、全員とても美人で緊張する。

THE・オフィスレディという感じ。


「はい、いかがしましたでしょうか」


 ニコッと笑顔で俺に話しかけるお姉さん。

こんな格好の貧乏人にもちゃんと対応してくれることから性格の良さがにじみ出ている。


「えっと、田中さんにお会いしたいんですが」


「田中と申しますと、フルネームを頂戴できますでしょうか」


「あ、田中一誠さんです。副代表の!」


 すると受付嬢さんが驚いた顔をする。

そりゃ、いきなり現れて副社長をだせってこんな服装の奴が言ってきたら驚きもするだろう。

俺なら追い返すか、警察を呼ぶ。


「失礼ですが、お名前は……」


「天地灰です。名前だけでもお伝え頂ければ多分……会ってくれると」


 先ほどまで優しかったのにとたんに俺を怪しむ受付嬢。

まさか、不審者に思われたのか? でも日本トップの副社長だし狙われることも多いのか。

A級の田中さんがただの悪漢に負けるとも思わないが。


「少々お待ちください」


 それでも連絡してくれるようで俺は一安心する。


「はい、田中副代表にお繋ぎください…………あ、こちら一階受付ですが、はい、田中様にお客様がお見えです。お約束はされていないとのことですが……はい、お名前は天地灰様………いえ、天地、灰でございます。はい……え!? わ、わかりました」


 すると電話を置いた受付嬢さんが驚いた表情で俺を見る。


「あ、あの……田中副代表がすぐに来るとのことですので、お待ちいただけますか?」


「よかったです」


 俺はロビーの椅子に座って待つことにする。

受付嬢さんがひそひそと話しているが、副代表がいきなり降りて出迎えるなんてどういうことだと思っているんだろう。

そりゃそうだ、どっかの社長ならともかく、ただの貧乏そうな高校卒業したての学生あがりにいきなりNO2が迎えにくるというのだから。


 俺は数分噴水を眺めながら待った。

多くの攻略者のステータスを見つめるが、全員魔力が俺の数十倍、数百倍はあった。


 スカウターごっこは結構楽しい。

いつか俺のこのスカウターも爆発するようなスーパー攻略者が現れるのだろうか、爆発だけは勘弁してくれ。


「はぁはぁ……」


 すると息を切らせた田中さんがビシッとしたスーツでエレベーターから現れキョロキョロする。

ダンジョン攻略のときの装備は魔法剣士という感じでかっこよかったが、どちらかというとスーツのほうが田中さんは似合うな。


 息を切らせて全力で走ってきたのだろうか、とても鬼気迫るという雰囲気だ。


 その様子を見て他の攻略者や社員達も何事だと慌ただしくなっていく。

俺は少しだけ恥ずかしくなりながらも、ゆっくりと手を挙げた。


 それを見た田中さんが床がめり込む程の疾走で俺の前まで来て、肩を掴む。


「灰君……灰君なのか!?」


「はい、あのなんていうか……生きてまし──!?」


 俺がみなまで言う前に田中さんは俺を強く抱きしめる。

優しく、そしていい匂いがした。


「よかった……本当に……灰君……すまない、すまない」


「田中さん……」


「もしかしてと思っていたんだ。あの選択が間違いなんて訳はないと。よかった。本当に……一体何があったんだ、灰君」


「えーっと。とりあえず場所変えます?」


 わき目もふらず抱き締める田中さん。

周囲の視線が少し恥ずかしい、というか結構恥ずかしい。

田中さんは本気で泣いているし。


「あ、あぁ。そうだな。とりあえず私の部屋にいこうか」


 俺はそのまま田中さんに連れられて、田中さんの仕事場へと向かう。

俺の家よりも大きなエレベーターに乗って、最上階へと赴いた。

そのフロアの一室、一際重厚な木製の扉をあけるとそこは田中さんの仕事部屋なのか、執務室という感じの部屋だった。


「お茶と来客用のお菓子を頼む、あぁ、二人分だ。それとみどりも呼んでおいてくれ」


 田中さんが部屋につくなり、電話で誰かに指示を出した。

みどりさんにも会えるようだ、あの人もたくさん泣いてたし、めっちゃ泣かれそうだな……。


 俺と田中さんは豪勢な椅子に座り、机をはさむ。


「それで灰君、一体何があったか教えてくれるか? 私は一週間帰ってこないから……あのまま」


(この目のことはまだ話さないほうがいいか。田中さんを信頼してないわけじゃないけど俺もまだわかっていないし)


「それがですね。俺にもさっぱりなんです」


 俺はこの神の眼のことはまだ話さないことにした。

そもそも自分自身もよくわかっていないのだから、もう少し理解してから話そう。


 それから俺は目が覚めると家にいたことを話す。

正直滅茶苦茶な話だとは思ったが、それでも田中さんは信じてくれた。


「……そうか、それでもよかった。私は思っていたんだ、心の試練、君の選択が間違いであるはずがないと」


「はは、少しかっこつけすぎましたけど」


 俺が少し照れると、田中さんは再度頭を下げる。


「……君は許すといってしまうだろうが、それでも私は自分を許せない、本当にすまなかった」


「や、やめてください! 奪い取ったのは俺ですし、田中さんは俺の代わりに死のうとしてくれたじゃないですか」


「いや、正直……義務感でしかなかった。だからもし私が最後の状況になったとき同じ選択はできなかったかもしれない。生贄になると口にはしたが死にたくないという気持ちが沸々と湧いていたんだ、正直なところね」


 それでも田中さんは頭を上げてはくれなかった。

どうしたものかと俺は話を変えることにする。


「あ、そうだ。凪の病室は田中さんが移動してくれたんですか?」


「ん? あぁ、そうだよ、あんなことが罪滅ぼしになるとは思わないが……」


「いえ、すごくうれしかったです。それで俺も生きてたし、妹を一般病棟に──」


「いや! それは許されない、このまま面倒を見させてほしい」


 俺は凪を一般病棟に移すことを提案するが、田中さんが身を乗り出し強く否定した。

あの日誓ったし、願いとして受け取ったのだから、せめてこれぐらいはさせてくれと。


「わ、わかりました……無理のない範囲でお願いします」


 俺は根負けした。

田中さんは絶対に譲らないと、かたくなに拒否したのでこれ以上は野暮だなと思い俺は引くことにした。


「気にしないでくれ、これでも結構稼いでいるんだ」


 そりゃそうだろうなとも思う。

攻略者として成り上がり、遂にはこのギルドの副代表まで上り詰めたのだから。


「そうだ、俺って死んだことになってますけど……」


「そうだね、それは私が手続きしておこう、協会に死者の報告は私がおこなったので、誤りだったと。だからこれまで通り活動できるよ」


「そうなんですね、ありがとうございます!」


「灰君、これからどうするんだ? もし失礼でなければ金銭的援助も……」


「いえいえ、もうほんと十分です!」


「し、しかし……それでは私の気が収まらない、あ、そうだ。うちに所属しないか? 私が言えば試験もパスでき──」


「だめです」


 俺は先ほどとは逆に田中さんを手で制して提案を強く否定する。

田中さんは良い提案だと思ったのか拒否されて驚く、しかし落ち着いてすぐに考えを改めた。


「アンランクの俺が日本トップのアヴァロンに田中さんの紹介で入るなんて、コネ入社以外の何物でもないじゃないですか。田中さん俺のランクお忘れですね」


「……そうだな、すまない」


 田中さんが少ししょんぼりしてしまった。

俺はアンランクであり、魔力をほとんど持たない覚醒者。

それを忘れては困る、こんな俺が日本トップギルドに入ったら虐められるか田中さんの隠し子だと噂されてしまう。


 だから、俺は決めていた。


「だから俺強くなります」


「え?」


「強くなって、本当に攻略者として俺を誘いたくなったらもう一度誘ってくださいね」


 俺は田中さんに握手を求めた。

田中さんは驚いた顔と、そしてもう一度笑顔になって俺の手を握る。


「普通ならありえない話だが、なんだか信じてしまうな。一週間前よりも強くなったか? 灰君」


「少し目が良くなっただけです」


 俺はニッコリ笑顔を返す。

そのあと合流してきたみどりさんにもみくちゃにされたのは言うまでもない。

みどりさんはそれでも最後のことを悔やんでいるようで許すといっても聞いてくれなかった。


 だから今後みどりさんは俺がヒールしてくれといったらいつでも無料でヒールするという条件でやっと引き下がってくれた。

正直俺はすぐ怪我するのでありがたい。


「本当にそれでいいのか? 何か手伝えることがあれば……」


「あ、田中さん! じゃあ一つだけお願いが!」


「ん? あぁ! 何でも言ってくれ!」


「俺、武器が欲しいんで、いい店紹介してください!!」



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