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第105話 久遠の神殿ー1

「彩、ごめんね。色々迷惑かけて……」


 俺と彩はライトニングで龍園寺邸へと帰る。

景虎会長だけは用事があるとのことなので、別行動。


 時刻は夕方、少し日が落ちてきたような時間に俺と彩は凪の影へと瞬間移動していた。


「いいんですよ、灰さん……もう、でへへ。もうやだ! もう、えへへ、えい! えい!」


 彩がニコニコしながら俺の肩を指で突いてくる。

さっきからやけに上機嫌で、でれでれしてるな、とろけそうな顔で可愛いけど。


「お兄ちゃん……これ思い出して」


 俺は凪に動画を見せられる。

先ほどの会見は、有名動画サイトにすでにアップされており、その一部分を再生する。


『私は彩さんに好意的な気持ちを持っています』


「お兄ちゃん、これはギルティ」


「えっとこれは、その、ほら勢いというか。俺もテンション上がってたと言うか……でも嘘じゃないよ」


「勢いで世界中で彩さんに好意を持ってますっていっちゃったの? でも男なら責任は取らないとねーーねぇ、彩さん!」


「え、えぇ! そうですよ! 責任取ってください! 乙女心を弄んだ罰です!」


 凪と彩が俺に詰め寄る。

妹よ、なぜ兄の前に立ちはだかる。

それに責任ってなんだ。

弄んだ気持ちはないんだけど。


「せ、責任たって……どうすれば?」


「じゃ、じゃあ……」


 彩が俺の目の前に歩いてきて、俺の袖をつまみながら恥ずかしそうに言った。


「明日……一日灰さんを独占したい……」


「独占って……どういう……」


「デート……したいです。私の誕生日……なんです、11月1日」


「デ!? あ、そ、そうなんだ! 知らなかった……誕生日に俺でいいの?」


 彩が俺の袖をつまみながら、下から俺を見つめる。

顔を赤くして恥ずかしながら、それでも俺に好意を伝えてくれる。

俺がそんな大事な日が俺でいいのかと聞きなおすとコクッと頷き耳まで赤くする。


(明日はA級キューブ攻略する予定だったけど……)


 少しの静寂が俺と彩の間に生まれるが、俺はゆっくりと頷く。


「……わかった。俺経験ないから下手くそだけど……しよう、デート! 精一杯楽しませるよ!!」


 周期的には明後日には崩壊してもおかしくない状態のA級キューブだが、俺が攻略する予定だからとそのままにしてくれている。

だから俺は今日今から攻略しに行き、明日の予定を開けることを決めた。


「え!? い、いいんですか!? 一日ですよ!? 灰さんの一日ってすごく貴重なのに。ごめんなさい、忘れていいです!」


 彩が驚くがすぐに忘れてと言いなおす。

確かに連日俺は攻略をしているので、毎日スケジュールは詰まっている。


 でも、俺はもう一度頷いた。


「ううん、大丈夫。それに……」


 俺は少し恥ずかしくて照れくさそうに、彩を見る。


「俺もしたいから……彩とデート」


 その言葉に彩が俺に詰め寄ってきた。


「え? も、もう一度お願いします! 大きな声で!!」


「に、二度目は無し! と、とりあえずその日は……デートしよ! 誕生日を祝わせてよ」


「ほんとに?」


「ほんと」


「ほんとにほんと?」


「ほんとだって──」


 何度も聞いてくる彩が俺の答えにいきなり抱き着く。

そして、満面の笑みを向けて、俺の胸の中から返事する。


「はい!! しましょう、デート!! 嬉しいです!」


 その笑顔は間違いなく俺が今まで見てきた中で一番輝いていて、可愛かった。


「やるーお兄ちゃん!」

「楽しんでね、彩」


 横で凪とレイナがぱちぱちと拍手する。

俺は彩に好意を持っていることを伝えたことは確かになかったかもしれない。


 これはある種の告白になってしまったのだろう。

デートがしたいなんて、ほぼ好きと一緒だ。

横で確か俺を好きだと言っていたレイナがうんうんと頷いているが、やっぱりあの子変かもしれない。


 そして俺と彩は明日の土曜日、初めての一日デートを約束した。


 絶対に遅刻はできないとスマホに最大音量でアラームをセットする。


 最近昼夜逆転しかけているからな……。



「じゃあ、凪。俺は明日予定してた攻略を先に済ませるから。もしかしたら帰るのは夜遅くかも」


「はーい! いってらっしゃーい」


 時刻は3時過ぎ、だから俺は明日予定していたA級ダンジョン攻略を早める予定にする。

大体今なら2,3時間で攻略できるので移動も含めれば、今からなら8,9時ぐらいには終わるだろう。

ハオさんに先ほど電話したら、いつでもどうぞと言っていたので俺は中国へ転移しようとした。


「あ、その前に」


 俺は田中さんに連絡し、転移する。

実は田中さんに依頼していたものを受け取りにいくからだ。


「お疲れ、灰君。言われていたのは用意したけど……」


 俺は田中さんに依頼していたものを受け取った。

それほど大きくない、拳ほどの大きさのアイテム。


「はい! これで俺の戦い方に幅がでると思います! ありがとうございました!」


「あぁ、こんなものでよければいくらでも用意しよう。じゃあ行っておいで」


「はい!」


 そして俺は闘神ギルドへと転移する。


「お疲れ様です。ハオさん!」


『よぉ、灰』

「お疲れ様です、灰さん」


 俺がハオさんの影に飛ぶとそこには、偉兄もたまたま一緒にいた。

俺は良い機会だと思い、新しいスキル『心会話』を発動させた。


 これで俺は日本語を話しても、俺の言いたいことを心で伝えることができるはずだ。

そして偉兄達の言いたいことがわかるはず。


『聞こえる? 偉兄』


『『!?』』


 俺のその言葉に驚く二人。


『なんだ? 頭に直接……これってあのたまに聞こえるキューブの』

『え? 灰さん、中国語覚えたんですか? いや、違うな、何だこの感覚』


『よかった話せるようになったんだ、新しいスキルです! これで意思疎通も楽でしょ!』


『お前……まったく……相変わらず変な力ばっかり手に入れて……みたぜ記者会見』


『は、はは……なんか勢いで。でも能力の詳細は明かしてないから……』


『それでもお前が特別だって気づいただろう。まぁ俺が手出しさせねぇけどな』


 実は俺は偉兄には、能力のことを話している。

俺のことを信じて兄弟の契りまで交わしたんだ、俺も同じぐらい信じるべきだと思ったからだ。

それに中国で攻略するたびに何度か一緒にご飯を食べているが、俺はもう本物の兄貴のように慕っている。


『さすが、偉兄!』 


『はは、静がお前に次いつ会えるかしつこいから顔出してやれよ』


『お、俺には好きな人が……』


『二人も三人も変わらねぇだろ、お前なら俺は許す』


『えーっと。と、ということで、明日は用事があるから今日中に明日行く予定だったA級キューブに行こうと思ってます! ハオさん大丈夫です?』


 俺は慌てて話を変える。


『逃げやがって……』


 偉兄が笑っているが俺逃げてばっかりだな。

いや、静さんに関しては俺ははっきりと断ったはずだ、だから俺は逃げてない。


『えぇ、問題ありませんよ! 場所は北京の近くなので、飛行機で二時間ほどですね。チケット取りましょうか?』


『お願いします!』


 俺はハオさんにチケット購入をお願いし、飛行機で移動する。

時刻は夕暮れ頃、ライトニングはその目的地にマーキング人がいなければ使えないのは少し不便だ。

いや、この時点で不便といってしまう当たり感覚がマヒしているな。


「さぁ、これでついに100万。超越者だ」


 場所は中国の大都市、北京と目と鼻の先。

それでも少し外れて人通りが少ない荒野に一つ、真っ赤なキューブが佇む。


 俺はいつものように、凛とした音と共にそのキューブへと触れる。

波紋が広がり俺を受け入れる封印の箱。


 俺はその名前の由来をうすうす感づいていた。


 封印の箱、つまりここには奴らが閉じ込められているんだ。

人類の敵である魔物達、そして俺を今代の神の騎士と呼び、殺そうとする悪魔のような黒い騎士。


 じゃあ誰が封印した? なんで封印された? いつから封印された?


 疑問は尽きない。


 それでもこの先に答えがあるような気がするから。

いつだってダンジョンは俺の疑問に答えてくれる。


 ただ、その代償は俺の命かもしれないが。


 そして俺はダンジョンに潜り、数時間。

いつものように現れた黒い騎士の一柱を倒しきり、完全攻略を達成した。


 直後、いつものあの音声が俺に告げる。


 だが、いつもとは違っていた。


『条件1,2,3、4の達成を確認、完全攻略報酬を付与します……ピーーーー!!』


 俺は突如鳴るその警告音のような心をざわつかせる音に身構える。

何かが起きる気はなんとなく感じていた、ひりつくような感覚、心がざわつく。


『ERROR! ERROR! ERROR! ERROR!』


 だから今日終わらせておきたかった。

明日、彩とのデートを笑顔で迎えられるように、不安は消しておきたかった。

 

 それに今日やるべきだとなんとなく思った。

運がいいのか悪いのか、俺の悪い予感は当たるから。


『ERROR!……魔力増減999999に達しました。これ以上増加するには、真・覚醒する必要があります』


「魔力増減、99万で増加が止まってる。……なにかが起きる」


 俺はもう一度白剣を握りなおす。

おそらく何かが起きる、エクストラボス?


 それとも……。


『真・覚醒のために、天地灰を転移します。正規ルートのため、ラストステージまで解放します。転移先──』


 そして無機質な音声は俺に告げた。

聞き覚えのある声で、聞き覚えのある言葉で、言ったことのある場所へ。


『──久遠の神殿』


 あの悠久の時に忘れられて、ただ静かに佇む神の社へと。

新作ラッシュ、これでラスト。

良かったら読んでね。面白いよ


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俺の聖杯だけがレベルアップ~魔力とダンジョン溢れる現代で、聖剣抜いたら運命変わった~



 生まれ持った魔力がすべてを決定づけるダンジョンが溢れる現代。


 そんな中で最底辺である未覚醒者であり、魔力0の俺。


 しかし俺は聖杯を手に入れてしまった。


 敵を倒せば無限に成長する魔力、さらにスキルすらも成長する。

聖杯からは聖水が湧き出るが、それは治癒のポーションとして破格の値段で求められた。


 でも俺はまだ聖杯が導く俺と世界の運命を何も知らなかった。


 これは未覚醒者として社会の底辺でくすぶっていた俺が、聖剣を抜いたら運命が変わった物語。

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