第八話 巣食う闇
今回も読んでいただけると嬉しいです!
月曜日、いつもと同じように登校した真は教室に入ろうとすると同時にある事に気が付いた。
廊下で香織とユイちゃんが立ち話をしていたのだ。
2人に軽く挨拶を済ませた真は教室の中に入り、駿の姿を見つけこっちにも挨拶をした。
廊下にいるユイちゃんの存在を知ってか知らずかは駿の態度からは推測できないが、いつもの明るさは健在で安心した真は自分の席に着く。
「駿!元カノが廊下に来てるぞ」
短髪で少し色黒のお調子者 石崎 陸がこの状況を楽しむかのように駿へと話しかけた。
「分かってるよー」
石崎を軽くあしらいながらも駿は照れ臭そうな表情しながらも、その後も石崎のからかいの相手をしていた。
そんな2人を観察していた真は、隣の席に香織が戻ってきた事で意識をそちらに向けた。
「ユイちゃんと何話してたの?」
「今度2人で遊ぼうとかの雑談だよ」
香織はすんなりと教えてくれるが、それが本当かはまた別問題である。
目線を駿の方に向けると、さっきより人が増えみんなで駿の事をいじっていた。
その様子からするに駿はユイちゃんの話題をタブーにしている様子はなく、友人はみんな知っている様子だった。
「3人で遊ぶとき、俺たちもユイちゃんの事聞いてみようよ」
「それに賛成」
真と香織の方針が決まったところで担任が教室に現れ、一日が始まった。
昼休みの開始を知らせるチャイムが鳴ると共に多くの生徒が移動を始める。
購買部に向かう人、食堂に向かう人など目指すべき場所は人それぞれだが
駿も教室以外の場所でお昼を食べる1人である。
石崎と他数人のクラスメイトと一緒に教室を出た駿の後を追うように真も教室を後にした。
この時間の廊下は人で溢れかえっており、自分の後を追って来る人間に気付く人はいないだろう。
駿は何も気にする事なく、石崎と共に購買部でパンを買った後に他クラスへと入って行った。
仲良い友人がいない真が、このクラスに入って行くことはできずここで追跡を断念したが入れ替わりする対象を絞る事はできた。
まずは石崎に入れ替わり情報を集めつつ、駿と更に関係が深いクラスメイトを発見できたらそっちとも入れ替わる作戦だ。
ある程度の流れを決めたところで、真の悩みは次の問題へと移る。
今日の放課後、ユイちゃんと2人で会うことになっているのだが、この事を香織は知らないとユイちゃんは言っていた。
だからこそ朝、廊下で会話してる2人を見つけた時は緊張した。
2人で会うことを俺が香織に話してないか確認しに来たのかもしれないという考えが頭をよぎったからである。
そして真にはなぜ香織には秘密にするかの理由が分からなかった。
自分の教室へと帰ってきた真は、その状況にさらに驚きを受ける。
香織ちゃんとユイちゃんが2人で仲良くお昼を食べていたのだ。
「なんでここで食べてるの?」
思わず聞いてしまった真。
「駿は教室に居ないからここでも良いかなと思ってユイちゃんを誘ったの」
「お邪魔してます、、」
ユイちゃんは申し訳なさそうにしている。
2人に混じり真も参加し、お昼を一緒に食べあと、ユイちゃんは駿が帰って来る前に自分のクラスへと帰って行った。
「さすがにこれは強引すぎないか?」
「そうだけど何か行動起こさないと変化起きなそうだと思ってさ」
香織も少し反省している様子なのがわかる。そして真と同じで、このこう着状態から脱するには何か変化が必要と思っての行動だったのだろう。
それに、今回の行動は良くも悪くも今度3人で遊ぶ時の話題の一つになることは間違いない。
放課後、用事がある事を香織に伝え、真は1人学校を後にした。
向かう場所は自宅ではなく、ユイちゃんと2人で待ち合わせをしている場所である。そしてその場所とはユイちゃんの家であった。
駿との復縁を望んでる相手の家に行く事に、少し罪悪感を感じつつも女子に家に行くという事実にドキドキしているのも事実である。
指定された駅の改札を出ると、そこにはユイちゃんが立っていた。
真に気づいたユイちゃんは小さく手を振り、こちらへと歩いてきた。
「来てくれてありがとうございます」
そうして2人はユイちゃんの家を目指して歩き始めた。
「今日、部活は無かったの?」
真が沈黙を破る。
「はい。月曜日はオフなので」
そんな感じの日常会話を5分くらいしただろうか。
閑静な住宅街の一角に一際大きな家の目の前でユイちゃんが足を止めた。
「到着しました。」
「は、はい」
大きな家に圧倒された真は敬語がでてしまった。
「ただいまー」
「お邪魔します」
2人の声に気づいたのか、奥から1人の女性がやってきた。
「おかえりない、ゆいさん。こんにちは」
ユイちゃんの後に、真にもしっかり挨拶をしてくれた女性は2人の関係を探る様子もなく、ユイちゃんと話をしていた。
「後で部屋にお飲み物とケーキを持って行きますね」
そう言い残した女性は、律儀にお辞儀をしてから奥の部屋へと戻って行った。
ユイちゃんに案内され二階にあるユイちゃんの部屋へと向かった。
「さっきの人は家政婦の柴田さん。両親の帰りが遅い日に来てくれるんです」
部屋に入ったユイちゃんはカバンを下ろしつつさっきの状況を説明してくれた。
ユイちゃんに促された真は部屋の真ん中にあるテーブル付近に腰を下ろした。
ソワソワしているのを見抜かれないように真は会話を試みる。
「香織から聞いてはいたけど本当にお嬢様なんだね」
そう言って部屋を見渡す真。
「全然そんな事ないです、、。」
恥ずかしそうにしているユイちゃんを助けるようなタイミングで部屋のドアがノックされる。
家政婦の柴田さんがレモンティーとショートケーキを持ってきてくれたのだ。
「お夕飯はキッチンにありますので、そちらも良かったら食べてください。私はこれで失礼します。」
そう言って柴田さんは柔らかい笑顔を2人に見せた後、お辞儀をして部屋から出て行った。
「レモンティーでよかったですか?」
「もちろん!」
そう言って一口飲んだレモンティーはとっても美味しく、普段から飲んでるペットボトルの物とは比べ物にならなかった。
真のその表情を見て安心したユイちゃんは真に続いてレモンティーを飲み始めた。
ショートケーキも食べ終わる頃、帰り支度が済んだ柴田さんが玄関から出て行く音が聞こえた。
「柴田さんは帰っちゃうの?」
「はい。柴田さんも家庭があるので、夕飯の支度が終わったら帰ってしまいます。」
今は家に2人っきりという状況を理解した真は少し気まずくまる。
「な、なんで今日は呼んでくれたの?」
緊張のせいか、言葉に躓いてしまった真。
緊張がユイちゃんにも伝染しのか、頰が少し赤くなっている。
「こっち来てください、、。」
立ち上がったユイちゃんに合わせ、真も立ち上がる。
次の瞬間、ユイちゃんは真に抱きつき2人の唇が触れ合う。
突然の出来事で脳の処理が追いつかない真は、二、三秒経ってからユイちゃんから離れる。
言葉が出ない真を見つつ、キスした後だというのにユイちゃんは表情ひとつ変えずにいた。
「これで私の味方になってくれるよね? それともまだ足りない?」
「待ってくれ、、。ちゃんと説明してくれ」
こんな状況でも冷静なユイちゃんに真は恐怖を感じ始めていた。
沈黙の後、ユイちゃんは自分のスマホを取り出しと、画像を真に見せてきた。
「これが私、、」
体に酷くアザがあるユイちゃんであろう人物の腹部の画像だった。
画面を指で横にスワイプすると、今度は肩にアザがある画像が出てきた。
「これって、、、ユイちゃん??」
顔や全身が写っているわけではないので、確信はできない真。
「そう」
そう言ったユイちゃんの頬には涙が見え、泣き始めてしまい、
溢れる涙を隠す様に手のひらで自分の顔を隠してしまった。
恐怖すら感じていたさっきとは打って変わり、目の前で泣いているユイちゃんはとってもか弱く見えた。
そして自然と真はユイちゃんを優しく抱きしめていた。
ユイちゃんも抵抗はする事なく、気持ちが落ち着くまで真の腕の中で泣いていた。
何分経ったかは分からない。
「ありがとう。」
泣き止んだユイちゃんはゆっくりと真の腕から離れていった。
泣き顔を見られたくないのか、ユイちゃんは俯いたままだ。
「何があったか、、、。話すね」
そう言って顔を上げたユイちゃんの目はまだ赤く、頬を流れた涙は乾いていなかった。
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また新たな事実が判明し、次からさらに盛り上がっていきます!