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第109話 裏切りの騎士ー1

「……そろそろ一時間か」


 時刻はすでに明け方近くを回っている。

いつもならまだ爆睡している時間だが、アドレナリンがでて全く眠くない。

とはいえ、たったの一時間なので休まないわけにもいかず、俺は無理やり体を横にしていた。


「……ステージ5、いつまで続くか分からないけど多分ラストだよな」


 思い出すのは覚醒ダンジョン。

あの三体はいつも最後の敵の一歩手前だった。


 そしてその次はいつも。


「ミラージュ、ライトニング」


 とてつもない強さの騎士だった。


 毎回本当に死にかけたのを覚えている。


 一番苦戦したのは、ライトニングだけど二番目はと言われると間違いなくミラージュ。


 ならここのラストは?


 真・覚醒が必要だといっていたならきっと最後の敵も、おそらく。


 そして俺の予想が正しければ。


 寝そべっていた俺は立ち上がる。

少し固まった体をほぐそうとストレッチ。

息を整え、深呼吸。

スマホを開いて、待ち受けを見る。


 前までは家族の写真だった。

懐かしい母さんと父さんと凪との家族写真。

思い出にすがるしかなかったあの頃はその写真を見ながらいつも耐え抜いた。


 でももう俺は前に進まないといけない。


 過去を忘れるわけじゃない。

でもそっとしまって大事にしている。

だから俺の今の待ち受けはこれだ。


「彩、レイナ、凪、田中さん、会長、天道さん……」


 沖縄で全員でとった集合写真。

こうしてみると家族のようにも見える。


 いや、俺にとっては家族だった。

血は繋がっていなくとも、心が繋がっている家族だった。

絶対に守りたい家族、失ってはいけない家族。

そしてそれを守るための力を俺は持っているし、手に入れなくてはならない。


「……よし!」


 そしてデジタルの時計が一つ進み、時間はやってくる。

どんな辛くても、どんな悲しくても、時間だけは進むから。


 だから俺は顔を上げて剣を握る。


 覚悟はできた。


 経験も積んだ。


 力もついた。


 あとは。


『……時間になりました。ラストステージを開始します』


 勝利だけだ。


 その声と共に、俺の目の前に光の粒子が集まってくる。


 徐々にかたどっていくのはやはり騎士だった。


 真っ白な騎士が俺の目の前に顕現する。


「……そうですか、やっぱりあなたですか」


 あったことはない。

でも薄々感じていた。

俺は自分の首に下げていた金色のタグを握りしめる。


 その目を黄金色に輝かせ、現れた騎士を見つめた。


 光が収束し、かたどられたのは白い騎士。

純白で真っ白で、非の打ちどころもないほどに真っ白で。


 全身を白き鎧に身を包んだ騎士。


 俺はその名を呼んだ。


 それはこのタグの持ち主。

ステータスにもそう記されている。


 その名は。


「会いたかったです。ランスロットさん」


 俺がかつて神の眼を手に入れた時に、流れた情景の視点だった騎士。

万を超える黒い騎士達相手に立った一人で戦い続けた最強の騎士。


『それは私もだ、今代の騎士よ。我が名はランスロット、君の名を聞いてもいいか』


「──!?」


 ゆっくり剣を抜いたかと思うとその騎士は初めてしゃべりかけてきた。


 今までとは明らかに違う。

意思疎通ができる相手。


「俺は天地灰。灰と呼んでください。あなたにはたくさん聞きたいことがあるんですが、剣を抜いたということは」


 俺は自分の名を伝える。


 言葉が通じる相手だ、ならば聞きたいことはたくさんある。


 しかし、否応なしに感じるのは今から戦うという強い意思。


『そうか、灰よ。まずは感謝させてほしい。我らが光を紡いでくれてありがとう。その光感じるよ。ミラージュ君とライトニングさん。特に彼らの光を強く継いだのだろう、それに他にも多くの白き光を君の中から感じる。本当にありがとう』


「俺はただ強くなりたかっただけです」


 きっとキューブの完全攻略と昇格試験のことを言っているんだろう。

やっぱり俺の予想通り、あれは俺に力を授けるためだったんだ。

完全攻略報酬は、いつも俺を育てるような難易度の試練ばかりだったからな。


『そうか、強くなるための理由があるのだな。ならば最後は私の光も受け継いでほしい。だが……そのためには全力を賭して超えてもらわねばならん。だから私は全力で君を倒す。灰よ、一方的に託しておいて、本当にすまないが──』


 その白き騎士は剣を構える。

放たれる圧に俺は今から戦いが始まるのをひしひしと感じ取る。


『──どうか私に勝ってくれ』


 俺はその覚悟を受け取って剣を構えて。


「任せてください」


 まっすぐと言い返す。


 心なしかその鎧の向こうでランスロットさんは笑っているような気がした。


『ふふ、色々聞きたいことはあるだろうが、安心しろ。あとで姫様が教えてくれるさ』


「姫様? でも……わかりました。なら」

『あぁ……』


 そして俺達は全力で地面を蹴りこんだ。


 瞬間、俺達の剣がぶつかり合う。


「超えさせてもらいます!」

『超えてくれ!!』


 俺はライトニングを発動した。

ランスロットさんの背後に稲妻の速度で移動。

ミラージュを併用して不可視の電光、これが俺の必勝パターン。

防がれたことなんて一度もない。


 なのに。


『素晴らしい連携だな』


 後ろを見ずにただ剣を背にして止められる。

まるで手足のように剣を振るうランスロットさん。

たった一瞬の攻防だ、だがそれだけで一瞬で伝わってくる。


 この人はこと剣に関しては俺の遥か上にいる人だ。


 剣技で勝負しても勝ち目はない。


 それでも。


バチッ!!


 戦いにはスキルもある、剣の腕だけで勝負は決まらない。


 だがそれすらも。


『見えているとも、ミラージュもライトニングも、そのステータスすらもな』


 まるで見えているようにすべての攻撃を看破される。

初めてだ、これほど初見殺しの連撃をことごとく止められるのは。


 俺は一旦距離を取って、再度ランスロットさんのステータスを見つめた。


「そうですか、ははは……。なるほど。やっぱりこの力はチートですね。今までのみんなこんな気分だったんでしょうか」


『そうだな、この力は最強の力だ。世界を統べる可能性すらある力だ。ゆえに、灰よ。この眼は畏怖と尊敬を込めてこう呼ばれるのだ──』


 俺は黄金色に輝く眼でその白き騎士を見た。


 そしてきっと。


『──神の眼と』


 俺達は同じ眼で見つめ合っているんだ。

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