閑話 あるクラスメイトの呟き
オレはユーリク・ゲントナー 17才。昨年より王都の学院に通う準男爵家の次男だ。父は騎士団勤めの騎士で母は元伯爵令嬢、四つ上の兄はやはり騎士として王宮に勤めている。
身分的には貴族よりは平民の括りに入った方がかなりしっくりくる我が家から、何故金のかかる学院に通っているのか。それはオレには魔力があったから。因みに家族の中で魔力があるのはオレだけ。もし兄キに魔力が有ればどうしてたんだろうな?
父は元は平民から騎士になった人だった。なかなかに腕の立つ父は騎士団内でも順調に出世した。途中、街中で破落戸に絡まれた令嬢を助けて惚れられ、押し掛け婚され、娘可愛い伯爵の働きかけにより、爵位を賜るという幸運にも恵まれた。だからオレに魔力が発現したのはそんな血筋のお陰だろう。
いやいや、こんな話じゃなかった。
オレの通う学院には国内でも注目すべき人達が沢山通っている。王族は元より高位貴族に裕福な平民。隣国からの身分の高い留学生だっている。
そんな中、オレの学年には最も人々の注意を引く人がいる。
彼女の名はアリサ・ターナー。美しい銀髪の花のように微笑う美少女だ。
学院に入る前から噂は聞こえていた。平民に光属性の魔力を持つ者がいると。どうやら同じ学年らしいと知り、どんな子だろうと興味があった。入学したら期待通り、彼女と同じクラスになった。やった!クラスにあんな美少女がいるなんて、毎日目の保養だ!思わずガッツポーズで叫んだのは心の中でだが。
そう浮かれたのはオレ一人ではなく、クラスの男子全員だと思う。誰一人、抜け駆けは許さない。他のクラスの野郎共からの視線も半端ない。こうなったら彼女はクラスの皆で守り抜くぞー!
最初の頃こそお互い探り合うように会話を交わしていた女子達もいつの間にか仲良くなっていた。女子によくある派閥もない。…作る程女子の人数もないからな、うちのクラス。男子32人に女子6人てどーよ。
何より、アリサ・ターナーの人柄が一役買っているように思う。明るくて朗らか。大雑把な感じなのに、結構気遣いな所もあって、話の輪に入り損なった女子に話しかけたりとか、忘れ物届けたりとか?彼女がいると物事が何となくいい感じに廻る気がする。
あんなに美人でもそれを鼻にかけないし、希少魔力も自慢しない。こう言ったら出来過ぎた人みたいだけど、実際はちょっと違う。美人なのも希少魔力も気がついて無いんじゃないの!?と突っ込みたくなる位天然だ。魔法に関しては皆よりも劣ってるとさえ思ってるみたいだし。彼女は魔力量は少ないらしいし、魔力操作もはっきり言って下手だ。けれど魔力ってのは属性毎にクセがあって、同じ属性の先生がいないから彼女だけ指導が行き届かないんだから仕方ない。
彼女の銀髪は本当に綺麗で、最初の頃は後ろで一つに纏められていただけだった。だから括った先の長い銀髪がサラサラと流れるように垂れている様をオレ達はいつもうっとり眺めていられた。
所がある日を境にあの美しい銀髪が括った根元に巻き付けられるようになった。オレ達は残念すぎて溜息がでたけれど、それはとんでもない間違いだった。偶に何かの拍子に巻き付けられた髪がスルっと解けて流れる様は、銀の滝が畝るようで。慌て恥じらう彼女の様子ときたら…タイミングよく彼女の近くにいる時であれば、彼女の髪からほのかにいい香りまでして。御褒美ですゥ。くぅっ!
それがあいつ…魔法科のヴィクトルに見つかり、あんな縄みたいになって頭に縛りつけられてしまうとは。無念だ。
あいつは要注意人物だ。明らかに彼女に関心がある。やたらと話し掛けて色々と小言を言ってるみたいだ。魔法の授業中だって、若干だが他の生徒にあたるよりも馴れ馴れしい。だが奴は教師という立場で、彼女に近づこうとする他のクラスや他学年の生徒でオレ達では敵わない相手を陰で追っ払っているのも知っている。よってクラス総意の下、経過監視中だ。
そんな中、あいつは新たな手下を送り込んできた。るるだ。此奴はその小柄な体躯と円らな瞳と羽の下に忍ばせたもふもふでクラスの女子を全員(と言っても6人だが)を味方に付けた。男子の中にも落とされそうな軟弱者がいたが、そいつらにはヴィクトルの悪行を思い起こさせる事で難を逃れた。
だがしかし、るるは四六時中彼女に付き纏い、時には授業中であろうと無かろうと彼女の膝を独占している。くーっ!羨ましい!!いや、いやいや、だからと言って、自分が、とかそんなんじゃない。彼女はもう、同じ教室に居られるだけで、その姿を近くで見れて声が聞けるだけで、ありがとうって思うよ。
まぁなんだかんだでオレ達のクラスは楽しく一年を終え、全員(38人+1羽?)無事に進級し、二回目の文化芸術発表会を迎えた。
ーーー発表会当日ーーー
ステージの裏ではてんやわんやであった。
全員そろってるかー
後二人ー、まだ来ないー
衣装、不備ないかー
オッケー
ライト係、スタンバイは?
今から行きまーす
大道具、配置は?
いつでもー
小道具はー?
揃ってますー
「「ごめーん、遅くなった」」
来たきた、全員揃ったぞー!!
準備は整った。
各ライト係も定位置に着き、合図を待っている。
進行の案内が始まる。
チラリと奥に並ぶクラスメイトを振り返ると、丁度一人の女子が一羽の鳥に言い聞かせている所だった。
「ごめんね、るる。狭いだろうけど、この中で待っててね。終わったらすぐに出してあげるから」
そう話しかけているのはアリサ・ターナーだ。彼女は蹲み込んでじーっと相手の瞳を覗き込み、掌で頭を優しく撫でていた。
話しを大人しく聞いていた鳥ーーるるも、やがて納得したようで自ら用意されたケージの中に入る。扉を開けて待っている他のクラスメイトの目も同情的だ。
いや、でもな、あれはマズイだろう、あれは。出て来るキラキラ、全部食べちゃうんだぜ?ショーなんだから周りに振り撒かなきゃ意味ないし。練習と違ってステージはもっと広いし、お客さんも多勢入ったから遠目にも見えるようにしないと。
るるよ、堪えてくれーーー!
クラスの紹介と共に音楽が流れ、ショーが始まった。
水魔法を使った噴水ショーに風魔法を合わせて渦を巻いたりアクロバットしたり。次に花の妖精に見立てた人形を魔法で操りダンスさせ、そこへ可愛い動物達の幻影と共にキラキラした粒子が降り注ぐ。クライマックスだ。
ガッタン!
んん? なんか今音しなかった?
そう思う脇を何かが駆け抜けて行く。
気が付けばるるが舞台に突入していた。
なんでだーー?るるー、戻れーー!
オレ達の心の叫びなんぞ無視してるるはキラキラめがけてピョンピョンしてる。はは、あいつ食い尽くす気か?でもお客さんはこれもショーの一部と思ったか、生の鳥ダンスにわぁっと大きな歓声が上がって、舞台は滞りなく進んでいる。
よし、このままもう少し。皆頑張れ!
最後はキラキラ担当のアリサ・ターナーが自棄っぱちの様にキラキラを大盤振る舞いし出して……うっわ、女神だ、光の女神が降臨してる…。
大成功?に終わったショーに気を良くしてこの後皆で何か食べて帰ろうかという話しをしながら機嫌良く後片付けをしていると、建物の入り口から此方をじーっと伺っている奴らがいた。なんだ?生徒の父兄か?用事でもあるのかな。それにしちゃあ何だか怪しげ…。
そっと聞き耳を立ててみた。
「あれに間違いないな。」
「ああ、ここまで見に来た甲斐があった」
「これなら一石二鳥だ。早いとこ帰って……」
後は移動したようで聞き取れなかったが、一体何の話だったんだろう。
お読みいただきありがとうございました。