第十七話 狂いだした歯車
少し短いですが更新しました!
ユイちゃんと解散し、喫茶店を後にした真は香織に
「駿の件で今度話せる?」とメッセージを送っていた。
香織はその提案を飲んでくれたようで、今夜会う事になった。
香織とユイちゃんは同じ中学出身なので、ユイちゃん家の最寄り駅と香織の家からの最寄り駅は同じだと思い、そこを待ち合わせ場所に指定した。
しかし、冷静に考えるとなんで真がこの時間に、この駅にいるのか香織は疑問を持つのではないかと思ったが、時間は過ぎて行くばかりでもはや真にはどうする事もできなかった。
本当は香織に気づいてほしかったのかもしれない。
ユイちゃんの秘密を自分からは口外できない真は、自分の悩みを誰かに気づいてほしかったのかもしれない。
そう考えたところで、結局は香織次第なので考えても仕方ないと思った真はスマホをいじりだした。
「お待たせ」
香織の声が聞こえると同時に、スマホをしまった真は顔を上げた。
「急に呼んで悪かった。 話したい事あるんだけど少し歩かない?」
そうして2人は歩き出した。
「わざわざここまで来てくれたの?」
先に話始めたのは香織だった。
「用事があるって言ったと思うけど、それついでにね」
冷静を装い真は答えた。
「ふーーん」
どんな用事だったか、香織には興味ない様だった。
「それで駿の件なんだけどさ、、、」
話さなくてはいけないと思いつつも言葉に詰まる真。
言葉に詰まる真を不安そうに見つめる香織。
そしてゆっくり、小さく一回深呼吸をしてから真は駿と石崎の関係を打ち明けた。
そして話終わった2人に沈黙が訪れた。
「これが本当だとして、真はどうやってこの事を知ったの??」
香織の表情は真剣そのもので怒りすら感じることができる。
「たまたま俺が駅前の店にいたら、駿と石崎が入ってきてその話をしてたんだよ」
どのみち真が本当に店にいたかどうかなんて香織には確かめようがない事なので、違和感がないような嘘で誤魔化す真。
それに、人と入れ替われる事を誰かに話す気は真にない。
「駿と石崎がしている事は最低だと思う。その上で駿のフォローもさせてほしい」
真は恐る恐る香織の方を見た。
「分かった」
香織の声色は無機質だった。
そして真は追い討ちをかけるように、駿が父親から虐待を受けている事についても打ち明けた。
「駿は自分のしている事に罪悪感を感じているようだった。 これは俺の勝手な推測だけど、駿は父親からの虐待によるストレスを人に暴力を振るう事で解消しているんだと思う。それと、この件が解決するまではアキちゃんが駿に告白しないようにした方いいと思う」
そう言うと真はうつむいた。
香織は何て答えるのが正解なのか考えているのだろう。
また2人の間には沈黙が訪れた。
そして2人は答えが分からぬまま歩き続け、待ち合わせした場所へと戻って来ていた。
「一方的に打ち明けといて悪いんだけど、駿に会った時は態度に出さないでくれると助かる。」
こんな話を聞かされた後に、何事も無かった様に接する事など無理だと分かりつつも、真は一応釘を刺しておいた。
「分かった。けど絶対とは言い切れない」
「ありがとう」
そうして2人は別れの言葉も無しに、それぞれの帰路についた。
真は電車に揺られながら、さっきの自分に誤りがなかったか自問自答していた。
駿を父親の暴力から救うために行動していたはずなのに、今やユイちゃんの復讐に加担し、駿を完全に悪者にしてしまっている。
それに、相手の女子も同意した上での行為ならば駿は悪くないのではないか?とも思ってしまう。
だとすれば勝手に人の秘密を打ち明けた自分が一番最低な人間なのではないかと、真は感じていた。
真と別れた香織はゆっくりと自宅に向かって歩いていた。
駿の正体を知った時は確かにショックを受けた。
しかし次に香織が思った事は「楽しくなってきた」である。
父親から暴力を受けている可哀想な駿。
そのストレスによって人を傷つける駿。
「可哀想な駿、、、。けど、暴力を受けるのも振るうのも私じゃないからどうでもいいけどね。」
そう言って香織は自宅へと入っていった。
帰宅した香織は自室のiPadのアプリを開き、そこに新しいファイルを作成した。
「人は結局、人を理解を理解することなどできない」そう名付けられたファイルは、まだ何も描かれていない純白のまま閉じられた。
読んでいただきありがとうございました!!
また近々更新します