第一話 終わりの始まり
「自分にとっては些細な事でも、相手にとては重要な事」をイメージして書いていきたいと思っている作品です。
週に2話ずつくらいのペースで更新していく予定ですので、読んで頂けると嬉しいです。
高校2年になったばかりの真島 真はどこにでもいる普通の高校生だ。部活に所属はしていないものの、友達がいないというわけではない。
親友と呼べる人間はいないが、そんな状況に心自身は嫌気など指していない。
なぜなら真にはある能力と、それを活用した楽しみがあるからだ。
去年の冬に手に入れたその能力とは、「3日に1度、他人と入れ替われる」である。
この能力のおかげで、心は他人の人生を楽しむ事ができるので、自分がクラスで目立つ様な存在では無い事など全く気にならなかった。
とはいえ、この能力にも制限はある。
その制限とは
3日に1度しか使えない。
1回につき最大で15時間まで入れ替われる。
異性である女性と入れ替わる事はできない
入れ替わりの対象者の生年月日と本名を知っている必要がある。
自分と同じ年齢の人としか入れ替われない。
そして、入れ替わりの対象は同じクラスの人間に限る。
同じ人間には3回までしか入れ替われない。
である。
そして入れ替わってる間、心自身の肉体は、周りに違和感を与えない様に自動で動く様になっている。もともと目立つ存在では無い自分は、入れ替わっていようと、そうで無かろうと気に掛ける人はいない。
悲しく聞こえるが、自分にとっては好都合な状況でしかない。
そして新しく始まる新学期。
この能力を手に入れて初めての新学期は、心にとって楽しみにしていたイベントの1つである。
去年、能力を手に入れてからは、能力の制限などを探るの時間だけで3学期が終わってしまい、
新学期初日、ワクワクからなのかいつもより早く目が覚めてしまった。
枕元に置いてあるスマホで時間を確認した。
「まだ起きるには早いけど、初日だし早めに行くか」
そう言うと時間を確認する為に持っていたスマホを持ったままリビングへと降りて行く。
リビングは既に活気があり、家族の中で1番の早起きな母は、父が朝食を食べる為に使ったのであろう食器を洗っていた。
父はテレビの前に立ち、ネクタイを締めながらニュース番組を観ていた。
「おはよう、今日はいつもより早いな。」と父が言った。
「おはよう、今日から新学期だし初日に遅刻はしたくないから」と俺はは適当な理由を付けて返した。
父とそんなやり取りをしてると、洗い物が終わった母も会話に入ってきた。
「おはよう! 可愛い子と一緒のクラスになれるといいわね」
と言うと、父に持たせるお弁当の準備に取り掛かった。
「おはよう母さん、彼女とか期待しないで」
と返し、真はリビングにあるソファに深々と座った。
そしてスマホでSNSを一通りチェックする。
と言っても友人が多い訳ではないので、主にチェックするのは自分がフォローしているスポーツ選手や女優、ユーチューバーの投稿である。
そんな中に、数少ない知り合いの投稿があった。
「今日から新学期! 新しいクラス楽しみ」といった内容のもので、既に、いいねが18ついていた。
「相変わらず人気物は違うねぇ」と思いつつ、出来上がっていた朝食を食べ始めた。
この人気者のことを真は全く知らないという訳ではない。
この投稿主は、同じ中学出身の佐々木駿。
イケメンでサッカー部出身で、ちょっとおバカな駿は中学の時から人気があり、その人気は高校生になった今も健在のようだった。
中学の時に接点があった訳ではないが、高校の入学式の時に同じ中学出身ということで話しかけられ、SNSを相互フォローした。
そうはしたものの、入学後の駿はあっといまに友人が増えたのがSNSの投稿内容からでもわかった。
そして能力を把握した今、佐々木駿は入れ替わりたい相手ランキングでも上位にいた。
「可愛い子はいなくていいから、佐々木と同じクラスになりたいな」
と考えていると、
母から
「何ぼーっとしてるの?早く洗い物したいから朝食食べちゃって」と指摘され、残っていた朝食をかき込み、登校する準備を始めた。
高校までは電車で通っている。最寄り駅までは自転車で向かい、そこから2駅電車に乗り、そこからは徒歩で向かう。
いつもの様に、駅前の駐輪所に自転車を置き、駅の改札に向かっていると、いつもより人が多いなと思った。
「新学期だからか」と思いつつ、改札へと向かった。
改札を入ると、そこでは軽い同窓会が開かれていた。
誰々の制服が似合ってるだの、高校は別だが同じ中学だった人たちが話していた。
そんな人達を鬱陶しく感じつつもどこか懐かしさを感じつつ、空いてるホームを目指して歩いた。
高校の校舎の玄関前には既に人集りができていた。
と言ってもその大半が新入生だったので、2年のクラス分けの紙が貼ってある掲示板はすんなりと見る事ができた。
自分の名前がD組の所にあるのを確認してから、教室へと向かった。
D組の教室の前まで来ると、教室から話声が聞こえた。
「朝練があった連中が、もお教室にいるのか」そう思った真は、自分とは関係無いと思いつつ教室に入った。
そこでは既に、数人がグループを作り楽しそうに話していた。
「おはよう真島!」急に自分に向けられた挨拶に真はドキッとした。
挨拶してきたのは佐々木駿だった。
「これで入れ替わる事ができる」と内心で思いつつも、その喜びを顔には出さずに真は挨拶を返す。
「お、おはよう。まさか一緒のクラスになるとは思わなかったよ」。
「俺も俺も!しっかり話すのも入学式の時以来だよね?これから一年よろしくな!」と笑顔で佐々木は言った。
「それ以来だね。よろしく」と真が返したところで会話は終わり、佐々木は先に話していたグループとの会話に戻り、真は黒板に貼ってあた座席表を確認してから自分の席へ着いた。
真にとっては嬉しい誤算だった。いつもより早く登校することで、自分より後に来るクラスメイトを観察しクラス内のカーストを把握。
そして入れ替わりのターゲットを決めるつもりだったが、そこに佐々木が現れたからだ。
入れ替わって何か悪いことをしたいといった考えは全くなく、純粋にイケメンの人気者がどんな生活を送っているのか気になっていたからだ。
自分の席に着き、スマホをいじりながら、佐々木の方をチラ見した。
佐々木を含め、男3人は楽しそうに話していた。
「男からも人気だな」と思いつつ、目線をスマホに戻した。
そうしてスマホをいじっている内にクラスメイトがどんどん教室に入ってきた。
新学期初日だからなのか、メイクに気合が入っている女子や、髪型がばっちり決まってる男子などがいた。
そして始業のチャイムがなり、先生が入ってきた。
担任の名前は小暮隆28歳の独身で担当科目は国語。
20代という事もあり、男女からの人気は割とある方で、去年授業を受けた時の記憶だとノリも良く、当たりの担任だと思う。
「よし!じゃあ今度はみんなの番!廊下側の席の先頭の人から自己紹介していこう」と自分の自己紹介が終わった担任が言った。
そして生徒側の自己紹介は始まり、佐々木の順番が来た。
「佐々木駿です。サッカー部に入ってます。一年間よろしくお願いします」と当たり障りない挨拶を済ませた。
そして、そんな佐々木を狙っているのだろうなと思える視線で佐々木を見つめていた女子が数人いた。
そう考えている内にも自己紹介は進んでいき、心の順番が来た。
「真島 真です。 部活には入っていません。よろしくお願いします」そういうと、先生が他の生徒の自己紹介の後に返してたのと同じように
「はい!一年間よろしくねー」と、ゆるーい感じで返してきた。
全員の自己紹介も終わり、次のイベントは席替えだった。
クラスには2人くらい可愛い女子がいたが、その子達よりも、佐々木と近い席になったら良いなと心は思っていた。
くじ引きの結果、真は窓際で後ろから2番目の席になった。佐々木も同じ窓際で心の2つ前の席だった。
「よろしくね、真島くん」と急に隣の席の女子に声をかけられ、真は驚きつつも、
「よろしく、進藤さんだよね?」と返した。
「そう!進藤 香織」と笑顔で返事してくれた彼女は、後ろの席の女子にも挨拶をし始めていた。
席替えが終わった後は、明日以降の予定につて担任から説明があり、午前中で学校が終わった。
そして放課後の教室は一気に賑やかになった。
「連絡先交換しようぜ!」、「この後、どっか寄っていこう」など、新しい出会いを喜ぶような会話があちらこちらでされていた。
そんな人たちを横目に、帰り支度をしていた真。
「せっかく席が隣になったんだし、私たちも連絡先交換しとこうよ」と進藤が言って来た。
「いいよ」とだけ心は返し、スマホをズボンのポケットから取り出した。
「俺もいい??」と佐々木が割って入ってきた。
「えっ、、」と驚きの声を上げてしまった真。
「あ、、嫌だった?」と少し申し訳なさそうな表情で佐々木が言ったが、
単に驚いただけで、交換するのが嫌だということではなかった。連絡取ろうと思えば、SNSのDMで連絡取れるがなぜだろう??と思いはしたものの
「いや、驚いただけ。」と真は言った。
そうして佐々木とも連絡先を交換し、ちゃっかり進藤も佐々木と連絡先を交換していた。
「今日、部活あるの?」会話のチャンスだと思った真は自分から話を振った。
「今日は朝練だけで、午後は休み。せっかく帰る方向同じなんだし、一緒に帰ろうぜ」と佐々木は言った。
「俺と??朝、教室で一緒に話してた人達と帰らないの?」と真は疑問に思っていた事を聞いた。
「部活が一緒なだけで、クラス違うし初日の今日は新しいクラスの人たちと帰るって事になったんだよね」と佐々木は教えてくれた。
なんで俺と帰りたいんだろうか?共通点は同じ中学出身ってことだけだし と真は思いつつも、少しでも情報を集める為に一緒に帰る事を承諾した。
佐々木と一緒に歩いとすぐに彼の人望の厚さを実感した。
教室から下駄箱に向かう数分の間に、サッカー部の人だけでなく、去年同じクラスだった人達に声をかけられて挨拶を交わしていた。
「中学の時と変わらず、人気者だな」真はそれとなく尋ねた。
「俺は八方美人なだけで、人に恵まれてるだけだよ」と少し自虐的だが、佐々木は笑顔で言って来た。
「なるほどね」とだけ返し、2人は下駄箱をあとにした。
学校から駅までは一本道で、学校の正門を出たらひたすら真っ直ぐ歩くだけだ。
「中学一緒だったのに、しっかり話すの入学式以来だよな」と佐々木が話を切り出した。
「確かに。そもそも中学の時ですらしっかり話た事ないし、住んでる世界が違うと思っていたよ」と思っていた事をそのまま真は佐々木に伝えた。
好かれていようと、嫌われていようと入れ替わりに影響はないからだ。
「確かに。住む世界が違うとは思わないけど、話すきっかけもなかったし」と佐々木は言った。
それから少し中学時代の話をしてる内に、駅へと着いた。
そこから2駅電車で移動してる間も会話はしたが、内容は他愛もないものだった。今読んでる漫画や、よく見ているユーチューバーの話をした。
最寄りに着き、改札を出たところで
「俺、あっち側だから。また学校でな」と佐々木は言って心とは違う方向へと歩いていった。
「またね」と言って真は駐輪場へと向かった。
自転車に乗り、家に向かってる間にも真は佐々木に入れ替わる為の作戦を考えていた。
平日、休日のどっちに入れ替わるかも大切だし、友人関係をある程度把握していないと入れ替わりを最大限楽しむ事ができない。
この能力は使い方次第で恐ろしい事になるのは容易に想像できた。
相手の人生を壊したいだけなら、入れ替わってる時に犯罪を犯せばいいからである。
しかし、今回の目的は「イケメンの人生を体験してみた」だけである。
なので相手の人間関係を知れば知るほど、入れ替わった時の楽しさの幅が広がるのは間違いないし、可愛い子と遊びに行けるかもしれない。
そう考えると明日からの学校も楽しくなりそうだと思い、自然と自転車のスピードも上がっていった。
「ただいまー」そう言って自宅の玄関を開けた真は明日が待ち切れなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話から入れ替わりが始まり、話が大きく展開していくのでそちらも読んで頂けると嬉しいです。
賛否どちらでも感想、評価を頂けると嬉しいのでお待ちしております