第四話 自分にとっての常識は、相手にとって非常識
今回は話の区切りの都合上、少し短めになってますが読んでもらえると嬉しいです!
「うぅぅっ、、」あまりの痛みに上手く呼吸が出来ない真は胸のあたりを抑えながら、床にうずくまっていた。
「なぜルールを守れないんだ駿」
駿の父親は冷たい目で真を見下ろしいる。
「ご、ごめんなさい、、」痛みが徐々に和らいできてようやく声を出せるようになった真だったが、状況がまだ把握出来ないでいる。
「謝って済むならルールなんて必要ないんだよ。ルールを破ったならそれなりの罰を与えるだけだよ」
駿の父親は表情ひとつ変えずに真顔で言っている。
「早く立つんだ駿。いつまで床に伏せている気だい?」
「ごめんなさい」
そう言って真はまだ少し痛む胸を押さえながら、ゆっくり立ち上がった。
駿の家庭の秘密を知ってしまった真は何とも言えない感情が湧き上がってくるのを感じていた。
「なぜルールのひとつすら守れないんだ? 何ひとつ不自由がない生活を私はお前に与えているのに何が不満なんだ??」
「ごめんなさい、、。友達と遊んでたら時間を忘れてしまいました」
「遊ぶなとは言わない。しかし時間が守れないようなら外出禁止にするぞ」
あまりの理不尽なルールに真は怒りを覚え、駿の父親を一瞬ではあったが睨んでしまった。
マズイと思った真であったが、相手はそれを見逃しはしなかった。
また拳が胸あたりにヒットし、うめき声をあげる真は限界を迎え始めていた。
「まだ反抗するのか?」息子を殴っているというのに駿の父親は相変わらず表情一つ変わっていない。
そして今度は胸ぐらを掴まれた真は恐怖のあまり、入れ替わりを解除してしまった。
目を開けるとそこは自分の部屋のベットの上だった。
安心するのと同時に、駿の今の状況を考えると心拍数が一気に上がった。
胸ぐらを掴まれた後はどうなってしまったのだろうか?
そのまま更に暴力を受けてるのではないかと考えてしまう。
警察に通報するべきだろうか?駿に連絡をしてマンションまで行くべきだろうか?
もはや何が正解か分からずにいる真であったが、このタイミングで駿の家の異様なまでの綺麗さの答えが分かってしまったのだ。
それは暴力の証拠を残さないためだろう。
警察が家を調査したところで何も証拠は出てこないだろうし、外から見れば幸せそうな裕福な家庭に見える駿の家族に警察も踏み込んだ捜査はしないだろう。
そうなると暴力を証明する唯一の証拠は駿が告発するしかないのではないかとの結論に至った真は、すぐに駿にLINEをした。
「今何してる?」
それとなく様子を伺うような言葉を選んだ真は、返事の内容は何でもいいから駿の安否が知れればいいのですぐに返信が来ることを祈っていた。
すぐに返信は来なく部屋には沈黙が訪れ、自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえてくる。
「おーーい、早くお風呂入っちゃえよー」
部屋の外から急に父親に声をかけられ、驚いた真であったが今はそれどころではなく返事はぶっきらぼうになる。
「分かってるよ。」
その瞬間、真はビクッとした。駿の父親に殴れた事をはっきりと体が覚えていて、ぶっきらぼうな発言に対し殴られると思ったからだ。
もちろんすでに入れ替わりは終わってるのでそんな事は起きないし、真の父親は暴力を振るうような人間ではない。
分かってはいる事なのだが、それでも体が一瞬反応してしまうくらい、殴られた時の事が脳裏に焼き付いていた。
それが自分の父親ではなく、友人の父親からであってもだ。
そして、入れ替わってる時の自分の発言と行動によって駿が今も暴力を受けているかもしれないと思うと余計に辛くなり、その現実に怖くなってしまった。
その時、スマホが鳴り、すぐに手に取り画面を見た。
駿からの返信が来ていたのだ。
「すまん! ゲームしてて全然気づかなかった! 真から連絡してくるなんて珍しいな笑」
文面はいつもの駿だが、平然を装ってる事を知ってしまっている真にとっては心苦しかったが、とりあえず返信が来たことに安心していた。
「今度、香織も誘って3人で遊ばない?」
駿の安否が確認したかっただけの真は話題など全然考えてなく、咄嗟に遊ぶ提案をした。
「いいね!! 部活のスケジュール確認するわ」
「ありがとう じゃあまた月曜日に学校で」
「おう!」
そうしてやり取りは終わり、少し安心した真はどっと疲れを感じ、お風呂に入る事にした。
お風呂に入るため、一階に降りて行った真はリビングで両親が仲良さそうにテレビを見ていることに気がついた。
「父さん、さっきは適当に返事してごめん。 お風呂入ってくる」
なぜか父親に謝っていた真。
「そんな事気にしてたのか? のぼせるなよー」父は笑い飛ばし、全く気にしていない様子だった。
真にとって父親とは 怒る時もあるが優しい存在 だと思い生きてきた。
しかしそれは自分にとっての常識であり、そうでない場合のことなど考えた事もなかった。
なので、自分のぶっきぼうな態度や発言を笑い飛ばしてくれる父親の優しさを改めて感じ、より一層心に響いた。
お風呂に浸かり、気持ちを落ち着かせてから真は能力に対する一つの疑問を解決しなければならない事に気づいたのだ。
それは入れ替わりが終わった後、対象者の記憶はどこまで残っているのかである。
今回のケースでいうと、真が駿として、駿の友人たちと遊んでいた時の記憶は入れ替わりが終わったとき、駿は覚えているのだろうか。という事である。
もし記憶が補完されていないとしたら、駿はルールを破った記憶は無いのに、父親から暴力を受けている事になる。
この能力の制限とかは知っていたし、この能力を悪い事に使うつもりが無かった真は、今まで相手に対するデメリットのことなど考えもしなかったのだ。
たまを悩ます問題がまたひとつ増えた真は、熱めのシャワーを浴びてからお風呂を出た。
部屋に戻り、スマホを確認すると今度は香織から連絡が来ていた。
「明日、駅前のカフェに10時集合 よろしくね!」
「了解」
とだけ返信し、真は明日に備え寝ることにした。
読んでいただきありがとうございます!
次話からは、駿の家庭環境や恋愛要素も絡んできて話が展開して行きますの!
遅くても金曜日には更新しますので読んで頂けると嬉しいです






