ざっくりお菓子、少女流
ありがた迷惑。
ありますよね。
親切にしてくれてありがたいんだけど…………ありがたいんだけどぉっ!!
なんて、確かにありがたいけど、モヤモヤしてしまう余計な手助け。 余計な善意。
「むふふふ。 偶然いい場所を借りられたし、今日はケーキを焼いてみましょうか♪」
ここは個人向けレンタルキッチン。
良い設備を備えた上で広さもそこそこに有り、数が20人未満のホームパーティーなら楽々開けそうな、豪華な場所。
…………正確にはレンタル撮影スタジオ兼用なのだが、この際見なかった事とする。
なお、撮影目的で借りる奴らは主に、イメージビデオや年齢制限が課される類いのビデオ撮影を目的としている。
形ばかりのキッチンではなく、実際に使えないと盛り上がらないからと皆口を揃えるが、それは公にならず消えて行く。
このキッチンだからケーキを作るなんて言ったが、実際はオーブン付きならどんなレンタルキッチンを借りたとしても、ケーキを作るつもりでいたのはここに記しておく。
そんなレンタルキッチンでエプロンやバンダナを身に付けた一人の少女が楽しげに、作業を始めた。
「まずは必要な物が揃っているかの確認!」
独り言だと言うのにヒトと喋るような大きさの声で、物を一つ一つ指差し確認して行く。
しっかり補足しておくが、彼女はボッチではない。
お菓子を作るときは、誰にも邪魔されない環境で作りたいだけなのだ。
彼女は誰かが居る時にお菓子作りをしようとすると、必ずその誰かが器具を取り上げたり、作業を全て乗っ取って作り上げたりされるので、こうしてこっそり楽しむしか無いのだ。
本当は友達や家族達とワイワイ楽しく菓子作りをしたいけど、それがなぜか叶わないだけなのだ。
「――――ヨシっ! 忘れ物はなし!」
無いようだ。
確認が済みしだい、手早く物の位置を調整して行く。
すぐ使うものは手前に。
次に使うものや使う頻度が高いもの。
そうやって台所の上を仕分けする姿はとても手慣れていて、彼女がどれだけ同じ作業をしてきたかが窺える。
彼女が取り出したのは、牛乳とバター。
「経験を沢山積んできた私には計りなんていらん! こんなのは目分量で問題ないっ」
目の前におかれたボウルめがけて、ボタッだばーーーっと勢い良く放り込まれる、牛乳とバター。
これが……これこそが彼女流。
初心者の頃から続けているスタイル。
誰に何を言われようとも、一切変えないこの流儀。
「テキトーにやっても出来ちゃうんだから、私ってば天才だよねぇ♪」
何かを言いながら湯煎もせず、常温でテキトーに溶かす姿は、お菓子作りを仕事とする者には目を剥いて驚かれる。
そしてその驚きを、技量の高さだと受け止める彼女。
彼女は所謂無敵だ。
次の場面。
「ハンドミキサーって凄いよねぇ。 泡立て器でガシャガシャやるより早いし、上手に出来るし~♪」
グラニュー糖なり卵なりをテキトーにぶっこみ、テキトーにハンドミキサーでブオーンする。
これが……これこそが彼女流。
初心者の頃から続けているスタイル。
誰に何を言われようとも、一切変えないこの流儀。
「おっ? なんかいい感じ。 そろそろ良いよねぇ」
ハンドミキサーを止め、それを持ち上げた時についてくる液体は、とてもネバァっとしていた。
「これに薄力粉だね。 よし、ばさーーっ♪ そして気合いを入れてグールグル!!」
分量は計らない。 篩にもかけない。
彼女がお菓子作りをする時は、いつもこうだ。
そして、それで出来てしまうから周りの者はみな首を傾げる。
これが……これこそが彼女流。
初心者の頃から続けているスタイル。
誰に何を言われようとも、一切変えないこの流儀。
「そこにまた、バターと牛乳っ! どばーーーー♪」
次の場面
「よしっ、良く焼けてる♪」
オーブンから取り出した物は、先ほど作っていた生地を型に入れて焼いたもの。
もちろん、あらかじめオーブンを温めず、テキトーに焼き時間を設定した。
これが……これこそが彼女流。
初心者の頃から続けているスタイル。
誰に何を言われようとも、一切変えないこの流儀。
型から取り出したものは、焼くことにより水分が抜け、とても良く焼けたスポンジ。
しっかり焼き目が付き、指でつついてもビクともしない、ガッチリとしたスポンジ。
「中にクリームを挟めるように、上下で切り分けないとねっ」
楽しそうに切り分ける彼女の姿はまるで、日曜大工を楽しむDIY好きお父さんの如く。
現にパン切りナイフを振るう彼女の向こう側から、ふ菓子を食べる様な音がしている。
……もしかしたら本当に、ふ菓子を食べているのかもしれない。
いくら調理器具の手助けがあるとは言え、お菓子作りは中々に体力が要る。
ふ菓子をかじりながら作業をしていても、おかしい事ではないだろう。
「あとは……生クリームやフルーツだね。 よしまだまだ頑張るぞっ!」
次の場面。
「…………よぉし。 クリームもフルーツもキレイに飾り付けられた。 これで完成っ!」
諸手を挙げて喜ぶ姿はとても可愛らしい少女である。
かけたエプロンに、クリームやらスポンジのカスやらがチラホラと付いているが、それが愛嬌に見えてしまう位に。
もちろんそのケーキの外見はとても良い。
キレイに飾り付けられて、まるで店で売られていてもおかしくない程に。
「バンザーイ! …………なんだけど、これで終わりじゃあなんか寂しいんだよねぇ」
デコレーションケーキを前にして一度喜んだものの、彼女はまだ物足りない様子。
いかにも悩んでますポーズのまま1分程だろうか? 「うむむ」と唸っていた彼女の声が止まる。
「そうだっ! 焼いたチーズケーキって有るんだから、ベイクドデコレーションケーキにしてみよう!」
その場のノリで、なんとなくで、やってみたくなったからやってみる。
これも……これこそが彼女流。
初心者の頃から続けているスタイル。
誰に何を言われようとも、一切変えないこの流儀。
「おほっ♪ 焼けてる焼けてるぅ♪」
再び入れたオーブンから、姿を現したのはベイクドデコレーションケーキ。
塗ったクリームは焼けてキャラメル色となり固まって、フルーツはフルーツでこんがり焼けた。
「香りも良い♪ こいつは傑作の予感っ! お母さん達や友達にも分けてあげよう。 きっと喜ぶぞー!!」
完成したベイクドなんちゃら。
本人はそう喜んでいるが、端から見れば真っ黒焦げ。
スポンジも真っ黒で厚焼きせんべいみたいな堅さで、せっかく問題なく出来た生クリームは2度目のオーブンで焼けて別物に。
フルーツだって焼きすぎフルーツと成り果てて、美味しいとは到底思えない。
でも、周りはそれを口に出来ない。
とても楽しそうに調理をするし、他人が喜ぶ姿を期待するその顔はとても可愛らしくて、それを壊すなんて良心が絶対に許さない。
彼女自身は純粋に、善意と好意と厚意しか存在しない行為を、しているに過ぎない。
さらに、時折本当に上手くできて美味しいお菓子が出てくる事もあるから、始末におえない。
これが……これこそが彼女流。
初心者の頃から続けているスタイル。
誰に何を言われようとも、一切変えないこの流儀。
これが……これこそが○○
とか言うのを繰り返すネタを書きたくなったので、そんなシチュエーションを用意するためにこんなヒデー文章となりました。
俺が……俺達が でも良かったんですけど、まあ気分的に(目逸らし&小声)
~~~~~~
本人換算で、成功率は100%
他人の認識で、成功率は15%
なんか上手く出来なかったものを、あげるなんて申し訳ない。
そんな顔をして差し出してくる物こそ大当たりであるため、受けとる側はどんな表情をすれば良いのか困るらしい。
なお、生地作りの薄力粉ばさーな辺りで“出来てしまう”と言ったのは、分量ミスだったり生地が膨らまなかったり、半生になったりする失敗が無い、と言う意味です。
優しさは嬉しい。 しかも本当に可愛い子ではある。
いかにもで、家庭的な面もある元気系ヒロイン。
ただし料理や菓子作りのセンスはゴーイングマイウェイ。
こんなキャラは………………どっかで見たような、見なかったような(悩)