表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/132

第104話 AMS治療方法発表ー4

「どうぞ、質問を」


 俺は真っすぐとその記者に向けて言った。

そこに景虎会長が割り込み、一旦場を落ち着けようとする。


「私が本人がいたほうがいいだろうということで天地灰君を呼びました。予定には記載しておりませんが、良い機会ですのでどうぞ質問を」


 いきなり現れてしまったが一応は正式の場なので、会長がフォローしてくれた。

こういうところは俺はダメだな、感情的に動いてしまう。

しかし景虎会長が俺を見て楽しそうにウィンクする。


 どうやらこの状況を楽しんでいるようだし、とてもうれしそうだ。

彩は相変わらず真っ赤になっている、テレビで見た時よりも真っ赤でトマトみたいだ、そんなに辱められたのか。


「彩、もう大丈夫だから」


 俺はもう一度彩を元気づけようと、話しかける。


「……あ、ありがとごじゃいましゅ」

「灰君、大丈夫。少しほっといてやってくれ、そろそろ爆発しそうじゃから」


「?……まぁ大丈夫ならよかったです」


 俺はもう一度記者のほうを向く。


「で、では質問です! この治療法についてですが!」


「私が特効薬としての魔力石が効果があると発見し、龍園寺彩さんが治療法として確立してくれました。ですが、私が全権利を彩さんに譲渡したため発表者は彩さんとなっています。私の妹がAMSから起きたのは、私が保護者として妹にこの治療法を試すことを熱望し、彩さんに頼んだからです」


 その発言で、会場はまたざわつく。

つまり、AMSの治療法発見者は本当は俺だと言っているのだから。


「ど、どうやって見つけたと! 国家攻略者の能力開示は責任があるはずです!」


「私の力の一つとだけお伝えします。残念ながら私は日本ダンジョン協会を追放され、中国ギルドに所属しております。ですので日本のダンジョン協会に能力開示する責任はありませんね。知りたければ中国の闘神ギルドを通してください」


「なぁ!?」


「ガハハ、言いよるわ」


 景虎会長が面白そうに笑っているが、記者は少し顔を赤くしている。


「わ、わかりました。ではAMSについては天地灰さんが見つけ、龍園寺彩さんが治療法として確立したと。これに関しては……大変喜ばしいことだと思います。で、では先ほどの写真は? 交友関係があると?」


 その記者は苦し紛れに先ほどの質問を繰り返した。

今更俺と彩がどんな関係だろうが、意味はないと思うが。


「数か月前の事件を覚えていますか。滅神教のフーウェンに彩さんが襲われた事件です。そのときフーウェンから助けたのが私でした。そこからプライベートでも親しくしているだけです。私が追放され、中国ギルドに所属する前からの付き合いなので、皆さんが思っているようなスパイ目的などではありません」


「では、男女の中ではないと!?」


「ええ、私と彩さんは男女の中ではありません。……いや、違うな。確かに今はまだお付き合いはしていません。でも」


 俺は途中で言い直す、はっきり言わないといけないと思ったから。


「私は彩さんに好意的な気持ちを持っています」

「ボンッ!」


 横で何かが爆発するような音がした。

俺はそちらを見ると彩が赤すぎてもはやトマトみたいで。


「ぷ、ぷしゅーー……」


 頭から湯気が出そうなほどだった。


「ガハハ。どれ……ちとヒートアップしそうなので……」


 そういうとそのまっすぐな言葉に怯んだ記者に景虎会長が妥協点を見つけ出す。


「今説明がありました通り、灰君は特別な力を持っています。それこそ世界を変えるような、ですが私が保証します、彼は心優しい青年です。アーノルド・アルテウスを殴った事件も元をたどれば、レイナの洗脳されてしまった母を助けたいという人助けの精神から来ています。その精神に儂の孫である彩も救われました、そしてつい先日大きな事件があったでしょう。この国の将来を担う子供達、教員含め50名近く。その全員があわや死にかけるという事件が。それを救ったのも灰君です。彼の行動は確かに直情的な部分があるのは否定できませんが、彼がルールを破るとき、それはいつだって誰かを救うために行動しているだけで、自分のわがままを通すためではないとご理解してほしい。もう一度はっきり言いましょう。彼は心優しい青年です」


 その会長の力強い言葉に、ヒートアップしていた会場の熱は一旦下がる。

そして記者もこれ以上は追及しても仕方ないと感じたのか。


「質問は以上です。熱くなってしまい申し訳ありませんでした」


 頭を下げて質疑を終了した。


「一点追加で質問よろしいでしょうか」


 すると別の記者が質問のために手を上げる。


「先ほど、滅神教に洗脳されているとありましたがそれは一体どういうことなのでしょうか、マインドコントロールとは別のような意図を感じましたが」


 俺は会長を見る、会長は頷いたので俺はその力のことを話すことにした。

これはAMS並みに世界にインパクトを与えることかもしれない、でも今なお苦しんでいる人がいるなら。


「滅神教はおそらく、たった一人が作った組織です。なぜなら信徒達は全員スキルによって洗脳されているからです。決して抗うことができない魔力の力によって」


「なぁ!? そ、それは断言していいものですか!?」


 今日一番のざわめきが会場に起こった。

今までスキルなのか、マインドコントロールなのかもよく分からないが、常軌を逸した行動をしてきた滅神教。

その信徒達が自分の意思とは違い、強制的に操られていると俺が言ったからだ。


「信じられないかもしれません、ですがAMSの治療方法を見つけた力で確認しました。私はこの力ゆえに滅神教に狙われています。先日の日本襲撃もその一端です。皆さんが納得する形で証明することは残念ながらできませんが、そもそもスキルというものが何ひとつ科学的に証明できないのですから」


 俺の発言に、衝撃を隠せない記者達。

だが、話しのつじつまは全てあっている。

AMSの治療法を見つけた力ならば可能なのかもしれないという憶測と、滅神教が天地灰に執着しているという事実。


「だから、私は滅神教の大本を見つけ出し倒す。それはレイナとの約束でもあります。ソフィアさんを失ったあの日、私はレイナと約束しました、必ず大本を倒すと。アーノルドさんを殴ったのは、皆さんも知っているとおりアーノルドさんの回復阻害の力を消すためです、まだあの時はレイナの母、ソフィアさんの意識はあり、治癒をすれば助かる可能性があったからです。結局は間に合いませんでしたが。ですが操られている信徒達は、滅神教の大本を倒すことですべてその洗脳から解放されるはずなんです」


「で、では! 今までのテロ行為はその大本一人が仕掛けたものだと!?」


「そのはずです、なぜ協会を狙うのか。その理由まではわかりませんが」


「なんてことだ……」


 記者は力なく椅子に座り込んだ。

それからいくつかの質疑応答を行い、記者会見は終了した。



 その日明かされたのは世界を蝕むAMSの治療法、そして世界的犯罪組織滅神教の事実。

そして間違いなく人類の頂点に名を連ねた一人、天地灰がその巨悪を倒すと言う意思表示。


 波乱に満ちた記者会見は終わり、その事実は世界中を駆け巡る。


 灰は特別な存在だということはこの日世界が知ることになる。

だが、それでも手出しできないのは、大英雄を兄にもち、最強の女性に愛され、そして自身もその頂点に名を貫くほどの強者になったから。


 今日の発言をもって、天地灰を擁護していたか細い流れは激流となって世論を動かす。

灰という人格を知るには十分だった記者会見を経て国民達は自分達が追放した存在が何だったのかを少しづつ理解する。


 その大きな変化を生んだ記者会見。


 時代は動き、世界は変わる。

だが、それは世界を巻き込む強大な闇といううねりの始まりでしかなかった。



◇時刻は進み、翌日 早朝。まだ陽が昇らない頃 龍の島


 たった一人の男が島に上陸する。


 世界の情勢やパワーバランスなど、そんな些細なことは気にも留めぬ巨悪がすでに動き出していた。

その目的はただ一人、ほんの数か月でめまぐるしい成長を遂げてしまった一人の少年。


 神の眼を持つ神の騎士。


「天地灰……やはり神の眼を受け継ぎ、神の騎士となっていたか。……アテナめ、死してなお我らの邪魔をする。忌々しい白の神よ」


 龍が闊歩する島、世界で唯一人類が生存圏を手放した場所。


 その島に一人のローブを被った存在が歩いている。

本来なら目が合うだけで怒り狂った龍達によって殺されるはず。


 だが、龍達はまるで恐怖しているかのように、そのローブの男から離れていく。


 自分達の支配者を見たかのように。


 その島の中心、真っ黒なキューブを前にして男は用意した大量の魔力石を使って何かを唱える。


 その魔力に充てられて黒のキューブは甲高い音と共に震えだし、島が揺れる。


 次の瞬間、数えきれないほどの龍達がその封印の箱から外に出る。

100,200,いやそれ以上の数の龍達が次々とキューブから外に出る。


 その龍達はゆっくりと目的地へと進んでいく。


「さぁ、始めよう、白の一族の末裔よ。我ら黒の一族と悠久の時を経て、今度こそ決着をつけようじゃないか! 今度もまた守れるかな?」

 

 その目的地は。


「今は日本と名乗る白き神の国よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ