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亀毛兎角の異能力  作者: クロスケ
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序章『弍』

やはり間違いではなかった。考えすぎなどではなかった。


あの時気になったのはある意味未来予知のようなものだったのだ。


自分達に危機が迫っているというサインだったのだ。


なぜ察知できたかなんて今はどうでもいい。


ただ今の状況をどうにかしないと…


周りを見渡すと店の中には誰もいない。椅子(いす)植木鉢(うえきばち)などが所々で倒れたり、商品などが転がっていたりしている。


出入り口にはまだ大勢の人が留まり未だ混雑している。


今日という日に限って人が多いものだから全く出られない。


そしてその問題を引き起こした首謀者(しゅぼうしゃ)達はというと…様子を伺っている。


玠翔は男達を観察し、あることに気づく。


先頭に立つ男が片手に拳銃を持っているのだ。(つつ)からはまだ微かに煙が出ている。


父を撃ったのはあいつだ…


そう理解した途端(とたん)、銃に対する怯え、恐れよりも、父を撃ったという事実に対する怒りが玠翔の心を埋め尽くした。


しかし身体が思うように動かない。頭は怒りでいっぱいとはいえ、身体は恐怖で震えている。本能的なものだろうか?


やはり恐ろしく怖いのだ。


それでも何か言ってやりたくて勇気を出す。


「な……」


「あなたたち!うちの夫に何してるの!!」


発言したのは玠翔ではなく母だった。いつもの柔らかで優しい声ではない。こんな声初めてだ。


すごく強い口調(くちょう)


でも俺は分かっていた。


母の手がものすごく震えていることを…


それが怒りからのものなのか、恐怖からのものなのかは分からない。もしかしたらその両方かもしれない。


しかし家族を傷つけられたことに対する怒りと家族を守ろうとするその勇気は本物だ。


怖くても、立ち向かえる。とても我が母ながら頼もしかった。かっこよかった。


でも男達はその質問に答えてはくれなかった。ただずっとこちらを見ているだけ…。


しばらくして警備員の人達が駆けつけて来る。それももちろん一人ではない。数十人単位。なんならこのモールの警備員全員、全てを集めてきたのではないだろうか。


誰もが捕まえてくれると期待した。一部の者は安心さえした。しかし俺は違った。


行ってはダメだ。あれはそんな半端な者じゃ無理だ。


相手は確実に手練れだ。そこら辺の素人が暴走したのとはわけが違う。


乱れのない表情、呼吸、態度。逆に来ることを待ち望んでいたみたいに。


するとその悪い予感は的中。突然、男達がフードの中から銃を取り出した。


どの銃も本物だ。モデルガンなどではない。確実に殺す気だ。


先頭の者が合図し仲間達は全方位を狙うように円になって銃を構える。


そこからの時間はただ酷く惨いものだった。


男達は躊躇(ちゅうちょ)なく撃ちだし、警備員だけでなく周りの人達にまで被害が及ぶ。




人の悲鳴と銃声が重なり合う。酷く嫌な音だ。


俺はしゃがんで、頭と耳を手で塞ぎ守っている。母は俺と父を守るように(おお)い被さる。


その時間はものの数分の出来事なのに、ものすごく長く感じる。


しかも銃声は聞こえるのに全く銃弾が当たるどころか掠りもしない。


わざとだろうか?奇跡だろうか?


しばらくして鳴り止み、その頃には人の悲鳴もなくなっていた。


見なくても分かる。悲惨なことになっているのは


それでも俺は見ようとして、顔を上げた時だった。


先頭にいた男がすぐ前に立っている。


その時俺は思った。


これは前者だったと…


男は何も言わなかったが俺らに向かって舌打ちをした。


そしてすぐさま銃を向け……


男は一発だけでは飽き足らず、二発、三発、四発と弾のある限り放った。


「チッ!なんでこいつらだけ擦りもしてねぇんだ」


「…まぁいい。これで仕留めただろう。ったく、手間取らせやがって!」


男はそう言って悪態(あくたい)をつき、振り返って戻る…いや戻ろうとした。だが彼の足は止められた。


「ねぇ、パパ?ママ?」


もう一度振り返るとそこには…倒れた男と女…そしてそれを揺すっている餓鬼(がき)が一人いた。


(意味がわからない。俺は確実に撃ったぞ!たしかに男と女が餓鬼を庇うのは見えた。だから俺は全弾をくれてやったんだ!ちょっと体を張って庇ったくらいで防げるものじゃない!何よりこの餓鬼、無傷じゃねぇか!)


男の怒りが頂点にまで達する。


なぜ玠翔だけは無傷なのか。それは自分にもわからなかった。


ただ今は親のことしか視野(しや)になかった。


「ねぇ、起きてよ、家に帰ろう、ここは危ないよ」


返事はない。今日二度目だ。現実を受け止められない。


こんなのよく見なくてもわかる。


何度も呼びかける。涙を流して、それでも絶対生きていると信じて(こら)えて…


血で濡れた手で体を()する。


「ねぇ、起きて」


「ねぇ………………」


「……………………………」


「……………………………………………」


結局認めるしかなかった。受け入れるしかなかった。


…死んでしまったんだ。どちらも


その瞬間、玠翔の心は砕けた。何も聞こえない。何も見えない。何も…したくない。


「おい、餓鬼。てめぇ何をしやがった。なんで当たらねぇ」


男の問いも今の玠翔には届かない。


俯いたままで喋りも泣きもしない。


男からすれば気味が悪かった。まだ小さい餓鬼のくせに泣き叫ぶこともなければ、怒ることもない。


もう俺と男達以外に生存者はいない。何十人という死体が転がっている。店は荒らされガラスなどの類もほとんど粉砕している。


(あとはこの餓鬼だけなんだ。餓鬼一人殺すなんて簡単だ)


マガジンを入れ替え、セットする。


そして次は外さないように狙いを定めて構える。


狙うは頭、一発で終わらせる。


引き金に手をかけ、ゆっくり押していく。


そして放ち、放たれた銃弾は玠翔の頭にい……かなかった。


「は!?」


男は見た。銃弾が当たる寸前(すんぜん)、瞬きのうちに消えていくところを


もう一度撃とうとするが、あの不可思議(ふかしぎ)不気味(ぶきみ)な現象に恐怖を覚えてなかなか撃てない。


手も震えている。


(本当になんなんだ。この餓鬼。普通じゃねぇ、というかまともじゃねぇ)


男はさすがにやばいと思い、仲間に指示してその場から逃げ出した。




こんなことは起こりえないと思っていた。これで終わりなんて受け入れたくなかった。


いつもの毎日と変わらない楽しい日々の中の一日。それくらいのものだと思っていた。


でも本当のことをいうと俺はこの状況を知っている。見たことがある。似たような状況などではなく全く同じの…


……夢だ。正夢(まさゆめ)


あまりにリアルで、夢にしては起きても、覚えたまま記憶に残っていて、でもあり得ないと思って気にしないようにしてて…と思っていたら本当に…


(ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい)


自分が行動出来なかったこと。自分が発言しなかったこと。自分が何もしなかったこと。それぞれに対する謝罪(しゃざい)


悲しさからだんだん自虐(じぎゃく)していく。もう感情がごちゃごちゃして整理できない。


(僕謝ったよ。反省もした。だから戻って来てよ!どうして置いて行っちゃうの?なんで僕だけ……)


自分の頭の中で親がどんどん離れていく。追いかけても追いかけても追いつけない。


気がつけば暗闇(くらやみ)の中。何もない。何も聞こえない。


すると脳裏(のうり)に数分前の情景(じょうけい)が浮かぶ。


(そうだ!あの時……あの時だ!殺されたんだ!パパやママが…でも誰に?)


ふと前を見る。そこには出口に向かって走る男達。


(……あいつだ!僕の家族を殺したのは!!)


混沌としていた感情が憎悪(ぞうお)、殺意によって支配されていく。


その瞬間、何かが喪失(そうしつ)したようなそれでいて何か解放されたような感覚がした。


あたり一帯、異様(いよう)な空気に包まれる。


あいつらが憎い。家族を殺したあいつらが…


(憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い)


決して正気(しょうき)とは呼べる状態ではなかった。


6歳の子供が抱えるほどのものではない。


もう人でありながら人ではない何か。化物(ばけもの)に近しいかもしれない。


玠翔はその場からゆっくり立ち上がり一言だけ発した。


「………………………殺す」


誰にも聞こえないほど小さな声だったが、たとえ誰が聞いたとしても冗談(じょうだん)とは思えないほど鋭く、殺意に満ちた言葉だった。


「リーダー、一人まだ子供が残っていますが、良いのですか?」


「良い、あいつは何か不気味で悪寒(おかん)すらさせた。この俺にだ。あと、もうそろそろ、厄介者(やっかいもの)共も来そうだしな。今のうちに逃げて置い…た……ほう…が……」


男は感じた。背後にある殺意に。


振り向いただけで殺られる。でもそのまま逃げても結果は変わらない気がする。


冷汗が止まらない。静寂(せいじゃく)と化したこの空間が今更になって怖くなる。


「リーダー?急に足を止めてどうかしましたか?」


他は全く理解していないようだ。


「一度しか言わん。よく聞け」


振り返りもせず、小声で張り詰めた声に緊張する。


「俺らは今、危ない状況にある。厄介者じゃねぇ。もっと恐ろしいものだ。それがなんなのか知らんが危険だってことは確かだ。根拠(こんきょ)はねぇがな。わかるんだよ。だからお前ら、俺が合図(あいず)したら散ってその何かを銃で殺せ」


「……?意味がわかりません!危ないとは何が危ないのですか?なぜ危ないのですか?そのまま逃げればいい話では!?」


「うるせぇ!!ごちゃごちゃ言うな!!出口を見やがれ!それで全て分かる」


見ると出口は…閉まっていた。


先程まで開いていた扉が音もなく閉まっているのだ。


こんなの霊の類でもなければ出来るはずがない。


男達の顔が一瞬にして青ざめる。


「分かったか。だから指示に従え、俺らはもう退路(たいろ)(ふさ)がれている。もう逃げ場などない。そして勝ち目もあるか怪しい。そんなの警戒するなってほうが無理だろうが」


男達は納得したのか無言で頷き、より一層の警戒をする。


「よし、俺が後ろの様子を見るからそれまで待機」


「「了解」」


死ぬことを覚悟に、リーダーは後ろを振り返った。


予想としては子供が一人、他は誰もいないはず…。


するとそこには…誰もいなかった。


(おかしい…あの餓鬼がいない!どこ行った!?)


そしてやっとこの違和感、不気味さの正体を理解した。


やはり、あの餓鬼が…


「全員!この場から散れー!!」


パァァァン!!


全員、転がるようにこの場から離れ近くの支柱(しちゅう)や壁に隠れる。


身を隠し警戒態勢を取るが何も気配はしない。


やはり気のせいか?


そう思い、移動しようとしたその時だった。


元いたところに三人血を流して倒れている。


しかも頭、心臓、首、見事に急所を狙われている。


駆け寄りたいが、そのすぐ隣に犯人らしき影があるから迂闊(うかつ)に出れない。


先に始末しようと銃を構えて飛び出たが、撃つことは出来なかった。


なぜなら…そこにいたのは…あの餓鬼(玠翔)だったからだ。











今回も読んでくださりありがとうございます!

今回は重い場面が多く、展開もそこまで進まなかったと思います。(すみません)

まだ前置きの時点ではありますが本編と関わってきますので、楽しんでいただけると幸いです。

(もう2話ほどかかります)

次話も見てくれると嬉しいです。

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