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1.全ての発端



————話は少し遡る。



 小説やドラマなんかで、電車に乗って愛の逃避行を繰り広げる彼ら彼女らは果たして今の僕のような気分になっているのだろうか。

 そんなことを考えながら、深夜最後の電車に揺られている。

 



 ガタンゴトン、ゴトンガタン。

 ガタンゴトン、ゴトンガタン。



 

 世間に溢れている騒音問題なんて露知らず、轟音を響かせ最終電車は僕の体を遠く遠くへと運んでいく。

 日々の疲れのせいか眠くなり霞んでいく視界をなんとか堪え、どこかもわからない僕の行き先を目に焼き付ける。


「やっと抜け出せたんだな……」


 思わず声が漏れ出る。

 これからの未来に明るさなんてないけれど、それでも今いる環境よりも何倍もまし。

 だからこそ僕はこうして動き出すことを決めたのだ。


 普通の家庭、そう呼ぶのが難しいくらいには僕の家庭は歪みきっていた。いっそのこと壊れていたと表現する方が相応しいのかもしれない。

 そのぐらい僕の生活はおかしいものだったのだと今更ながらに気づいた。


「お前最近バイトばっかで大丈夫か?」


 きっかけなんてそんな些細なものだった。

 同じゼミの友達、小野川大がなんの含みもなくそう聞いて来た。


「大丈夫だよ、だって家にお金入れないと……」

「そうか……なんかごめんな」

「心配してくれてありがとう」


 なんともバツの悪そうな表情を浮かべた大を横目にゼミの教室を出る。

 大学生活ともなればコミュニケーションが命とも言える。むしろノミュニケーションの方なのかもしれないけれど。

 そんな場に一切出ることも叶わず、僕は今日もまたアルバイトのため大量の学生の波と共に地下鉄へと乗り込んだ。


 繁華街の中にあるカラオケの深夜バイト、時給がいいためそこでバイトを初めてもうすぐ二年になる。ここで稼いだバイト代は、親に渡し、日々の生活費の足しにする。そんな生活もまた始まって二年になる。


 僕がやらなければ母が苦しむ。最初はそんな親孝行のつもりだった。

 大学生ともなれば、高校生までと違ってアルバイトに掛けられる時間制限なんかもなく、まとまった時間や深夜の時間帯でも働ける。


 そうまでして家にお金を入れなきゃいけない理由なんてない。

 そう、なかったのだ。


 だけど、日々母の口から漏れる「大変だ、お金がない」という言葉を聞くのが嫌ででアルバイトを始めた。

 もちろん、アルバイトが好きでやっているというほど酔狂な人間でもない。ただそこにあるのは逃げの気持ちだった。

 少なからずバイト代を家に入れておけば、面目が立つ。こんな逃げの思考からだった。

 



 親の急な離婚が決まったのは、僕が大学生になる直前。

 高校三年生の僕と母を残して父がいなくなった。専業主婦だった母とこれから大学生になる僕。進路は決まっていたし、入学金ももう払っていて今更大学を諦め社会人となるという選択肢はなかった。ここはあくまで僕のわがままだけれど。


 そしてそんな母との二人きりの生活が始まって、何もないわけがなかった。

 日々職場で溜まるストレス、そんなものが僕に降りかかる。

 僕は家に居たくないという気持ちも含め大学が終わってからの深夜バイトというわけだ。この時間だけは家とは無関係の場所に居れるのだから正直楽ではあった。


 そして、そんな生活が始まってから二年、ここ最近でいう一昨日のことだった。

 僕が稼いだバイト代が全く残っていなかったのだ。


 現実的な話、月九万以上を稼いでしまうと色々な問題もあるため、そのギリギリの範囲内で溜めて居たはずの僕のお金は全くというほどなかったのだ。


 大学に通うのにもお金はいる。そんなことは当たり前で、そのために月のバイト代の半分くらいは学費代として分け持って居た僕お金が消え去って居たのだ。


 半分は家に入れていた。

 だからこれ以上持っていかれると僕の方も困る。

 だけど、それに母は手をつけた。


 世界のどこかにはあるのかもしれない家族内でのいざこざが、今僕の身に降りかかった。背筋に震えが走ったのをよく覚えている。

 これまで信じていた人間、これまで助けたいと思っていた人間に裏切られた。

 目の前が真っ暗になる感覚、それを今でも忘れられない。

 思わず僕は母に問いかけた。


「ここにあったはずの僕の学費は?」

 それに対する母の答えは……「知らない」の一辺倒だった。


 そんなはずはない。そんなことは小学生でもわかる。だってこの家の住人は僕と母だけで、僕でなければ母でしかないのだから。

 そして、そんなことから母を信じられなかった僕は、その月最後のバイト代を手に家をでたというわけだ。


 どのみち、大学に残っていられない。

 だから正直どうでもよくなったのだ。

 勉強も家も、そのどれもがどうでもよくなった。


 その時の僕の気持ちはただただ、どこかに行きたい。それだけがあふれていた。

 そして、いっそのこと誰もいない、誰も見ていない場所でひっそりといなくなりたい。そう思った。だから深夜、最後の電車に揺られ、どこに着くのかもわからない行先も将来も真っ暗な世界を目に焼き付けていた。


 その駅に降りたのはなんの理由もない。


 少しだけ明るんだ明け方の世界に写り込んだそれを近くで見たい。そう思ったからだった。

 駅を降り、そしてそこから少しだけ登った先の岬、真っ白な灯台の近くに佇む少女、高宮伊吹たかみやいぶきと出会った。

どうも、初日ということで複数話投稿したいと思います。

その第二話目、今回に限っては伊吹さんの出番はありません笑

そもそも時系列的にはプロローグの前の話ですからね笑

ですが物語の根幹に関わる部分の話でしたので第一話として始めさせていただきます。それでは次回の更新をお楽しみに〜

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