精霊の加護のおかげです
4人で昼食をとって後、村はずれの森に向かった。
お父さん達はまず森の入り口辺りを調べていた。
「何してるの?」と僕の護衛のため、近くで作業を行っていたレイさんに話かけてみたところ、魔物の痕跡がないかを調べているのだという。
踏み荒らされた草花や木の幹の損傷、魔物の死体などから周囲の危険の判断を行うそうだ。
基本的には森を探索しながら行う。ただ、入り口に関しては村の近くにあたる。ということで念入りに調査を行うよう、村長から頼まれているらしい。
また、薬草などの採取も兼ねているという。「イスト君も、何かあったら教えてね?」と言われたので早速僕にできることをやっていこう。
『じゃあイストちゃん。今回は範囲を絞った探知を練習しましょう。』
「範囲を絞る?」
『そう。今までのように周囲全体に広げるんじゃなくて、自分の前だけを確認する感じで行きましょう。今は後ろに脅威はないことだしね。その方が後ろに回す分だけの魔力を節約することができるの。慣れない扱いだから……そうね。今からお姉ちゃんが行く範囲までにしましょう』
そういって、ミラねぇは30メートルほど先にある少し開けた場所の中央まで飛んで行った。
ミラねぇが中央に立ってこちらに手を振るのを合図に、僕は魔力を練り上げていく。
前だけ……今まで全方位で放っていた魔力を、僕を境に半円を描くように展開させる。
検知できるのは、僕が魔力を使い始めたのを確認してこっちに戻ってくるミラねぇ。少し離れたところ、それでも僕を視界から離さない程度のところで調査を行っているレイさん。少し奥に行ったところで調査を行っているお父さんとダンさん。あとは……知らない反応が2つ。ミラねぇが飛んでった広場の手前にある。
『うん。しっかり後方は切れてるね。それで、どうだった?』
「知らない反応が二つ。結構大きい人……とは違うな。何かがいる」
『じゃあ教えてあげなくちゃね』
「レイさん。ちょっと…」レイさんに向かってあそこに何かがいる。と声をかけた。
レイは眉間にしわを寄せ目を凝らすように僕の指した地点を見つめていただが、ハッとした表情をしたあと僕を連れお父さんのところに向かった。
「ゲルトさんここから2時方向、25メートル程の地点。ゴブリンが2匹います」
「ゴブリン?向こうには見つかったのか?」
「いえ、捕捉される前にイスト君が見つけてくれました。討伐に向かっても?」
「イストが?討伐は……そうだな、ここは俺達が行こう。ダン!」
お父さんが背負っていた大剣を抜き駆け出しながらダンさんに声をかける。話は聞こえていたのかダンさんは既に駆け出していた。
慌ててレイさんと後を追い、お父さんの元についたころにはお父さん達の足元に2匹の魔物が転がっていた。
「どうだイスト。お父さん、カッコよかったろ?」
これがゴブリン。人型で、緑色の肌に少し長い耳をした魔物だったが既に息はないようだった。
1匹は首を刎ねられており、もう1匹は上半身と下半身が真っ二つに分かれている。
お父さんは剣を肩に担ぎニッと笑って見せたが、探知ができただけで肉眼で見たわけではないので、お父さんの雄姿を見ることは叶わなかった。ごめんね?お父さん
「急に駆け出して行って一瞬だったもん。遠くだったし全く見えなかったよ」
「そ、そうか。ゴブリンを見つけたっていうから、てっきりイストは目がいいもんだと思っていたのだが」
お父さんはちょっとしょんぼりとしていた。ごめんって。次はちゃんと見えるようにするから。
「それにしてもホントにゴブリンがいるとはねぇ。先輩、ここらじゃゴブリンをこんな入り口で見るのはよくあることなんですか?」
「ここ最近はなかったな。元々あった巣は昔この村に来た時に潰したんだが、まだ生き残りがいたようだな」
「なるほど。じゃあ今回オレたちが受けた依頼もそれ繋がりかもしれないっすね」
ダンとレイは森の魔物が騒がしくなっている原因の調査。という依頼を受けてこの町に来たそうだ。二人としても依頼のついでに僕の顔を見に来ようという意図もあったらしい。
「もしかしたら新しい巣ができ始めているのかもしれんな。少し奥を見ておきたい」
「イスト君がいるんですから。深追いは厳禁ですよ。」
ゴブリンを討伐した後、少し森の奥へと足を踏み入れた場所にある泉で休憩をとっていた。
森の中に入ってからは探知魔法を全方位で展開していた。
移動と並行して行うため、探知の範囲は絞り周囲40メートルほどの探知を行い、見つけた魔物は報告をしてお父さん達に倒してもらった。
ここまでの道中で、ゴブリンを5匹、ハウンドという狼のような魔物を4匹、ツリーバードという木の蔓で出来た鳥のような魔物を3匹討伐した。ゴブリンやハウンドは主にお父さんとダンさんで。ツリーバードはレイさんが弓で仕留めていた。
「短時間でずいぶん大量だなこりゃ。こんなに狩れるんだったら昨日先輩に挨拶に行った後に軽く潜っとけばよかったですよ」
「そうね。でも私たちだけで森に来て、こんなに成果を上げられるとは到底思えないわ。特にツリーバードなんてイスト君が見つけなければ分かりすらしなかったわ」
今日討伐した魔物の剥ぎ取りを行いながら、ダンさんとミラさんが溢した。
「確かに。イストの目がいいという訳でもないだろうし、どうやって見つけだしているんだか」
眠っているの僕の方を見ながらお父さんはつぶやく。
はダンさんのはぎ取ったハウンドの毛皮に横たわって眠っていた。泉の水で洗ったので血生臭さは特になく、撥水性もいいようでフカフカの毛皮はとても気持ち良かった。
ミラねぇはお父さん達に見えない絶妙な角度で、僕に膝枕をしながら頭を撫でてくれていた。
ミラねぇが僕に触れることができるようになってからは、寝るときには必ずこうして膝枕をしてくれている。
「これもイス坊の受けた精霊の加護ってやつなんですかね?」
「加護を受けた人が知り合いにいるわけじゃないけど、幼い頃からこんなことができるようになるものなのかしらね?」
「さてな。イストが話していたという妖精、イストはミラって言ってたかな。妖精がいてくれるのは幼少期だけという話だったが、ミラ様には長く、イストを見守っていて欲しいものだ。」
『ミラ様だなんて。私だってお父さんの娘みたいなもんよ!誇って誇って!』とミラは膨れて見せる。がその姿はゲルト達3人には見えてはいない。
「さて、そろそろ帰るとするか」
とイストを背負いゲルトが告げる。「ありゃ、もう少し見て回らないんですか?」とダンは訪ねる。
「この泉のまでの道中に巣がないのであれば、村に被害が及ぶ可能性は低いだろう。それに、これ以上探索を行うと日が暮れる。イストを遅くまで連れまわしたらマーサに怒られるじゃないか」
「あぁ……そうね。確かにマーサさんを怒らせるのは怖いわ……」
「うえっ、もうあの依頼達は受けたくない……」
後輩であるダンとレイはゲルトのパーティの一員として、一緒に行動していた時期もあった。
一緒に行動していた時期には既にギルド職員であったマーサとは恋仲だったそうだが、二人が喧嘩をしている時、ゲルトのパーティが受けることのできる依頼は、自分たちが生きて帰れるか帰れないかギリギリの危険な依頼のみになっていた。
勿論危険な依頼なだけあって、報酬も随分なものだったが、大抵の場合仲直りのためのプレゼント費用に充てられることになった。
二人の所属していたギルドでは「ギルドの受付を怒らせるな。死にたくなければな」という暗黙の了解が冒険者の間では徹底されることになっていたそうだ。