まずは危険を察知するところから
『はいっ、イストちゃん。探知結果報告!』
「ええっ…と。お父さんが庭。お母さんが台所。あとは、家に向かってくる人が二人…かな?知ってる反応だとは思う」
『了解!お姉ちゃん範囲確認に行ってきます!』
「はい、いってらっしゃい……ふぅ」
窓をすり抜けふわふわ飛ぶようにミラねぇは出て行った。
僕は周囲に巡らせた魔力を落ち着かせ一息つく。
ミラねぇの事を色々知ってから1ヶ月が経った。
あの日からミラねぇには魔法の指導をして貰っている。弟の栄えある成長第一歩だそうだ。
今教えて貰っているのが探知魔法。ミラねぇ曰く生き抜く為の三大初歩魔法その一だそうだ。
探知魔法は自分の魔力を周囲に張り巡らせ、その魔力に触れた存在を感知する魔法である。魔力を薄く、広広範囲に展開させる必要があるため魔力を扱う為の基礎として、ミラねぇの時代では魔法を使い始める者が一番最初に覚える魔法らしい。『回りの危険が分からなければ、いつどんな奴が襲ってくるかわかったもんじゃないわ。』とミラねぇは言っていたがミラねぇの生きていた時代はどんな時代だったんだろう。
毎日欠かさずに魔力を流す感覚を養うことが成長に繋がるということで毎朝家で探知を行うことが魔法を使うようになってからの日課になっていた。
その結果、初めは自分の部屋の中しか探知出来なかったが今は半径50メートルくらいは見ることが出来るようになった。
魔法を使うようになってミラねぇにも変化があった。
まずはミラねぇが僕に触れることが出来るようになった。
探知魔法を使い始めて10日くらい経ち、家全体が探知できた時ミラねぇが僕の頭を撫でて誉めてくれた。
今までは形だけで実際の感触は無かったのだが、その時はミラねぇの手の温もりを感じることができた。
ミラねぇも目を見開いて驚いており、その後目を光らせて抱きつかれ文字通りもみくちゃにされてしまった。
次にミラねぇの行動範囲が広がった。
行動範囲は僕の探知魔法の範囲らしく、今もその範囲が広がっているのかを確認にしに行っている。
夜にお父さんお母さんの様子を見に行こうと日々悪戦苦闘していたミラねぇが、探知魔法の練習を重ねるうちに出来てしまったのがきっかけだったが、戻って来たミラねぇの顔は真っ赤で何があったのかは教えてくれなかった。
戻ってきてからミラねぇは『次は妹がいいかしらぁぁぁ』と頬に手を当ててくねくねしていた。
それらの事については僕とミラねぇの魂が魔力を通じて反応しているのではないかとミラねぇは考えている。
僕の魔力量が増えていくにつれて他のこともできるようになるかもしれないとのことで、せっかくミラねぇも生まれたのであれば色々なことをして欲しいので、魔法の練習はしっかりやろうと心に決めた。
『ただいまー』
「おかえりミラねぇ。どうだった?」
『また少し範囲が伸びてたよ。あと家に向かってる二人はダンさんとレイさんだったから魔力反応そろそろ覚えないとね』
「反応を馴染ませるのって難しいね……もう一回探知して覚えさせるよ」
『今まで探知してきたのはお父さんお母さんだけだもんね。これから色々なものを見てその違いを探知することができれば一度見ただけで覚えられるようになるよ。』
「うん。頑張ってみるよ…っとダンさんが来たってことは父さんに用事かな?僕たちも行こう」
部屋を出てお父さんのいる庭に行くと、家に向かっていた二人もいた。
「お父さんおはよう。ダンさんとレイさんも」
「おうイス坊。ちゃんと早起きしてるんだな。関心関心」
細身だが引き締まった体つきをした男性が言う。腰には腕の長さほどの剣を携えていた。
「ダン。イスト君をあなたと一緒にしないで頂戴。おはようイスト君」
背に弓を背負った女性が、ダンを横目でにらんだあと僕に向かって微笑みかけた。
二人はお父さんの後輩にあたる冒険者だそうで、僕が生まれてからもたまに顔を出していた
「おはようイスト。ちょうど良かった。母さんにこれから森に行ってくるって伝えておいてくれるか?」
「森に?お父さんも行くの?」
「ああ。久し振りに2人にもあったんだし、父さんも少しは身体を動かしておかないとな。」
今では冒険者ギルドの職員であったお母さんと結婚して半分引退のような形になっているが、お父さんも昔は名のある冒険者だったらしい。
それにしても森に行くのか。探知魔法の練習にもなるし、僕も行ってみたいな。
『確かに、いい練習になると思う。連れてって貰いましょう!』
ミラねぇの賛成も得られた。よし。
「僕もついてっちゃダメかな?」
「森にか?ダメだ。危険すぎる」
やっぱりダメか。でもここで諦めるわけにはいかない。
「三人と一緒なら平気だよ!邪魔はしないから!お願い!」
「確かに今日は浅いところだけだし、オレたちと一緒なら大丈夫そうですけど…………」
「イストはまだ5歳だぞ?流石に連れて行くわけには…………」
ダンさんは少し乗ってくれたようだが、お父さんは渋い顔をしていた。
どうしようかと、思っていたらミラねぇが『こういってみて』と僕に耳打ちしてきた。ホントにそれでいけるの?
「それに僕、自慢のお父さんのカッコイイところ見たいんだ!お願い!」
お父さんの目を真っ直ぐにみつめ、眼差しに持てる限りの尊敬を込めて言ってみた。
ミラねぇに言われた言ったことではあるが一応本心でもある。
庭で剣を振る姿はカッコイイし、それを振るう姿は見てみたくもある。
「なっ…………よし!お前ら!死んでもイストを守れよ!俺についてこい!」
お父さんは大きく目を見開いて驚いた後、後ろの二人に振り返って叫んだ。
おぉ……いけてしまった。
「任せてください先輩!イス坊はオレが守ってみせますよ!」
「はぁ…ゲルトさん……立派な親バカになってしまったんですね……でもマーサさんに許可はとってくださいよ?」
ダンさんは胸を叩いて自信げに、レイは半目になり溜息を吐きながら答えた。
お父さんと森に行くことのお母さんへの説明は僕が行った。
お母さんは「ホント、あの人は……」と言いながら、奥まではいかないこと。ちゃんと3人のいうことを守ること。いざとなったらお父さんだけ見捨てて帰ってくることを言いつけて許してはくれた。
お父さんだけ見捨ててって……お父さん。頑張れ!