猫
気がつくとぼくは、温かい窓辺のソファーにいた。遠くでママさんがあっちにいったりこっちにいったり忙しそうにしている。
相変わらず忙しないですねぇぼくは大きなあくびをして、また眠ることにした。
窓からはおひさまが入ってきてとっても温かい。いや、ちょっと暑いくらいですね。
窓の外ではまだゆきがヒラヒラしている。
ぼくは知っている。お家の中はこんなに温かいのに、窓の外はとっても寒いってことを!
このお家に来てから学びました!
河原をお散歩してから、ママさんはぼくを抱っこしたままお家に返ってきた。
途中またキキちゃんに会ったけど、ママさんは少し早足でお家に帰った。
ぼくはママさんの胸の中でホクホクとしていたから、帰りのことはあんまり覚えていない。
でも、お家についてからは、お散歩の後恒例の足洗いが待っていて、あれが嫌いなぼくはやっぱりずーんってなった。
足を洗ってもらって、乾かしてもらったら、今後は足に色々塗られて、その後は全身ブラッシングとひんやりタオルで拭かれて・・・・・
ぼくはほとほと疲れて、このソファーに倒れ込んだんです。
あ、でもおやつはもらいましたよ。足洗いの後はおやつをしっかりもらうんです!
おやつをもらって、ソファーで日向ぼっこをして、気がついたら眠っていたみたいです。
そろそろお腹が減りましたね。でもママさんはあっちこっち行ったり来たりで忙しそうだから、もう少し日向ぼっこをしていましょう。
日向ぼっこに戻ったぼくは、窓の外をぼんやりと眺めていた。
ぼんやりしていると、ときどき背中のあれが無性に気になってくる。
まだあったんだってその時思い出して、少しずーんとした気分になる。
でも、足洗いよりはマシかもしれませんけどね。。。
「ゆきー窓のお外見てるのー?」
ママさんがぼくのところに来て声をかけた。ぼくはぼんやりタイムに入っていたので、ママさんの方は見ずに、そうだよ〜って雰囲気で答えた。
「ゆきはぼんやりと広いところを眺めるのがすきだねぇ」
ママさんはぼくの言葉はわからないのに、ときどき言葉にしていないことを読み取ったりするから、不思議なものです。
ぼくは心のなかで少しだけびっくりしたが、すっかりまどろんでいたので、やっぱり雰囲気だけで相槌を打った。
「もうちょっと楽しんでいてね。もう少ししたらご飯だから」
ママさんはそう言ってぼくから離れていった。少し離れたところで、あっちに行ったりこっちに行ったりしている雰囲気を感じる。
ママさんは本当に忙しない。
「やあ、ちょっと起きなよ」
突然、見知らぬ声がぼくに響いた!驚いて顔を上げると、窓の外に猫が座っていて、こっちを見ていた。
ななな、、、
ぼくは驚いたまま言葉に詰まってしまった。でもよく見ると、その猫はときどきこの景色の中を通り過ぎたり、寝転んだりしている猫だ。
この猫はいつもいつも突然現れてはいつの間にか消えている。ぼくも気にもとめていなかった。それに、声をかけて来たのは初めてだった。
「ねえ、聞こえてる?聞こえてるの?」
ワタワタと動揺しているうちに、猫はぼくにまた声をかけてきた。
少し困惑してしまっていたぼくは、息を整えた。
「こんにちは。そこで何してるの?お外は寒くないの?ぼくはさっきお外に行ってきたから、もういきませんよ」
猫は少し驚いて答えた。
「なんだ、聞こえているんじゃない!だったら、さっさと答えてよね。どんくさい」
猫が犬によく言いそうな言葉だったが、ぼくがそれを言われたのは初めてだった。
なんだか合点がいかないまま、その「どんくさい」がぼくをなんどもなんどもグサグサと貫いていった。
ぼくの頭がカッカしているのが分かった。こんなに怒ったのは久しぶりだった。
いつもママさんにも近所のみんなにも、かわいいかわいいって撫でてもらっているのに、この猫ときたら。。。。
ぼくは許せない気持ちで猫の方を見た。
「あ、怒った?やっぱり犬だねぇ。まあいいからおいでよ、君もそろそろこっちに来たほうがいいよ」
その時、湧き上がっていたぼくの頭の熱は、急に冷たくキーンとするくらい収まった。
こっちに来たほうがいいと言った猫は、ぐるりと向こうに振り返って、ぼくに背中を見せた。
猫には、ぼくと同じ、取っ手がついていた。